突然出会った貴族の男性
——私は、陸上にありふれた国をつくる!
と言ってもそう簡単に作れるわけはない。というのは私にも分かっている。
でも、なんだかできる気がする。
……競技場とか作りたいなぁ。なんかこの世界は魔法があるみたいだけど、魔法は使っちゃいけないルールにして〜。
どんどんどんどん想像が膨らんでくる。
実は私は、走ることだけではなくて、競技場にも興味を持っていた。だから、なんとなくだが、裏の方も分かっていたのだ。
競技場の歴史も調べたし、どんな部品で壁やタータンが出来上がっているのか気になった。
私は中距離だったが、棒高や、走幅跳のことについても熱心に調べていたことを覚えている。
自由研究でも陸上のことを調べて、発表した。ただ、陸上のことを誰かに知ってもらいたかったのだ。
何がすごいか、どんなにすごいか、どれだけ煌めいているのか。
「ねえねえ、リトル。この国はどんな感じなの?」
「はあ? 感じって……。俺らが知るわけないだろ。たださっきも言ったみたいに、王様が魔力で守れなくなってきたんだよ」
「自分の国のことなのに、それぐらいしか知らないの?」
リトルは怪訝そうに私を見る。
「お前マジでどうした? 俺らは知らないに決まってんだろ」
「そっか……あっ、じゃあさ! 王様は悪い人? それとも良い人? 私たちのこと大切に思ってると思う?」
「……そんなの知らねぇ。王様はこっちに来るわけねーんだから。……お前、大丈夫か? 暑さでやばくなっちまったんじゃ……」
「だ、大丈夫だよ。まあ、暑いけど」
……転生したから何も知らなくて聞き込みしてまーす、とは言えないしね。
「り、リトル! あと、この質問だけ答えてくれない?」
「何?」
「もし、王様がいなくなってもリトルは困らない?」
「困るだろ、そりゃあ。王様が魔力を何かに注がなくちゃ魔物がいっぱいきて、ついでに気候もおかしくなって、地面も割れるんだから」
「魔物……」
「ああでも、今の王様は魔力が少なくて大変らしいけど」
……魔力が少なくて大変? しかも注げなくなったらそんな災害みたいなこと……。
「じゃあ、だったらさ! 魔力が多い王様の方が嬉しい?」
「もちろん。魔物からの恐怖とかがねえんだから」
ついにはリトルは呆れた顔をする。
すると、私たちが、いや、私が話に夢中になっていたからか、人にぶつかってしまった。
「あ……ごめんなさい」
「いや、大丈夫だよ。こちらこそ悪かったね。……それと君たちは今、興味深い話をしていたね。ここで、その話をしている人を私は見たことがない」
「え? あ、そうなんですか」
訳が分からず一応相槌をうつ。
「ああ。ここで、王の話をするなんてね。しかも、魔力がどうのこうのとか。我らの王を侮辱していたのかな?」
すると、彼は剣を取り出す。
後ろでリトルがぶるっと震えた。
「……王を侮辱する者は、私が許さない」
「ち、違うんです! い、いや、違わないけど。その、侮辱していたわけではなくて、こ、こいつが今暑さでおかしくなっちまってて……」
リトルは汗をびっしゃりとかいていた。先程までは髪に汗が滴るほどではなかったのに。
……もしかしてこの状況、まずい?
よく彼を見てみれば、綺麗な服を着ていて、物腰も柔らかい。貧乏なこの街の者とはとても思えない。
……もしかして、貴族?
だとしたらまずい。彼の瞳を見る限り、少し怒りが滲んでいた。もしかして、王の側近とかだったのだろうか。まさかこんなところにいるとは思えないけど、その可能性がゼロなわけじゃない。
……子供といっても手加減されないかも……。
「そ、そう! ホントに暑くて。あぁ、なんか頭が痛い気がするなぁ」
「それは我が王を遠回しに侮辱しているのですか」
……なんでそうなるの!? 暑いって言ったから? それだけで睨まれるの? しょうがないじゃん! 暑いんだから。
「し、してませんよ。ただ、シンプルに暑いなぁって思っただけです」
「そうですか。ならば良いでしょう。所詮、子供の戯言です。……それに、貴方は何か特別なものを感じます。貴方は、魔法が使えるようですね」
「え!? ホントですか? 嬉しい!」
「? 知らないのですか? 私の魔法を跳ね返しといて」
「跳ね返す?」
彼は物珍しそうに頷いた。
「はい。本当に微力ですが、魔力を貴方方にぶつけました。そちらの方は効いたようですが、貴方には何一つ効かなかった。いえ、私に跳ね返されました」
「意識……してませんけど」
「余計怖いですね。とりあえず……貴方は一旦」
そう言いながら彼が指でパチンと音を鳴らすと、私に黒ずくめの人たちが私を囲んで捕まえた。
「ちょ、何するんですか〜!! リトル〜〜〜!!!!!」
「ミナト!」
リトルがとこちらに手を伸ばすのが見えた後、私は意識が遠のくのを感じた。
星乃いーふです(*^^*)
読んで頂き、ありがとうございます。