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想像以上に重たい話を聞いて言葉を失っていると、神田さんが私の肩をぽんぽんと叩いた。
「変な話してごめんね。どこまで本当かはわからないし、気持ちのいい話じゃないから田中さんには今まで黙ってたんだ。」
「いえ、聞けてよかったです。ユユラさんが不安になってたの、ただのマタニティブルーかもなんて思ってたけど全然違ったんですね。わかってあげられていなくてごめんなさい…」
「そんなことないわよ。いっぱい話も聞いてもらって励みになったし、色々頑張ってこうして人工魔管まで作ってくれて…キヨコさんにはどれだけお礼を言っても足りないくらいだわ。」
そう言ってユユラさんはまた少し涙ぐむ。
「俺は安田さんの気持ちもわかるんだよ。自分の大切な物のためなら、何かを犠牲にしても…って。でもこの気持ちはたぶんユユラとかこの世界の人はわからない物なんだと思う。」
「そうですね。私も安田さんの気持ちは理解できなくはないです。」
実際に行動に移すかどうかは別として、安田さんの気持ちはわからなくない。それだけ奥さんと子供を大事に想っていたのだろう。
純粋に悪い人だったのだとは思えない。
私達は他人の犠牲の上に成り立ったものでも受け入れて幸せと感じられるかもしれないが、この世界の人にとってはそれは幸せには繋がらないのかもしれない。
もしかしたらミイちゃんは安田さんについて何か知っているかもしれないから、あとで聞いてみよう。
考え込んでいると、「ただいまー!」と元気よくルナちゃんとソラ君とミイちゃんとアオが泥だらけで帰ってきた。
「もうー!こんなに汚して!」
ユユラさんが双子の顔やミイちゃんとアオの足をタオルで拭うのを見ながら私は少し複雑な感情にそっと蓋をした。
気を取りなおすように笑顔を作って立ち上がる。
「川沿いのカフェでピザを買ってきたから、温めてみんなで食べようか!」
「「「「はーい!」」」」
すっかり使い慣れた神田家のキッチンに立ち、私はお湯を沸かしながらオーブンにピザを入れた。
ユユラさんの出産が近いので、最近は神田家に来る頻度も多くなり、家事もなるべく手伝うようにしているのだ。
ミイちゃんとアオも私が仕事の時は神田家にきていることが多い。
たまにマイも来るらしいのだが、相変わらず私は遭遇できていない。
料理をテーブルに並べていくと双子がお行儀よく椅子に座った。
去年の今頃はまだすごく小さかったソラ君も、だいぶルナちゃんと変わらなくなっている。
2人とも一年ですごく成長したなとつくづく思う。
1番成長したのはアオだけどね。
私もいつかは家庭を持って子供を産むことができればいいなとは思うけど、今の生活が満ち足りていて変えようという気が起きないのも事実だ。
もう33歳になるし、もしかしたらこのまま独り身かもなぁ…
ちなみにピザはサラミとドライトマトのピザでとっても美味しかった。




