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そうして私通常の生活に戻った。
工場で時々ガラス吹きを教わりながら働き、週一で病院のお手伝いをし(工場の勤務を少し減らしてもらった)、休みの日はミイちゃんやアオと街を歩いたり、神田さん一家とピクニックに行ったり。
ひと月も過ぎると王都での2ヶ月が現実ではなかったような気がしてくる。
先日、ミルヒさんやリンドさんにお手紙を出したが、まだ返事は来ない。
今日はお休みなので街のアクセサリー屋さんに行く予定だ。
アオのアンクレットのチェーンがパレードでの成長で千切れてしまったため、イーサンに帰ってきてからアクセサリー店に行き作り直してもらっていたのだが、それが出来たと連絡が来たのだ。
アンクレットはアオがまだ手のひらサイズだった頃に作ったものなのでプラジオライトとローズクォーツもなんだか相対的に小さくなってしまって淋しい感じが否めない。せっかくなので、ちょっと手を加えて、昔のアオの綺麗な羽と同じ色の青いジルコンが雫型にカットされたものをアクセントとして足してもらったのだ。
アクセサリー店に行く途中にあるカフェに寄って朝食をとることにする。
私はパンケーキとコーヒー。ミイチャンはキノコのキッシュと梨のジュース。アオは苺のタルトを注文した。王都の食べ物もとても美味しかったがイーサンも美味しいものがたくさんある。
「キノコも美味しいけど、キヨコの作るカボチャとさつまいものキッシュの方が私は好きだなあ。」
ミイちゃんがハムハムしながら言ってくるので、抱きしめたくなる。
私の料理が美味しいっていうよりは、ミイちゃんは芋栗南瓜が好きなだけだけど。
女子味覚だよね。
私ももちろん好きなので、その辺のレパートリーはかなり豊富だ。
今度栗のパイでも作ってあげよう。
そんな事を考えていると、キヨコさん、と声をかけられた。
顔を上げると、ナムルさんが立っている。
「ナムルさん、おはようございます!今日のお仕事は?」
「今日は遅番だからこれから向かうところだったんだけど、キヨコさんを見かけたからこれを渡そうと思って!」
ナムルさんはカバンの中から何かを取り出して私の目の前にコトンと置いた。
「…!これは!どうしたんですか!?」
「キヨコさんに相談されてからずっと練習してたんですよ。それっぽくなってきたでしょ?キヨコさんのメールボックスに入れておこうと思ってたけど直接渡せてよかった!」
ナムルさんが取り出したものはサイコロ型のガラスの塊。
そこには綺麗な切子模様が刻まれていた。
「すごい!すごいです!!ナムルさん天才!!!」
「へへっ。僕大学で彫刻やってたんですよ。」
「おお〜!!!ナムルさんを頼ってよかった〜。」
涙目になってナムルさんの両手を掴みブンブン振り回すとナムルさんはちょっと照れて赤くなっていた。
この調子でいけばグラスに切子模様を刻む日も近いのではないだろうか。
夢のグラスが近づいてきたのを感じる。
明日社長にこれを見せてまた相談してみよう。
私はナムルさんにもらったガラスのサイコロを大事に鞄にしまった。




