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緑の屋根の服屋さんは300メートルほど歩くとすぐに見つかった。
この辺りは白い壁に朱色の屋根の家が多いので緑の屋根はちょっと目立っているし、店前の道路に面した外の部分にもスカーフやカバンなんかの小物が吊るしてある。
ドアは開けっぱなしになっていたのでそこから声をかけると店主と思しき男の人が愛想よく出てきた。
「すみません、こちらに渡り人の方がいらっしゃると聞いてきたのですが」
馴染みある日本人顔だし、前々回ということは20年前に来た人だし結構年配なのだろうと丁寧な感じで尋ねると、案の定その男性は
「はいはい。僕ですよ。何か御用でしたか?」
と愛想笑いを引っ込めて首を傾げた。
「はじめまして。
私は昨日日本からこちらに来た田中キヨコと申します。
こちらに前々回の渡り人の方がいらっしゃると聞いたのでお話をしたくて伺いました。」
最初の印象は大切だろうと少し深くお辞儀をすると男性は驚いた顔をしながら一度お辞儀を返してくれて、ほうっとため息をついた。
「僕は神田ほくと。
七星って書いて北斗って読むんだ。
それにしてももう次の渡り人がくる時期になったのかー…
年もとるよなぁ。
でも来てくれて嬉しいよ。
そのためにここで店をやってるようなものだから。
狭いけど中にどうぞ!」
若干キラキラネームの神田さんはスルッと体を引いて私とミイちゃんを服屋の中へ案内してくれた。
神田さんは42歳で22才の時にこちらに来て、今は結婚もしてお子さんもいるそうだ。
元々はシステムエンジニアだったそうだがこの世界にはパソコン的な物はないらしく、最初は郵便配達の仕事についたとのこと。
その中で奥さんと知り合い、奥さんが洋服屋さんをやっていたので今は2人で店を切り盛りしていると言っていた。
前の世界のことも気になるので、もしかしたら渡り人が来るかもしれないと10年前に役所のそばに店を移転したのだとか。
神田さんが今まで会った渡り人は私の前の人と、神田さんの前の前の人、私で3人目とのことだった。
10年間で何があったか聞くのが楽しみなんだよね、と言われ私はここ10年に起こった大きな出来事を思い出しながら教えた。




