第三十七話 怖いとハズカシイデス
▽▽
ボクは今サーシャの部屋の前に立っている。
すごく、胸が痛い。 ドキドキしている。 なんて話せばいいかわからない。 あんなに怖いサーシャを今まで見たことがなかった。 ボクのことをすごく怒っていた。 それはわかる。 けれど、それだけじゃなかった……気がするんだ。 何かにとてもおびえているような、そんな感じがした。 きっとお母様が言っていたサーシャの秘密のことだと思うけれど……。
ああ、怖い。 もしサーシャに嫌われていたらどうしよう。 ボクはサーシャがしてはいけないと言っていたことをしてしまったんだ。 嫌われてとーぜんのことかもしれない。
だけど。
でも。
やっぱり、サーシャが好きだ。
コンコンコン、と扉をノックする。
「……はい、どなたでしょうか」
いつもより何倍も弱い声が聞こえてきた。
「さ、サーシャ! あのね、あの、謝りに来たんだ……」
その瞬間、勢いよく開かれた扉はバンッ! と音を立てた。
その先にいたのは、目を赤くしたサーシャがいた。
「……ッ! お嬢様……」
「ご、ごめんなさい! ボク、サーシャにしちゃだめってことを分かってたのにしてしまったんだ……。 初めての同い年で、外の世界からの友達で、優しくて……うれしくてついサーシャとのやくそくを破っちゃったんだ……。 それでね、もう絶対しないから……ボクのことを……嫌わな」
ボクが言い終わる前に。
サーシャはさっきと同じくらい、それよりももっと強い力でボクを抱きしめてくれた。
さっきの力は怖かったけれど。
今の力はとてもとても優しい力だった。
「お嬢様……うぅ、私はお嬢様に言ってはいけないことをいってしまいました。 お嬢様が謝ることなんてありません……グスッ、お嬢様が悪魔族であるという自覚は一番されているのにもかかわらず、感情的になってしまいました……。 私がお嬢様のことを嫌うはずがありません。 ですから、どうか、私のことを……捨てないでください」
そのまま、ボクとサーシャは2人で泣いた。
今日はサーシャの見たことのない顔をいくつも見た。
とてもうれしく思うのと同時に、もう、アネットには会えないということへの悲しさ。 それらすべてを乗せて、ボクは泣いた。
結局、アネットへのお返しのプレゼントをあげることはできなかった。
▽▽▽
「――もう目を開けていいですよ」
僕は言われた通り、目を開けた。
すごくすごく長い時間、心の温まるような、やるせないようなラタスの記憶を見た。
「あれ……ふふ、泣いてくれるんですね。 願ってもなかったです」
「あ、」
気がつくと、自然に涙が流れていた。
「……そのリング、アネットさんっていう人から貰ったものだったんだね」
「はい。 ボクの宝物なんですよ」
ラタスは大切そうにリングをさすりながら言う。
「そのあとアネットさんとは一度も? 」
「……はい。 一度も会わないままこの世界線に着ました」
「ラタスはサーシャさんとの約束の方を大事にしたってことになるのかな」
「結果的にはそうなりますね。 勿論、アネットとはちゃんとお別れを言ってから別れたかったので
すが……。 ボクにはサーシャのあの必死になっていた表情と言葉が忘れられなくて……」
「そう、だったんだな」
沈黙。
そう言えば、ラタスの敬語ってサーシャさんに憧れて使ってたものだったんだな……。 そしてその敬語をアネットさんから教えてもらっていた、と……。
……。
なんて声をかけたらいいのか分からない。 ラタスの大切な記憶に、下手な感想を言いたくなかった。
そんな僕を見て、ラタスから声をかけてくれた。
「ふふ、少ししんみりとした話になりましたね。 せっかくのデートですので、それらしい会話しましょうか」
「この雰囲気でできるのか? 」
「任せてください。 では……。 えー、キヤベさん? 」
「なんだよ」
「……その両手で硬く握られたボクの手、そろそろ放してもらえませんかぁ……ハズカシイデス」
「どわぁ! ご、ごめん! 全然気づかなかった!! 」
流石ラタス。 一瞬で現実に戻ってくることができた。
というか、ラタスの恥ずかしがる姿。 初めて見たな……。
八日目!(明日こそ)




