生まれ変わった場所は
……ここ、どこ……?
確か私は、死んだ。
だというのに、この空気はなんだ。まるで生きているような。空気を生で吸っている。
ヨーロッパ街のような石造りの家が並んでいる。
しかし周りにいるのは日本人っぽい顔の人たち。
……テレビの撮影かなんか?
でもだとしたら、私はそんなものに参加した記憶はない。
しかも私は、死んだはず。
……いや、どゆこと!?
〜前世の私〜
陸上部に入っている私、柚姫は、猛烈に青春を楽しんでいた。でも、彼氏がいた経験はない。
告白は片手では数えられないほどにはあるが、全て断ってきた。
私はいわゆる『〇〇』というものが恋人系女子だ。
その〇〇は、陸上。いや、走ること。
走るのはすごく楽しかった。
私が走るのは八百メートルで、一瞬だ。
走っている間は苦しい、などの感情が出るが、走り終わったあとの達成感、嬉しさ、結果を見た時の悔しさ、感動が私の心を埋め尽くす。
今日は、高校最後の試合。そして、全国大会だ。
「柚姫、頑張って!」
「柚姫ならいける! ファイト!」
「うん、ありがと〜」
今日は仕事で忙しいお母さんとお父さん、そして親友が見に来てくれた。
……この応援のおかげかな。今まで続けられたのは。
もちろん最近は、走ることが楽しい。だが、最初は苦しくてたまらなかった。
やめたい、と何度も思った。でも、この応援があったから、私は頑張ろうと思えた。
私の性格も出ているのかもしれない。
……ここまで来たんだ。絶対優勝したい!
私はトラックの近くに足を踏み入れた。
「セット……バン!」
審判が声をあげ、気持ちのよい音が響いた。
学校にいる友達はうるさくて嫌いだ、とか言うけど、選手にとってはこれが命のようなものだ。
まあ、八百だから、それほどではないかもしれないけど。
私は必死に走る。
さすがに全国だ。みんな桁が違う。
……でも、負けない!
必死に足を動かす。中間らへんだった場所から一人、二人、三人と徐々に抜き進めた。あと一人だ。
今いる場所を確認する。あと、百メートルだ。
……まだいける!
そう思ったはずなのに、表彰台には二位と書いてあった。
……あれ、もしかして私、負けちゃった……?
あと、少しだった。あと少しだったのに。
これまで、頑張ってきたのに。
……私、また二位?
小さい頃から私は、二位だった。
何かが特別勝っている訳ではない。ただ、全てが平均よりも出来ただけ。
そんな自分に寒気がした。私は、一位になりたい。なんだかとても子供らしいことを言っているけれど、私はまだ子供の分類に入っていいはずだ。
お母さんたちが私を慰めた。でも、慰めなんかいらない。私は一位にならなくちゃいけないんだから。
……神様、神頼みって訳じゃないけど、ちょっとだけ、私に力を貸してくれないかなぁ。
「なーんて。何やってんだ、私。神頼みなんかしちゃってさ。…………う、うぅ。……なんで、私はいつも、二位なんだろう。……うゎぁ……」
私はその日、悔しくて泣いた。
家族には、さよならを言えなかった。
私は一人で帰る、と言った。少し、気持ちの整理がしたかった。
まさか、それが仇になるとは。
私にはトラックに轢かれる瞬間、何かが変わる予感がした。
「で、死んだはずなんだけどなぁ」
トラックに轢かれる。それは身を持って感じた。間違いないはずだ。となると。
「これが、異世界転生……」
なんだか不思議な気分だ。さっきまで私は、泣いたただの柚姫だったはずなのに。
不思議で首を傾げていると、私の耳に幼児の声が入ってきた。
「ねえ、ママ。さっきからあの人何やってるの?」
「しっ。見ちゃいけません!」
……は、恥ずかしい!!
確かに変な動きをしていた……かもしれない。
私はとりあえずぶらぶらと周辺を歩くことにした。
この胸の高鳴りを静かに感じながら。
星乃いーふです(*^^*)
時間がないのでちょっと変なところで終わります〜。