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過ぎてゆく日々が始まりの世界で  作者: でつるつた
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第四十三話 告白の後、それぞれの家で


 ▽


 「ははー。 ボクの「キヤベさんと夫婦設定」のお出迎えの反応がいまいちだったのは、それ以上刺激的なことを考えていたからなんですね、分かりました」


 にやにまと僕を見ながら言うラタス。 


 「だ、だから違うって! 」


 必死に弁明する僕。 しかし。


 「ボクに嘘が通じるとでも思っているんですか? 」

 「くっ! その魔法っていう設定ずるいでしょ! 」

 「ボクのれっきとした特技ですけれどね」


 本当によくないと思う! なに考えているのか分かるって……。 男の天敵だよ。 よしこうなったら。 


 「ラタスのいた世界では誰でも何考えているのか分かるものだったの? 」


 どうにかして話題を変えようと僕はラタスに別の話をするよう促した。


 「いえ、そんなことありませんよ。 もしそうだったら、口という器官は要らなくなっているでしょうしね」


 適当に聞いたことなのだけれど……なるほど。 ラタスが僕らのいる世界の電化製品に驚いていたことからわかるように、おそらくラタスの居た世界ではそういった機械は発展していないのだろう。 なぜなら、魔法があるから。 必要のないものは発展しないように、もし口を使わずに意思疎通できるのなら、音に乗せる言語なんて発展しないわけだ。


 「じゃあ一部の人しか使えないわけか」

 「そうなりますね。 相手の心を読むということは、相手との波長を無理矢理合わせないといけませんから。 相当の精神力と魔力が必要になります。 ですから滅多なことが無いと使わないですよ」


 ん? ここで疑問があるぞおい。


 「今のは滅多なことだったのか? 」


 おかげで僕の心はメッタ打ちなのだが?


 「いえ。 ですから使ってないですよ」


 フム。

 ……は?

 使ってない? 魔法を? 聞き間違えかな?


 「……え? 何て言った? 」

 「ですから、使ってないですって。 魔法」


 おっと。 これは恐ろしい。 恐る恐る確認してみる。


 「じ、じゃあ、なんで僕が考えていたこと分かったの……? 」


 果たして返ってきた答えは、悪魔らしい、いい表情をしながら、これが言いたいがためにここまで温存してきたような口ぶりで。


 「いやー、掛けてもない鎌に自分から切られに来たんですから、びっくりですよねー」

 「んなっ」


 なんでだよぉぉーー!!!


