第三十一話 おもちゃとリング
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それから僕らはお店を巡った。 服、家具、日用品……どこも本当に楽しそうに、物珍しそうに見て回るラタスにちょっと嬉しい気持ちになった。 一緒に回っている人が嬉しそうにしているとこちらも影響される。 ……まあ、たまにランジェリーショップとかでからかってくるとかはあったけれど。 ちなみに荷物持ちはもちろん僕。 なんでだよ。
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大抵のものは買い終えたし、おなかもすいてきたので近くのカフェで昼食をとることにした。
「いやーこの世界は本当にすごいですね! ボクが見たことないものばかりです」
「そっちの世界にはこういうの、なかったの? 」
僕はイルカのぬいぐるみを席に置きながら言う。
「そうですね。 全くなかったというわけではないのですが、やはり娯楽を目的として作られている物は少なかったですね」
荷物持ちありがとうございますね、とラタス。 同情するなら持ってくれ。
そして気になっていたことをひとつ。
「おいラタス。 ちょいちょい気になってんだけれど、これは何? 」
「ああ、それですか! いやあ、これを見たときビビッときたんですよねー」
僕が持っているもの。 それは光を感知したら動くおもちゃなのだが……。
「こんなもの、いらないでしょ。 日常生活において」
「何をいうんですか。 この子はきっとボクが気を落としたり、悩みを持っていいたりしたとき励ましてくれるような存在になると思うんですよ」
そのおもちゃは高さ十五センチくらいのひまわりで、花の部分に顔が書かれているようなデザインである。 植木鉢に装備されているのであろう光を感知するセンサ。 これが反応すると頭の部分がぶんぶんと動き出しヘドバンをするというとてもシュールなおもちゃなのだ。 ちなみに今も、ラタスの言葉にうなずく(ヘドバン)ように動いている。
「じゃあこっちは? これも別にいらないだろう」
僕はまた別のおもちゃを取り出した。 今度は手のひらに乗るくらいの大きさで、猫のぬいぐるみデザインのおもちゃ。 これは感知した音をそのままオウム返しにするというおもちゃなのだが。
「何をいうんですか。」 『ナニヲイウンデスカ』
「この子はきっとボクのこの世界の言語練習相手になってくれると思うんですよ」 『オモウンデスヨ』
ラタスの言葉を高めの音で返す猫のおもちゃ。 正直うるさい。
「はぁ。 もうわかったからそいつを戻してくれ」
そう言った後、ラタスは何やら後ろを向いてこそこそとしている。 かと思っていると僕に向かって猫のおもちゃを突き出してきた。 そして、
『イヤデス。 キヤベサンノアホ』
と猫のおもちゃが話してくるではないか。 っておい、シンプルな悪口じゃないか。
「戻してと言っているんだ」
また後ろでこそこそとしている……。 そして突き出された猫からは、
『ナニオモチャアイテニムキニナッテイルンデスカ』
と馬鹿にされた。
「おいラタス! 」
「え、ボクは何も言っていませんよ」 『イマセンヨ』
よし。 反省しないのならコッチも対抗策があるんだからな。
「あーあ。 せっかくデザート、頼もうかと思ったのに」
「あ、あ、ごめんなさい! 許してください! 」 『クダサイ』
最後は猫と共に謝るラタス。 ちょろいん。
『キヤベサンノケチ』
な、なに? 今何も仕込まずに話したぞこの猫!?
