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マリさんが言うにはここは異世界に行くための心の準備をするための場所的なものらしい。
「これからあなたが行く予定の世界は、ジャンバル王国という国なの。
異世界っていうと中世ヨーロッパ的な文化の発展がまだ未熟な場所って思う人が多いけど、数年に一度地球から人を招いて色々と活性化を図っているおかげで、普通の生活とさほど大きな違いはないと思うわ。
トイレも水洗だし、調味料も色々あるし、ご飯も和洋中揃ってる。
違いがあるとすると、魔法とか魔力の存在が1番の違いかしら」
「魔法!それはすごいなんか異世界って感じですね!
私もその世界に行けば使えるようになるんでしょうか?」
「それは人によるからなんとも…
使えるようになる人もいればならない人もいるのよ。
持って生まれたものっていうよりは慣れと訓練次第みたいよ。」
そんなものがあるなら、使えるようになりたいと思うのが人間ってもんだろう。
箒で空とか飛べたら嬉しいな。
花を咲かせたり虹をかけたり自由自在にできたらすごいな。
でもそんなことより気になる事がまだまだある。
「ところで私はどうして選ばれたんですかね?なんか使命的なものとかあったりするんですか?
あと、元の世界に戻れる事はあるんでしょうか?」
「ここに人が来るのは10年に一度。
東北に小さなお寺があるんだけど、そこの蓮の花がその年初めて咲いた日に、ランダムに選ばれているのよ。ただいくつか条件があって、親兄弟のいない人でその日に亡くなる運命だった人が選ばれるの。
そういう人の方が同意を得られやすいから。
あなたはもう一つの世界に行ってもいいし、元の世界に戻ることも今の状況では可能なのよ。
ただ戻ったとしてもその日のうちに死んでしまうのは変えられないの。」
「死ぬ運命…」
「あなたは脳出血が原因みたいね。」
脳出血エリート家系すぎるでしょ…
去年の脳ドック25000円もかけてやったのに!
とはいえ、身内が若くして次々と死んでいったから、私はなんとなく他の人よりも死ぬ事について身近に感じていたような気がする。
明日死んでも後悔しないようにっていうのが行動の基本にあった。
そうはいってもまだまだやりたい事はあったから後悔がないなんてわけではないけど。
明日から上野でやるゴッホ展も見に行きたかったし、秋に公開予定のハリウッド映画も楽しみにしてたし、結婚もしたかったし、子供も産みたかった。
まだと友達と遊びたかったし、こないだ告白された後輩とお付き合いしてみようかなと思ってたところだったし。
でも戻って1日しか猶予がないなら異世界に行く一択だよね。
3年くらい生きてられるなら、かなり迷うけど。たぶん。
「特に使命なんてないのよ。
世界に小さな変化をあげる事で何か変わることもあるし変わらないこともある。
今までの人達も積極的に動く人もいればそうじゃない人もいたし。
好きにしていいの。
どうなるかわからないことを見てみたいと思う遠くて偉い存在がこういうシステムを作り出したのね。」
神様の暇つぶしってことかな?