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工場に着くと、今日は機械は稼働しておらず、職人さんたちがガラスを吹いてグラスを作っていた。
この国はジャンバル王国という名前から判るように王様がいて、王様の血筋に連なる家系が貴族と呼ばれている。
王様が中心となり、国を運営する組織である議会と協力しながら政治を行うのだそうだ。
議会を構成する議員には一般の人も貴族もいて、5年に1度選挙が行われて選ばれるのだとか。
王様のいる街はフリュードといい、私の住む街の何倍もの規模で人口も多く、大層発展していると聞く。
もう少し落ち着いたら一度観光に行ってみたいと思っている。
私の住んでいる街はイーサンという名前で、この国の中では中位の大きさらしい。
もう少し小さい街になると、街全体で農業だけをしていたり、ひとつの工場でみんなが働いたりしているそうだ。
このイーサンには特産品がある。
街の外れの鉱山で取れる染料だ。
王国ではここでしか取れない染料で、パパラチアサファイヤのような光の加減でオレンジともピンクとも言える絶妙な色味を出すことができる。
染料自体は各地に出荷されていて使うことができるのだが、やはりお膝元のこの街で作られたものがひときわ発色が良いと評判が高い。
今日は王国に納品するための、その染料を使ったグラスを作っているのだ。
ひとつひとつ職人さんの手作りなので廃棄品などを見極める必要はなく、職人ではない私達の仕事は、材料の補充や出来上がった商品を入れる特別な布張りの箱を作る作業になる。
時々職人さん達の方を見ると、その手際の良さやグラスの美しさにうっとりする。
いつか買いたいが、給料一月分くらいの値段がするので今はまだ手が出ない。
片付けも終わり終業時間になったので帰る準備をしていると社長に声をかけられた。
「キヨコさん、この間は本当にありがとう。これ、ちょっと色抜けして売り物にならないやつで申し訳ないんだけど良かったら使わないかい?」
社長の手には先ほど見ていた綺麗な色のグラスが持たれている。
「えっ!いいんですか!?使います使います!すごく嬉しいです!!」
駆け寄ってグラスを受け取りじっくり眺めると、底の方にわずかな色抜けはあるものの、電気に翳して見るとキラキラ光ってとても美しい。
「うわ〜…素敵ですねぇ…
いつか自分で買えたらなってずっと思ってたんです。」
「そうかい。喜んでくれたなら何よりだよ。大事に使ってやってくれな。」
社長は照れくさそうに笑って帰って行った。
私もそのグラスを何重にも布で包んで両腕の中に抱きかかえ、転ばないように気を付けながら帰路に着いた。




