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神田家にお土産を渡した後は、ハッシ先生に会いに病院へと向かった。
アオは連れて行けないので先に家に帰ってもらう。
森に遊びに行くといっていた。
病院についてまずハッシ先生の部屋を覗いたが、不在だったので病室を回ってみる。
流石に2ヶ月経つと患者さんはみんな入れ替わってしまっているが、職員の人達は笑顔でおかえりと言ってくれた。
ユユラさんに言われた時にも思ったが、「ただいま」とか「おかえり」とか、何気ない挨拶に自分の居場所を感じて嬉しくなる。
ハッシ先生は入院患者さんの処置中だったので、とりあえずそれを手伝って、診療が落ち着いたところでお土産を手渡した。
ハッシ先生へのお土産は、王都限定のサイダーとネモフィラの押し花でできた栞、王立公園で買った金平糖だ。病院の皆さん用に大量のパイの詰め合わせも買ってきた。
「おや、ありがとう。お礼に美味しいサイダーをご馳走しますよ!ちょうど休憩しようと思ってたので。王都での話しを詳しく聞かせてくれますか?」
ハッシ先生の部屋へ行き、いつものサイダーをご馳走になる。
ハッシ先生はいつも忙しそうにしていてお昼ご飯を食べる暇もないことがほとんどなので、ちょっとつまめる甘いものやサイダーで凌いでいるんだろうと思う。もう少し休んだら良いのにと思うけど、できない性分なのだそうだ。
泳いでないと死んじゃうマグロタイプの人っているもんね。
「王都はどうでしたか?魔管の研究はできましたか?2ヶ月程度じゃ難しかったとは思いますが…」
私は研究室での話をハッシ先生に詳しく話した。
「なるほどねぇ。
短期間ではあり得ないくらいの進展を見せたんですね。素晴らしい!
この研究が成功したらたくさんの人を助けることができるでしょう。
私達にとってあって当然のものがキヨコさんの世界では存在しなかったからこその着眼点ですね。
渡り人が来た時代には大きな発展がある事も珍しくないといいます。
そういうことなんでしょうねぇ。」
「私にはわかりませんが、良い方向に進むと良いなと。」
「大丈夫ですよ!ミルヒはああ見えて優秀なので。」
「ああ見えてって…ミルヒさんには本当にお世話になったんですよ。ハッシ先生、同級生っておっしゃってましたもんね。」
「そうですよ。あいつは天才肌だから、吃音の事がなくても研究に進んでいたんじゃないかなぁ。」
「頭がすごく良いですもんね。臨床も大事だけど、ミルヒさんみたいな人達が医療を発展させていくんでしょうね。」
「ユユラさんの出産までに良いニュースが届くと良いですね。」
「本当に。でもさっきユユラさんに会ってきたんですけど、すごく元気そうでなんか心配いらない気がしてますけどね。」
「問題ないのが普通ですから。大変な事ではありますが、昔に比べたらずっと安全になってますよ。魔管欠損なんてそうそう生まれないですしね。」
「そうですよね。ところで来週からまた病院のお手伝いもさせていただきたいんですが、大丈夫ですか?」
「もちろん大歓迎です!キヨコさんがいなくなってもう大変でしたよ。バイト代も出すので回数増やせませんか?」
「うーん。ありがたいお話ですけど、工場と相談してからお返事させていただきます。」
「良い返事を期待していますよ。」
病院を出て家に向かうバスに揺られていると、やっとイーサンに帰ってきたんだという実感が湧いてきて、私はホッと息を吐いた。




