第三十三話 ぷらいべーとと外の世界
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ボクは大体いつでもサーシャと共にいる。 お勉強や遊び、運動などのほとんどのことはサーシャと一緒にするのだ。 たまに他のメイドさんも来るけれど、いつもサーシャがいてくれる。 皆とてもやさしくて、そんな時間がボクは大好きだ。 不満はない。
けれど、気になることがあった。 それはボクがサーシャに本を読んでもらっていた時。 その本の中には『学校』というものが登場していた。 ボクは学校が気になったので、サーシャに聞いてみると、同い年の子が集まって一緒に勉強をして遊ぶ場所だと言う。 ボクはいつもサーシャや他のメイドさんと勉強したり遊んだりするけれど、皆ボクよりも年上の人ばかりだ。 周りが同い年の人ばかりってどんな感じなんだろう! と、一度「ボクも学校に行ってみたい!! 」とダメもとで言ってみたのだけれど、サーシャに「私と勉強したり遊んだりするよりも、ですか」と結構本気で泣かれたのでそれ以降、それ以上は言っていない。
ちなみにダメもとである理由は、ボクが悪魔だからだ。 悪魔族はみんなから嫌われやすい。 だからおそらく学校という場所は悪魔にとっては過ごしにくい場所なのだ。 だから、ダメもと。 別にそれについて思うことはあまりない。 もちろん、特に何かしているというわけではないのにただ悪魔族だからだという理由で嫌われることに悲しい気持ちになったりもするけれど。 生まれたときから悪魔族の人は、大体はそうだから。
そしてもうひとつ。 サーシャはなぜか掃除、風呂、海や川に行ったりするときは居なかったのだ。 雨の時も一度、一緒に傘を差して散歩しようと誘ってみたのだけれど、ごめんなさいと断られたのだ。
これらに共通していることは、水。 泳げないならまだしも、雨や掃除の水までも避けているように見えるのだ。 そのほかは全部してくれるし、何より優しいし、じょーひんだし大好きだからあまり気にしていないのだけれど。
そんなボクにも自由な時間がある。 というのも、ボクが六歳(人間でいうところの)になった時、お母様が「あなたも成長したのですから、そろそろプライベートな時間も与えてよいでしょう」と言ってくれたのだ。 どうやら、ぷらいべーとな時間というものはボク一人で自由にしていいという時間らしい。 普段からサーシャや他のメイドさんに囲まれていて、皆といる時間は嫌いじゃないけれど、ぷ、ぷらいべーと……。 なんかじょーひんだっ! そう思ってありがたくお母様に感謝をしたのだった。 ちなみにサーシャはなぜかぷらいべーとな時間なんて必要ありませんと抵抗していたけれど。
そして今。 ボクはまさにぷらいべーとな時間をおうかん……ん? おうか? えっと、……楽しんでいるのだ!
サーシャのことは大好きだし一緒に居てもいいのだけれどひとりきりというのも新鮮でわくわくする……! なによりじょーひんな大人っぽい!
さて、今日は屋敷の周りを塀に沿って歩いてみようかな。 いつもはサーシャやお母様に塀の外へは行ってはいけないと言われているから滅多に歩かないんだけれど。 今はぷらいべーと。 なんでもできる……はっはっは!
ボクの屋敷は真ん中にあって、それを囲むように森林がある。 その外側に石でできた塀が立てられているのだ。 だから少し森の中を歩かないと塀まで行けない。 正直、この森怖いんだよなー……。 屋敷にいるメイドさんや執事さんの手入れのおかげできれいなのだけれど、うっそうと生い茂る木々によって日差しは遮られ昼でも少し薄暗い……。 で、でもボクはもうぷらいべーとな時間を楽しむじょーひんなお姉さんなんだ!
そう思って目を瞑って塀まで走った。 手入れされた道は一直線に塀まで伸びていて途中に遮るものは何もなかったので目を瞑っていても問題なかった。 べ、別に怖いとかじゃないけどね!
さて、閉じられた目に明るい光を感じたとき。 パッと目を開けると、そこには目的の石の塀があった。 おっきいな……。 ボク三人分くらいはあるかな。
でもよかったー……ここは森の中よりも明るいみたいだ。 あ、怖いわけじゃないけどね!
よし、探索開始だ!
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と言って、十分くらい歩いたかな。
……飽きてきた。 だって、ずっと同じ景色なんだよ!? 目に映るのは模様の入った石の塀と木ばっかり。 もう少し楽しいものだと思ってた……。 サーシャといたら……こんなつまらない景色も楽しくなるんだろうな。
……。
ぷらいべーとな時間、とてもじょーひんな時間だと思っていたけれど。 思っていたより、ひとりの時間って寂しいな……。 サーシャに会いたい。 そろそろ帰ろうかな。
そう思って屋敷に向かおうとしたとき、ボクの沈んだ思いに追い打ちをかけるように突然雨が降り出した。
え、ど、どうしよ……。 どこか雨宿りできる場所は……。
あたりを見回していると少し先の塀にボクの背丈より少し小さい穴が開いているのが見えた。 塀の厚みはボク2人分くらいあるし、取り敢えずあそこで雨宿りをしよう! そう思ってボクは雨から逃れるために塀の穴へと入り込んだ。
そこでボクは、ある大発見をする。
なんと、塀の穴の先には……外の世界が広がっていたのだ。
いつも屋敷の中から少しだけ見えるものが今目の前に広がっている……。 と言ってもここは屋敷の裏側の山らしいけれど。
でも、屋敷の外に出て石の塀に沿って行けばすぐに街へと出られるだろう。
行ってみたい。 すごく、心臓がどきどきする。
果たして。
ボクは外の世界には行かなかった。
もちろん、とても行きたい気持ちはある。 いつも考えていたのだ。 勉強やサーシャや母様から聞かされていた外の世界に魅力は感じていた。 いつものボクなら喜んで足を踏み出していただろう。
そう、『いつもの』ボクなら。
いつもはサーシャがいてくれる。
サーシャと一緒ならどこへだって行ける。 でも今はぷらいべーとな時間。 今、ボクはひとりぼっち。 サーシャ、会いたいな……。
塀の穴の中はひんやりとしていた。 外は雨が降っていて薄暗い。 石の濡れた独特の匂いもする。 さみしい気持ちを助長するかのように、ボクをひとりだと思い込ませるように、外の世界との境界は冷たかった。
うずくまったまま、自然と頬にも雨の雫が流れてきてしまった。
その時――
四日目!




