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「今日のメイン料理だよ!」
女将さんがローストされた大きい肉の塊の乗ったお皿を運んできた。
ベリーのソースがかかっていて、マッシュポテトとニンジン、カリフラワー、インゲンのソテーが添えられている。
「今日は良い熊肉が手に入ったんだよ。ラッキーだったね。」
熊肉!?熊って森のくまさんのクマだよね?
びっくりして女将さんを見上げると、「食べたことないのかい?」と熊肉の説明をしてくれた。
この熊は隣街の山で仕留められたということだが、そこのクマは木の実や果物をメインで食べているので肉質が柔らかく、臭みもないのだとか。
王都でも良い熊肉はなかなか手に入らず肉の王様と呼ばれているらしい。
ナイフを入れると結構弾力があり肉の繊維が太くてゴツい。中心は綺麗な赤色で脂はほとんどないように見える。
最初は牛肉かと思ったけど、確かにこうしてみると違いがわかる。
ソースに絡め、恐る恐る口に入れると、肉汁が口の中いっぱいに広がり、ベリーの酸味と甘味が絡まって力強い味ながらもさっぱりしていてくどくない。
臭みは全くなく、まさに肉食べてます!という感じだ。
これは絶対赤ワイン似合うやつ、と、赤ワインを注文してみんなでまた乾杯する。
何度も何度も乾杯してお腹もいっぱいになり、落ち着いたところで、リンドさんとミルヒさんがプレゼントとネモフィラの花束を渡してくれた。
リンドさんからは白い犬と青い鳥のキーホルダー。
綺麗な色に染まった皮で作られていて、ミイちゃんとアオの特徴がよく捉えてある。
金具の所に"ネモフィラ亭"と書かれた小さなタグもついていて可愛らしい。
「これ、私が作ったの。アオはもう白い鳥になっちゃったけど…」
作ってる時はきっと青かったもんね。
わかってるよ、リンドさん。
ミルヒさんからはネモフィラの花の形のクッキーの詰め合わせ。箱には国旗の絵が描かれていて、ナッツをふんだんに使った青いクッキーは王都の高級菓子店の限定品だそうだ。
「こ、これは、ぼ、僕と研究室の、み、みんなから、か、感謝の気持ちです。」
「ミルヒさん、リンドさん、ありがとうございます。私からもプレゼントがあるので、受け取ってください。」
私はポケットから小さな包を取り出してひとつずつ2人に手渡した。
包の中には、イーサンの名産のあの綺麗なガラスでできたペーパーウェイトが入っている。
おはじきのような球を潰したシンプルな形だが、それが余計に色の鮮やかさを際立たせていて、とても良いものだと思う。
買ったのは王都でだけど、イーサンのものをプレゼントしたくてパレードの後にあちこち探したのだ。
「あ、ありがとうございます!」
「すごく綺麗!」
2人は光にかざして嬉しそうにペーパーウェイトを眺めている。
「私が働いてるイーサンの工場でもすごく素敵なグラスとか作ってるの。今はまだ無理だけど、いつか私が1人で何か作れるようになったらその時またプレゼントさせてね。」
「えっ。き、キヨコさん、ど、ドクターじゃ、な、ないんですか?」
「違いますよー。ハッシ先生のところにはお勉強で行ってるだけです。仕事は瓶工場で、そこでガラス製品も作ってるんです。」
「いつかキヨコさんが仕事してるところ見に行きたいな。」
「まだ掃除とか製品チェックとかばっかりだから!」
「掃除ならお手伝いするわよー。」
「あはは。それはありがたいわ!」
「ぼ、僕も、イーサン、に、い、行きます!」
「2人でぜひ来てください!」
王都の最後の夜は、とても楽しくて、ちょっと寂しくて、すごく幸せに過ぎていった。




