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ロシア人はネコスキー ~ ネコで旅順要塞を攻略せよ  作者: もろこし


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第十一話 ネコと旅順要塞

 もともと日本陸軍は、旅順要塞など捨て置き遼陽以北でロシア軍と決戦する腹積もりであった。


 事実、1904年(明治三七年)2月に朝鮮の仁川に上陸して以来、5月の鴨緑江会戦で勝利した後もこの基本方針に則って作戦を展開している。


 だが海軍が旅順港の閉塞に失敗し黄海海戦でロシア太平洋艦隊を撃滅できなかったことで事情が変わってくる。


 バルチック艦隊が来寇し旅順に逼塞するロシア太平洋艦隊と合流されてしまうと、いくら陸上で勝っていても戦争には負けてしまうのだ。つまりそうなる前に何としても旅順からロシア太平洋艦隊を追い出す必要があった。


 この海軍の失態を尻拭いするため、陸軍は嫌々ながら乃木希典大将の率いる第三軍に旅順要塞攻略を命じた。


 そしてこの作戦が電信教導大隊にとっても初の実戦参加となる。その第一の目的は気球による敵情観測であるが総攻撃前にネコ投入作戦も試されることとなった。


 ちなみに二宮も自らのハト型飛行機を飛ばしたいと希望したが……


「撃ち落されるのが関の山だろうが!」


「えー!せっかく飛行機を露助にも見せびらかしちゃろう思うたのに」


 ハト型飛行機はエンジン出力が小さいため速度が遅く飛行高度も低い。それでいて図体だけはでかいため敵の良い的にしかならない。誠に当然ながら二宮の希望は却下された。




■1904年(明治三七年)7月26日

 旅順北東 柳樹房 第三軍司令部


 旅順要塞に対する総攻撃に先立ち行われた気球による偵察によって改めて要塞周辺には重厚な陣地が構築されていることが確認された。


 分厚いべトンで覆われた多数の永久堡塁や砲台が多数存在し、それらを有機的に結ぶ塹壕陣地が広く構築されている。


 これを正面から正攻法で攻略すれば多大な犠牲が出ることは明白であった。このため第三軍はせめて少しでも損害を減らすことが出来ればと電信教導大隊にネコ投入作戦の実施を命令した。


「本当にネコなんぞが役に立つのかね」


 乃木や第三軍の参謀らはネコ投入作戦の効果には懐疑的であった。もちろん乃木をはじめ彼らは皆イヌ派である。


「まぁ兵を損なう訳ではないですし。準備だけはしっかりしている様子ですから無駄にはならんでしょう」


「確かにな。では作戦開始だ。ネコのお手並み拝見といこう」


「ネコを信じよ……」


 どうやら第三軍の司令部にもネコ派がわずかながら居るようである。


 イヌ派参謀らの言葉に乃木は素直に同意すると作成開始を下命した。命令書を携え伝令が天幕を飛び出していく。


 伝令の向かう先、その標高から名づけられた222高地にはネコ投入作戦の準備を整えた電信教導大隊とそれを支援する鉄道大隊が展開していた。




■旅順北東 222高地

 電信教導大隊 指揮所


 第三軍の司令部からもよく見えるその高地は鉄道大隊の力によりこの数日で様相を一変していた。


挿絵(By みてみん)


 まず目につくのは頂上から麓にかけて旅順要塞の方向に延びる二本の線路である。これは飛行器を牽引するA/B形蒸気機関車が使用する。麓には鉄道大隊の指揮所とともに蒸気機関車の給水所や給炭所が設置されている。


 高地の頂上にはローラーが設置されており機関車に接続されたロープがローラーを通り後背部に伸びている。


 そのロープの向かう先には扇状に多数の軌条が設置されていた。機関車用の平行軌条ではない。飛行器を乗せるための単軌条である。


 扇形に複数設置されている理由は風向きに対応するためであった。単軌条は5度ずつ角度を変えて全部で13本設置されている。つまり最大で60度の風向きの変化に対応できる事になる。


 その背後には電信教導大隊の指揮所とともに飛行器の倉庫兼整備場やネコ舎があった。


 ネコ舎には既に日本国内から徴発されたネコ達の第一陣、約千匹が運び込まれており、この指揮所にも「にゃーにゃー」という鳴き声が聞こえてくる。


「いよいよか」


 命令書を読んだ北川大佐が顔を上げた。世界初となる作戦の決行を控え、北川の声にわずかに不安が混じる。表情も固い。


「準備は万端じゃ。きっと上手ういこわい」


「大佐殿、何度も試験もしました。問題ありません」


 不安を打ち払うように二宮と河野が声をかける。


「そうだな」


 二人の気遣いを感じて北川は表情を緩ませた。


「大佐殿、時間です」


 河野が作戦開始時刻が訪れた事を静かに告げた。


「君たちのおかげで作戦実施にまで漕ぎつける事ができた。本当に感謝する。ありがとう」


 北川は、河野と二宮、そして天幕の外に整列する兵士らを見まわして感謝をのべた。ようやくこれまでの苦労が報われる。電信教導大隊の真価が問われる。北川の顔には決意が漲っていた。


