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ミルヒさんの話を聞くと、この会社で取り扱っている人工臓器とは厳密にいうと人工ではなかった。
牛や豚などの動物の臓器を人が使える物へと加工していると言っていた。
魔法を使える動物はおらず、魔臓や魔管は人間特有の臓器のため、それらは動物から加工することができないため、いちから作り上げなくてはならない。
素材として形状が似ている血管やリンパ管を使用してみたが、すぐに詰まったり裂けたりして使い物にならなかったそうだ。
血管と魔管の組成も調べてはみたものの基本的には
、たんぱく質・脂質・糖類の他はカルシウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、鉄、銅、リン等とどちらも変わらなかったとのこと。
弾力や伸縮性は血管の方が若干大きいようだ。
大きな違いがわからないからこそ人工魔管の製造は行き詰まっていると考えられる。
なぜ詰まるか、なぜ裂けるか、それが問題だ。
私は来月の建国祭までの間、この会社の研究室に参加させてもらえることになった。
普通であれば不可能だと思われる事も渡り人であると言うだけでかなりの融通を利かせてもらえるのは本当に有難い。
邪魔にしかならない私を受け入れるのは面倒でしかないだろうに、ミルヒさんは嫌な顔もせず
「あ、新しい視点が入るこ、事で、発見があれば、わ、私達の為にもな、なりますから!」
と言ってくれる。
研究なんて大学生の頃の実習位しか経験はない。
大学院に行っておけばよかったと後悔しても今更なので、自分で出来ることをしようと誓った。
研究室に案内してもらうと、そこは厳密に管理されたクリーンルームになっていた。
帽子と手袋をつけて防護服のようなものを来てからエアシャワーを浴びて二重の扉から中に入る。
様々な機械が並んでいて顕微鏡を覗いたりベンチレーターで何かしらの作業をしてる人が10人くらい働いている。
私は早速自己紹介をして、まずは環境に慣れるために業務のお手伝いをさせてもらうことにした。
今日の私の作業は豚の血管を1ミリ四方に刻み、専用の薬液に付けて分離させてから内皮を取り出して培養するというものになった。
今は動物の血管を加工してそのまま使っているが、やはりサイズなどの問題で適応できない場合があり、培養により人の細胞から血管を作ることができれば、調整がしやすくなる上により安全で副作用も出にくいものにできるのではないかという考えに基づいているそうだ。
すでに皮膚や角膜や毛根などはこの方法が確立されているそうなのだが、血管は内皮の他に内膜、中膜、外膜を組み合わせなくてはいけないので大変らしい。
そうは言っても血管の培養もほぼ最終段階で、今は動物に移植して経過を観察するところまできているのだとか。
今日の私の作業はこの豚に移植する血管の製造の一部分ということになる。
久々に顕微鏡を見ながらのピンセットを使用しての作業に集中しているとあっという間に時間が過ぎて終業時間になってしまった。
私は「明日もよろしくお願いします」と挨拶をして、急いで宿に向かう。
ミイちゃんとアオは王都にきて初めてのお留守番だ。
退屈してないか、寂しくなっていないか、実は作業中も時々頭をよぎってしまっていた。
正直に言うと、離れている時間は私はちょっと寂しい。




