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ナムルさんに品評会の話をしたところ、最初は僕なんて、と尻込みしていたが、ナムルさんの技術と将来出来上がるであろう作品の素晴らしさをひたすら語り続けてようやく引き受けてもらうことができた。
「うち、しがない瓶工場なんだけどな」と社長はぼやいていたけど、気にしない気にしない。
やりたい事を遠慮せず主張できるようになったのも、この世界にかなり馴染んできた証拠だろう。
この世界の人達は本当にみんな包み込んでくれるような優しさがあって、こんなこと言ったら嫌われるかも、とか、影で何を言われるか、とか気にする事が全くなくなった。
みんなダメなことはダメ、嫌なことは嫌とその場で言ってくれるし、一緒に改善策を考えてくれる。
誰かが成功を納めた時も素直に喜び、自分も頑張ろうとはするが、あいつだけずるいとか足を引っ張ってやるみたいな感じになる人はいない。
神田さんの言っていた悪意のない世界っていうのが少しわかる気がする。
そうこうしているうちにミルヒさんから手紙が届いた。
手紙には人工魔管が一応形としては出来上がり今は耐久試験をしている最中だということや、あの後ネモフィラ亭にちょくちょく食事をしに行くようになったこと、スピーチ練習によって吃音が軽くなったこと、人工血管も私の残してきた基材で研究を進めていよいよ臨床で使用することになったなどということが書いてあった。
ちなみに手紙の半分はリンドさんの話で埋められており、私が王都にいた時に感じたキャッキャウフフの予感は的中しそうだ。
ミルヒさん、頑張って!
ユユラさんの出産も予定日をひと月きった。
相変わらず元気な様子で、一時期見せていた不安は見られないから、あれはマタニティブルーとかだったのかな。
その前に一度王都に行って、一応研究室を見てきたいなと思っている。
今回の出産で人工魔管が必要になることなんてないだろうけど、せっかく自分が関わった物だし、念の為もあるし。
王都までは片道18時間なので行き帰りだけで丸2日、滞在を考えるとやっぱり最低4日くらいは必要になる。
ミイちゃんやアオはマリさんの家(異世界の異世界?)を起点に一瞬で移動できるそうだが、私はだめなのだそうだ。
異世界チートみたいな能力があればよかったのだけど、基本何もない。
ミイちゃんもアオもすごい魔法を使うわけでもなく、ただのんびり暮らしているし。
飛び抜けた能力がなくても困らないので、何もなくて幸せでいられるのは逆にチートだなとも思うけど。
思い立ったが吉日と、私は王都に行く準備をして、来週の休日を取り付けた。
久しぶりのネモフィラ亭のご飯を食べられるとあってミイちゃんとアオは浮かれ気味だ。
ハッシ先生も一度研究室に行きたいと言っていたが、長期間病院をあけるわけにはいかないので断念していた。その代わり、人工血管と人工魔管のサンプルがあったらもらってきて、と言われた。
もしそれなりのものができているようなら、ユユラさんの出産に備えてサンプルどころか現物を確保してくる予定だけど。




