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社長に連れられてきた病院は二階建のさほど大きくない建物だった。
建坪で50坪くらい。
小さくはないけど大きくもない。
クリニックよりは大きくて総合病院よりは小さい。単科の病院くらいの大きさだろうか。
社長と私で両脇を抱えるように従業員(ナムルさん、31歳男性だそうだ。私はその日初対面だった)を病院に運び込んだ。
「ベルトコンベアに巻き込まれてデグロービングです。指先は動くし感覚もあるので神経は大丈夫そうだし阻血もないと思います。骨折はあるかも。」
「でくろ…?そけつ?」
出てきたドクターは白髪混じりの小柄なおじいちゃんで、私の説明はイマイチ通じていない様子。
言葉は通じていたが専門用語には違いがあるのかと思っても、どのように言い直していいのかすぐに思いつかない。
「皮ベロンで神経と動脈は繋がってるっぽいってことです!」
「あぁ、なるほどね。すぐ処置室に運んで観ましょう。あなたは看護師か何かですか?」
私が渡り人で、前の世界では医者だったことを話すとドクターは目を丸くして手伝いを頼んできた。
処置は早い方がいいだろうし、今日が初対面とはいえ同僚だ。
この世界の治療にも興味があった私は速攻で同意して一緒に処置室へと入らせてもらった。
ナムルさんは少し落ち着いてきたのか顔色は良くなったが、痛みが強くなってきたらしく、時々低く呻いている。
処置室には前の職場で見慣れたモニターのようなものもあり、棚には薬のアンプルがならんでいた。
看護師さんが手慣れた様子で心電図や血圧計をつけて測定していくと同時に、ドクターは布を剥がして傷の確認をしていく。
「あなたの世界でこれはどういう治療がスタンダードですか?」
私に聞きながらドクターが傷に水をかけると、ナムルさんがギャッと叫んだ。
「洗浄、デブリして縫える皮膚は縫って、皮膚足りなかったら全層移植ですね。あとは骨折あったらピンニングですかね。
てかすごい痛がってるけど麻酔とかしないんですか?」
「だって、こんな傷に麻酔の注射しても意味ないでしょう?全身麻酔はここでは出来ないし。」
なるほど。
麻酔薬はあるけど神経ブロック的な考えはないのか、あってもこの先生はできないのか。
「私、そっちの専門だったんでやってもいいですか?局所麻酔の薬ってありますか?」
通常だったら絶対ダメなやつだろと思ったが、流石におおらかな異世界、ドクターは私に麻酔薬と注射器をくれた。
「これ、どういう薬ですか?」
「切り傷縫う時に傷の周りに注射して痛みとるやつだよ。2時間くらいは効き目ある。そんなに身体に害はないと思うけど、大量に使うと中毒症状が出ることがあるよ。」
「大量ってどのくらい?」
「この人だったら70ccくらいかな」
「中毒症状っていうのは?」
「興奮状態になったりひどくなると痙攣したり失神したりする」
「わかりました。じゃあ20cc注射器に吸ってもらっていいですか?
針は短いので大丈夫。その隣の細いのでいいです。消毒のアルコールかなんかありますか?」
看護師さんは優秀なようで指示に従って素早く動いてくれる。
銀色の缶に入っている濡れたコットンを渡されて、私は手に空気を纏わせてからそのコットンでナムルさんの首筋を消毒した。
本当はエコーとか使って確認しながらのほうがいいんだろうけど、その辺に見当たらないし緊急事態だ、と私は腹を決めた。
首の横の筋肉を慎重に探った後、針を1.5cmほど刺して麻酔薬を全量注入してから膨らんだ首筋をギュッと圧迫した。
その間もドクターはじゃばじゃば傷を洗っている。
「あ…痛くなくなってきたかも…」
小さくつぶやいてナムルさんはほーっと息を吐いた。
痛いと息止めちゃうよね、わかるわかる。
こちらの世界の人も基本的な身体の作りは同じだったようで一安心。
あとは傷の処置だ。




