第四十一話 そう。と光よりも速い音
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「い……あれ」
眩しい光に包まれ、かと思うと、だんだん収まっていった視界に映ったものは。
「はい、ボクの家です」
「いや、ラタスのではないけれどね」
ナチュラルに所有物にするな。
「ぐすん、まだボクのこと認めてくれないんですね……うぅ」
「あ、いや、そういうわけじゃなくて! 」
わざとらしい泣きまねをしているラタスだが、ふざけてでもそういう風に思っているとは思ってほしくないため、急いで弁明をした。
「じゃあ、いいですよね! ……ボクの居場所なんです」
少し真面目な顔で微笑むラタス。
「……」
どうやら、僕の急ぎの弁明は正しかったようだ。
「あ、そうでした。 これからどうするんでしたっけ」
「うん。 あの、ラタス。 僕を琴乃の家まで瞬間移動してくれないか? 」
「それはできません」
え! なんか流れ的にはい、いいですよ。 の二つ返事だと思ってたんだけれど!
えー……。 何か報酬がいるのだろうか。
「ボクのは転送ですから」
ああ、そういう。 こだわりがあるのね。
「……まあ、それでいいから」
「あ、今どっちでもよくない? って思いましたね!? 大事なんですから、そういうの! 」
ぷんぷんっ! と怒っているラタス。 怒るところ、そこなんだな。
それと、もうひとつ。
「あと、ごめん」
「え、何がです? 」
急な僕の謝罪にキョトンとするラタス。
「いや、もしかしたら行きたいところとかまだあったのかなって思って。 帰ろうとはしていたけれど、一応の確認だよ」
「ああ、大丈夫ですよ。 もうボクも帰ろうと……」
ピタッと言葉を止めるラタス。 そして何かを考え出した。
「? 」
考えがまとまったのか、よしっ、と一言言った後、
「……いや! 実は、よよよ寄りたいところあったんですよねー!!! 」
と、目をバタフライさせながら大きな声で言い張るラタス。
「……」
この反応、絶対寄りたいところなんてなかったよな。
「あ、あーあ! でもキヤベさんがどうしてもっていうから切り上げてあげたんですよぉ! 」
今度は目を背泳ぎさせながら言う。
「……それで? なにか見返りが必要だと」
「そそそそんなコト言ってないですけれどぉ、まあどうしてもっていうなら」
平泳ぎさせやがって……恩着せがましっ!
「絶対今思いついただろ」
「まさか! ボクが嘘ついたとでも?? 」
「ラタスってさ」
「はい」
「嘘下手だよね」
「うぐっ……」
うぐの音も出たところで追及はここまでにしておいた。 このままだと個人メドレーさせかねないしな。
▽▽▽
ああ。 なにしてんだろ、私。 なんであんなこと言ったんだろ。
普通に考えてヤベが約束を忘れるなんてことしないのに。 ヤベはそんなひどい人ではないこと、私が一番知っているのに。
分かってたのに、分かっていなかった。
きっと大河のことだ、まだヤベには言わずに自分だけで他人の予定を進めたのだろう。
……感情的になってしまった。 構えていた、用意していたはずの気持ちはどんどんと先に走ってしまった。
ベッドの上で枕に顔を下へ埋めながら後悔する。 泣きそうだ。
ヤベ、また今度会った時ちゃんと話してくれるかな。
いつも通り一緒に話してくれるかな。
無視とかされたら……つらいな。
ぐるぐると頭で考えて、そしてぼーっと横になって壁を見る。 視界の情報は頭に入ってこない。 熱い何かが頬を伝った。
そんな私の熱くて、じめじめとした気持ちが伝わったのかは分からないけれど、音が聞こえてきたのだ。
ピンポーン
正直、出たくない。 今、お母さんと蓮人は外に出ている。 いつも通りならまだ帰ってこない。 だから違うのは分かっている。 宅配便か何かだろうか。
すると聞こえてきた次の音は、待ち焦がれていたものだった。
「……!! 」
なんて言っていたのか分からない。 なんて言ったのかなんて何でもいい。 言葉じゃなくて、今は私の思っている人を視界に入れることが重要だった。
玄関を開けた先には、ヤベがいた。
▽▽▽
開かれた玄関の先には、琴乃がいた。
「あ、ど、どうも。 さっきぶりだね」
あんなことがあった後だし、うまく琴乃の事を直視できない。 目線を琴乃の左手が見える位置に持っていく。
「何しに来たの」
そのしゃがれた声を聴いた瞬間、僕は一瞬でしゃがんだ視線を琴乃の両目へと持って行った。
やはり、さっきのは見間違えではなかった。 赤く腫らした目。
「その、ごめん!! 僕、さっきまで知らなかったんだ……。 明日大河から予定を空けておけよって言われていたんだけれど、てっきり大河と遊ぶものだと思ってて……」
頭を下げて僕は謝罪をした。
「そう。」
琴乃はその一言だけを僕の返答とした。
その一言にどんな感情が入れられていたのかは分からない。
「入って」
だから、動詞の入った言葉に僕は従うしかなかった。
▽▽▽
嬉しい。 とっても嬉しい。
来てくれたことがうれしかった。
ヤベは鈍感だから気づいていないけれど、私は今とてもうれしいのだ。
どうしていいかわからないという表情を浮かべたヤベは私の家、私のテリトリーに入ってきた。
ヤベが入った後、ガチャッと鍵をかける。
ヤベのことを落とすと宣言しているラタス。
対して私はどうだろうか。 何も、この小学生からの長く長く募らせた思いは一ミリも気づかれていないだろう。
ここでヤベの気を惹く。
ここで私は生まれ変わる。
ヤベと2人きり。
なんてこと、ヤベは意識していないのだろうな。
もう、いいか。
意識させてやる。
分かるように、分からせてやる。
ガバッとヤベの後ろ姿に抱き着いた。
「えっ!! こ、琴乃……? ど、ど、ど、どうしたの? 」
「こっちみないで。 黙って抱き着かれてて」
「そっち見たら……成れの果て棒? 」
「あたぼう」
意識してほしい。 私を、意識しろ。
そう思いながらぎゅうっと強くする。
……やった。 心臓がドクドク言っている。 私のかもしれないけれど。
言え。 言うんだ私。 言わないと、伝わらないのだから。
じゃないと、本当に、ラタスに獲られるぞ。
「ヤベ、」
ふぅーー……
「ずっと、ずっと好きだったよ、今も」
遥か遥か昔から募りに募った思いは、今この瞬間、初めて伝わった。
音となったそれは、きっと光よりも速い。
キャラを自由に話させたらこうなりました2




