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病院のお手伝いを終えた後、私は神田さんの家へと向かった。
人工魔管が使えるかもしれないと報告するためだ。
研究を王都でしてきている事などは伝えてあるが、先走って期待だけさせて、やっぱりダメでしたというのが1番嫌だったので、詳しい話は出来ないでいた。
ようやくいい報告ができるのも嬉しいし、それがユユラさんの出産に間に合ったのは奇跡のようだと思う。
2人の日頃の行いがいいからかな。
この世界の人たちはみんな日頃の行いがいいんだけどね。
「…と、言う訳で、ハッシ先生も使えるんじゃないかと言ってましたし、万が一の時のお守りがわりですが、イーサンに現物も持ってきてあります!」
私が意気揚々と宣言すると、神田さんとユユラさんは2人してハラハラと涙を流し始めた。
「キヨコさんっ…本当にありがとう。」
私の手を両手でギュッとつかみ涙を流す2人を見て、私はものすごく動揺した。
そこまで2人が不安に思っているとは考えていなかったのだ。
今回の研究もほとんど自分の好奇心で関わったような物で、絶対にユユラさんの出産に間に合わせてどうにかしようという決意までは持っていなかった。
「お、落ち着いてください。ソラ君は生まれた時大変だったと聞きましたけど、魔管欠損なんて本当に稀な病気だっていう話じゃないですか。
そこまで心配しなくても大丈夫だと思いますよ?」
神田さんは少し考えた後、ためらった様子で口を開いた。
「田中さんは、知らないと思うんだけど、ていうか、ほとんどの人は知らない事なんだけど…
俺の前の渡り人は、もう亡くなってるって話したよね?」
「…はい。」
ちょっと深刻な話になりそうで背筋を伸ばすと、神田さんが静かに話し始めた。
「俺もソラが病気を持って産まれてから色々な伝手を使って調べた話だから全てが真実かはわからないんだけど…」
神田さんの話は驚くべき物だった。
この世界の渡り人で家庭を持って子供を作る人は少なくないのだが、生まれた子供の役半数が魔管欠損で亡くなっているのだそうだ。
ソラ君のように一部欠損でなんとか助かる場合もあるが、完全欠損だった場合に助かった子はいないらしい。
渡り人自体10年に1人しかいないのだから、その子供といってもそれほど数はいないので、偶然と言ってしまえばそれだけだし、それが公に取り沙汰されることもなかったという。
神田さんの前の渡り人(安田さんというらしい)もこちらの世界に来て3年目に結婚をして子供を授かったそうだ。
元々奥さんは魔力の弱い人だった事と、妊娠が影響して、妊娠中に魔管が詰まってしまったらしい。
妊娠中に手術をするとしたら胎児を諦めなくてはならないと言われた奥さんは、なんとか出産まで頑張って、子供が生まれてから手術をする決心をしたそうだ。
魔管が詰まった影響なのか、奥さんの衰弱は激しく、ようやく出産には辿りついたものの子供が生まれると、産後まもなく亡くなってしまったのだとか。
安田さんは奥さんの忘形見の子供と生きて行く決意をしたが、そこで不幸にも子供の魔管欠損が発覚してしまった。
医者に子供は長生きできないと説明を受けたが、納得できない神田さんは方法を模索して、魔管の移植の可能性にたどり着いたそうだ。
そうは言っても魔管は1人1本しかない物だし、子供のドナーなどそうそう見つかるはずもない。
どんどん弱っていく子供に焦った安田さんは、近所で生まれたばかりの子供を1人誘拐し、医者をナイフで脅して病院の手術室に立てこもった。
安田さんは医者に手術をするように迫ったが、医者は、他者の命を奪ってまで子供の命を繋ぐのは間違っている、それをするくらいなら自分が殺されても構わないと頑と首を縦に振らなかった。
そんなやり取りの中、安田さんの子供は息を引き取り、それに絶望した安田さんはナイフで自分の首を掻き切って自死したのだそうだ。
医者と誘拐された子供は無事保護されたが、この世界ではかつてなかったような、誘拐、立てこもり、脅迫という罪が犯され、犯人が渡り人で、既に亡くなったということもあり、この事は世間から隠されることになったのだとか。