 ▽▽▽


 ばたん、と玄関の閉まる音が後ろで聞こえてきた。

 流れるように私は玄関に背をあずける。

 やばい。 明日からどうしよう。

 ついに言ってしまった。 ヤベが好きだって。

 つい勢いで言ってしまった。 ヤベが好きだって。

 ふぅ……。 一旦、深呼吸。

 か、顔……どんなだっただろうか。 緊張しすぎてヤベの顔見れてない。

 っていうか、私の顔、変じゃなかったかな。

 そう思い立った私は急いで洗面台へと向かった。

 ばッと鏡に映る私を見る。


 「……はは。 なんて顔してるんだ、私」


 そこに映った私は。

 まるで私がいないかのようだった。


 ▽


 ヤベが帰って1時間くらい経っただろうか。

 がちゃっ、と玄関の開く音が聞こえてきた。

 ……ああ、帰ってきてしまった。


 「ただいま」


 蓮人の落ち着いた声が帰ってくる。

 聞こえた声はひとり分だが、足音は2人分。

 蓮人と……母だ。


 「おかえり」


 私は一言だけそう言った。


 「あぁ……琴乃。……帰ってたんだね」


 私の母はかすれた声でそう言った。

 ひどくやせ細った体に生気のない瞳。いつも通りの母に私はひとまずホッとする。

 キッチンで晩御飯を作っていた私は、「うん」とだけ返事をして作業を続けた。

 下手に会話を続けるより、こうして流してしまう方が楽なのだ。

 幸い今は機嫌がいい。このままにしておこう。

 私は蓮人に小声で聞く。


 「蓮人、お母さんの状態どうだった?」

 「特に変わったところはないって」

 「そう。ありがとね」

 「うん」


 いつも通りの会話を交わし、蓮人はそのまま剣道の稽古の準備に取り掛かった。

 私と蓮人は小さい頃から同じ剣道場に通っている。

 というのも、お父さんの兄が剣道場を開いており、そのつてで日々稽古をつけてもらっているのだ。

 私も蓮人も剣道が好きだ。稽古は大変だけれど、相手と竹刀を交えているときは全てを忘れることができるからだ。

 この時だけは、ヤベのことも……お母さんとお父さんのことも忘れさせてくれるのだ。

 ただ目の前にいる相手に集中する。これだけが頭に残る。

 その空間、時間が……楽で好きなのだ。

 きっと、蓮人もそうだろう。

 お父さんが家を出ていく前までは一緒の時間に稽古をつけてもらっていたのだけれど、今ではそれはできない。いつお母さんが暴走するか分からないから交代で見ているのだ。


 「お姉ちゃん、今日のご飯は?」


 剣道具を持った蓮人がドアから覗いて聞いてくる。


 「ハンバーグ」

 「やったね。じゃあ、行ってくる」

 「はい、いってらっ」

 

 ギギ―――!!


 突然、床をえぐるような音が家中に響いた。

 ……まずい、やってしまった。

 それはお母さんの椅子を引く音だった。今までどこか一点を見つめてぼーっとしていたお母さんが急に立ち上がったのだ。そして。


 「ねえ、蓮人どこへ行くの何しに行くのこんな時間に??」


 さっきのかすれた声からは想像できないくらいに圧のある言葉が放たれた。


 「いつも言ってる。今日俺は稽古の日だから」


 対して蓮人は落ち着いた物言いだった。


 「ダメに決まってるでしょっっ!!またあなた、私のところから去っていくんでしょ!!!」

 「お母さん、俺はちゃんと帰ってくるから。ちょっとだけお姉ちゃんと待ってt……」

 「ダメっ!!!行かせないわ……ああ、あああぁぁう!また私の元から去っていくのね!!!」


 お母さんは頭を抱えて膝から崩れ落ちてしまった。もうこうなっては、歯止めは効かない。

 暴走だ。

 今日は機嫌がよかったから大丈夫だと思っていたのだが……。


 「蓮人っ!!」

 「分かった!ごめんなさい、お母さん。今日はどこにもいかないから。ずっとお母さんの元にいるから。だから、ごめんなさい」


 そう言って蓮人は道具を置き、お母さんの手を取った。


 「……あぁ、蓮人……どこにもいかないでね……」


 お母さんはさっきまでの声量が嘘だったかのようにかすれた声でそう言った。


 「……お姉ちゃん」


 蓮人から呼ばれた私は軽くうなずき、スマホからお父さんの兄であり、師範である什造おじさんに連絡を取った。

 一回のコールの後、いつも通りいきさつを説明し、今日蓮人が稽古に出られないことを告げると、


 「そうか。了解した」


 とだけ言って電話を切った。

 師範は私達家族の現状を知っている。しかも、お金の面を工面してくれているのはほかでもない、師範なのだ。

 もう感謝してもしきれない。私と蓮人と母が生きているのは師範のおかげなのだ。

 口数は少なく、見た目も少し怖くて、稽古は厳しいけれど誰よりも優しいことを知っている。


 「お姉ちゃん、ご飯何か手伝うことある? 」


 道具を置き、お母さんをもとの椅子に座らせた蓮人は切り替えて私を呼んだ。

 今年になって中学生になった蓮人。きっと友達と遊んだり、もっと別のことをしたりしたがっているかもしれない。それでも文句ひとつ言わずに私の手伝いをしてくれる蓮人にも感謝しかなかった。


 「うん」


 私はスマホをそっと置いて、蓮人と共に晩御飯の準備に取り掛かった。


二億年ぶりの投稿です。

よろしくお願いします。

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