「まさか人格がっ……! ってそんなわけないだろ」
「いえいえ、奇跡が起きてこの猫は話せるようになったんですよ。 しかもキヤベさんの悪口を」
「魔法を奇跡と一緒にするな。 あと猫に人格を与えるな」
はーい、と渋々猫の電源を落として隣に座らせるラタス。
全く、この悪魔は。 ルックスはとてもいいのだけれど少し、というかだいぶ性格に難ありだな。 勿論本人が極度のロリコンという視点も踏まえて。
電源を落とした猫のおもちゃに向かってぶつぶつと何か言っている……。 多分僕の悪口あたりだろうけれど。
……こうしてラタスを見ていてふと気づいたのだけれど。
僕はラタスについてまだあまり知らないのだよな……。 今気になっているのはラタスの両親の話だ。 その2人について知っていることは母方が天使族で父方が悪魔族ということだけだ。
……二人の話をするとき時折見せる暗く、望みを絶たれたような顔。 それの理由を聞く……というのは雰囲気的にできそうにないので当たり障りのないこと、聞いてみるか。
「ねえラタス」
「え! いえ別にキヤベさんのけちん坊なんて言ってないですよ! 」
「全部説明してくれてありがとうな。 けちん坊なキヤベさんはラタスさんにデザートあげられそう
にないなー」
「う、嘘ですごめんなさい! あ、そうだ、話! なにかあったんじゃないですか!? 」
露骨に会話を逸らすラタス。 見え見えだけれど、まあいいか。
「別に大したことじゃないんだけどね。 その左手に着けてるきれいな腕輪が気になったんだよ」
僕はラタスがいつもつけている腕輪を見ながら質問をした。 デザインはいたってシンプル。 半透明の黄緑色で丸みを帯びたリング状のものだった。
「ああ、これですか。 これはですね……」
その腕輪を大事そうに触りながら話し出したラタス。 その表情はどこか遠く、温かな記憶を見ているかのようだった。
「あっちの世界線で唯一の友人、いや……親友から貰ったものなんですよ」
「ふーん、友達からの……ってうん? 唯一の、なのか? 」
「はい、唯一のですよ。 ボク、あっちの世界でも友達少なかったんですよ」
「なんか意外だな。 ラタスみたいに話しやすくて見た目もグッドな人だったら毎日人だかりみたいな感じかと思ってたんだけれど」
「ふふ、人だかり、ですか。 やっぱりここの世界線は面白いですね」
それともキヤベさんが特殊なだけなのですかね、とピンとこないことをいうラタス。
「僕、何か変なこと言った? 」
「はい、とても変なことを言いました。 ボクを誰だと思っているんですか? 」
少し悲しそうに笑うラタス。 改めて聞かれて僕は、鈍感な僕は、やっと気が付いた。
「ボクは、明るくても、見た目が可愛くても、話が面白くても……あくまでも悪魔ですよ」
そこからのラタスの言葉は要らなかった。
……ミスをした。 僕は。 完全に配慮が足りなかった。
文化、というか世界線が違うと、こういう認識の違いを生む。 無意識のうちに他人を攻撃してしまうのだ……。 無意識の攻撃……一番質の悪い、そしてどうしようもない攻撃。 それを回避、いや挽回するためには。
「ごめん、ラタス」
素直に謝るしかない。 それが最善策であり、唯一の策なのだ。
あっちの世界線で悪魔という存在がどのようなものだったのか。 こちらの世界線でも悪魔という存在はあまり……良くは思われていない存在だ。 こっちの世界線では、大抵の人は悪魔という存在を空想上でしか考えていないため、もし実際に悪魔が顕現したらなんてことは日常では考えない。 事実、そうであった僕は結果、認識が低く、今ミスをしてしまったのだ。 つまるところ、ラタスの居た世界線では悪魔という存在はあまりよくは思われていない存在であり、ゆえに友達も少ない、という結果に至ったのだ……と愚考する。 人だかりはもちろん無く……人はたかってラタスを、悪魔を避けたということだ。
「ふふ、こちらこそごめんなさい。 少し意地悪でしたかね」
これは小悪魔ジョークということで、と軽く流してくれた。
「この腕輪の話……でしたね。 これをくれたのはあるひとりの少女なのです。 ボクはご存じの通り、悪魔ですから友達は居ませんでした」
そう話すと、ラタスの左手から青白い光が放たれ始めた。 これは……魔法を使う際の挙動。
自然と、ラタスが僕の手を握ってきた。
ビクッとしたがラタスの、
「今からボクの記憶の一部を見せますね。 目を瞑ってください」
とうい言葉に落ち着きを取り戻し、言われるがまま僕は目を瞑った。
その瞬間、『あるもの』が僕の閉じたはずの視界に映された。
それは、ラタスの腕輪にまつわる『記憶』だった――
二日目!(ギリ)