「これよりネコ投入作戦を開始する!」


 大音声で北川が命じた。それに弾かれたように電信教導大隊の皆が各々の任務に散っていく。


「機関車の準備整えよ!」


 臨時に編入されている鉄道大隊の兵らが機関車の最終確認に走る。機関車のボイラーも既に十分に温まっている。白い余剰蒸気を吐き出すその姿は機関車も作戦を心待ちにしているかのようだった。


「風向確認!一番機は7番軌条を使用する!」


 吹き流しで風向を確認した分隊の指揮官が指示をとばす。


「風速8キロ!時限紐長さ、3番に調整!」


 コウノトリ型飛行器はネコを投下する距離の設定を風車で巻き取る紐の長さで調節する仕組みになっている。その調整班が風速計の値と風向を基に、あらかじめ計算してある表から風車で巻き取る紐の長さを調整する。


「マタタビ投与完了!落下傘装着完了!開傘紐接続よし!」


 ネコの搭載を担当する分隊がシロツメクサを敷き詰めたネコ籠に落下傘を装着したネコを詰め込む。ネコが空中で暴れて機体が不安定になる事を防ぐため、ネコには事前にマタタビで大人しくさせる措置がとられている。


 そしてネコ籠が開いてある程度ネコが落下したら自動的に落下傘が開くように開傘紐がネコ籠に結ばれる。


「ネコ籠、準備完了しました!」


 そしてネコを詰めた籠が飛行器の横に待機する二宮に渡された。


 コウノトリ型飛行器はネコ籠の搭載位置で重心を微調整するようになっている。ネコは個体ごとに体重が異なるため、この最終調整作業は当面は二宮が直々に行う事になっていた。


「よし!重心位置、調整完了したわい!」


「ネコ籠搭載完了!飛行器を軌条に運べ!7番軌条だ!」


 準備の整った機体を兵士が3人がかりで慎重に運ぶ。そして風に正対する向きに一番近い軌条に飛行器がセットされた。


「牽引索、装着!」


 フック状に湾曲した飛行器の前脚に機関車から伸びるロープが掛けられた。準備が整った事を確認し分隊の兵が青旗を揚げる。


 それに呼応するように高台頂上に居る機関車分隊からも青旗が振られた。


「準備が全て整ったようです」


 確認した河野が北川に告げた。北川は大きく頷くと命令を発した。


「発射!」


 機関車が汽笛を鳴らして丘を下り始めた。下りでほとんど牽引重量も無いため機関車は見る間にグングンと速度を上げていく。


 その後ろではロープに曳かれた飛行器が同じように速度を増して丘を上っていく。そして軌条の中ほどでフワリと浮き上がった。そのまま凧のように急角度で上昇していく。


 200メートルほど上昇した所でロープが前脚から外れた。機体はしばらく惰性で上昇した後、機首を下げて滑空に移る。すでに十分な速度を与えられているため機体沈下は少ない。計画通りの滑空速度で機体は旅順要塞北東の堡塁に向けて飛んで行った。


「第一号機、発射完了!」


「飛行に異常なし!進路計画どおり!」


 状況観測のため上げられている気球分隊から有線電話で飛行状況が逐一報告されてくる。


「二号機の準備急げ!」


 発射が終わっても部隊の喧騒は終わらない。なにしろこれから機関車一両あたり10分間隔で次々と飛行器を発射するのだ。


交互に行うため実際の発射間隔は5分となる。休む間などない。既に2両目の機関車が発車準備を整えており、丘を駆け下った機関車は駆け下った鉄路を今度は逆に登っている。


 今日から毎日、計画では一日あたり121回もの発射が行われることになっていた。その内訳はネコ110匹とネコ餌11袋である。日本軍は送ったネコが飢えては効果が半減してしまうため、10回に1回の割合でカリカリを詰めた袋を投入する計画であった。


(無事に届いてくれよ)


 北川は望遠鏡で遠ざかる一号機の機体を追いながら心の中で願った。

いよいよネコ投入作戦が開始されました!


次回はネコを見たロシア側の反応をお送りします。


作者のモチベーションアップになりますので、よろしければ感想や評価をお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 猫が暴れないか心配させていただいていましたがマタタビでバッチリですね!!! [一言] 布陣図もとても格好いいです!!!
[良い点] いよいよ30年先取りしての空挺(猫)作戦開始ですか。 [気になる点] やはりロシア兵の反応は「将軍! 空から可愛いネコちゃんが!」になるんですかw
[気になる点] 戦後の対ロ輸出筆頭はカリカリになりそうな・・・
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