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翌日、私は意気揚々と社長室のドアを叩いた。
「たのもー!」
「キヨコさん?気合い入れてどうしたのさ。」
「社長!これ見てください!」
私はナムルさんの作ったガラスのサイコロを社長の目の前に突き出した。
「お、おう。ちょっと俺老眼だから近すぎると見えないんだけど…」
社長が手に取ってしげしげとサイコロを眺めている横で私は熱く江戸切子への想いを語った。
「ナムルさんがここまで作ってくれたんです!これはもう製品化まっしぐらですよ!すごく綺麗に彫れていると思いませんか!?しかも、グラスだけじゃなくてインテリアとしてこういう形のものもありだと思うんですよ!」
「まあまあ、落ち着いて。
確かによく出来てるなぁ。あいつ器用だもんな。
前にも言ったと思うけど、技術とコストが問題なんだよ。技術はこのまま磨けばいい線行くだろうけどコストはどうする?
儲からない物は商品には出来ないのはわかるよな?」
「そ、それはわかりますけど…でも!こんな素敵な物世に出さないのはもはや罪ですよ!
高値設定にして、すんごいお金持ちな人相手の限定受注生産にしたらどうにかならないですかね?」
「その場合の問題はどうやってこの商品をそのすんごいお金持ちな人達に知ってもらうかになるけど…
うーん…注文来なきゃ作れないだろ?」
「なんか方法ないですかねぇ…?」
しばらく2人でウンウン唸っていると、「来年の品評会に出してみたらいいんじゃないですか?」とドアの方から声がした。振り向くと工場長のカランさんが静かに佇んでいる。
「カランさん、いつからそこに?」
「結構最初からいました。2人とも真剣に話し込んでいたので、声をかけるのもなと。」
「えぇ…」
カランさん、存在感が…
「品評会、いいかも知らんな。」
社長が顎をこすりながら手のひらの上でサイコロを転がした。
「確か品評会は来年の2月のはずですから、まだ申し込みは間に合うはずですよ。後5ヶ月でそれに見合うものが作れればですけど。」
「ちょっとナムルと相談してみるか…」
聞くと、品評会は王家主催の由緒正しい物で、芸術家達の登竜門と言われているのだとか。
絵画や彫刻など分野は問わず、そこで入賞すると新聞にも紹介されて一躍有名になるらしい。
カットグラスや陶器の会社が出展する部門もあるとのことで、そこに申し込んでみてはどうかとのことだった。
ナムルさんは彫刻を学んでいたと言っていたし、芸術に造詣が深そうだ。
これはもしかしたらもしかするかも、と期待が膨らんで爆発しそうだ。
「絶対!いいと思います!いける気がします!」
「だから落ち着けって。」
ナムルさん、こんな繊細な技術を持ってるんだ。
あの時の怪我の後遺症がなくて本当に良かった。
ハッシ先生がいてくれてよかったよ。
私は次の病院のお手伝いの時にはハッシ先生に差し入れを買って行こうと心に誓った。




