第三十話 当たる前とデート
センの目線が落ちる。 ただそれだけで雰囲気は変わった。
「まあ、そうよね」
会話のトーンが暗くなる。
センのさっき言ったこと。 私のことをセンの家には入れないという言葉。 察しの通り別に私のことが嫌いでそういうことを言っているわけではない。
ざっくりと言えば、構われ過ぎるというのも大変だということだ。 ……私と違って。
「最近はどうなの? 」
「何も変わってないわ。 私の成績も、……ママも」
「そっか」
「琴乃も相変わらず? 」
「うん、まあね」
「そう……」
そのあとは何も言わないまま、私たちは弁当を食べ進めた。
さっきまでの甘酸っぱく青春全開の話とは打って変わった雰囲気。
センの言った何も変わっていないということ。
変わらないということは大抵の場合、当たり前。 当たる前に、自分自身が変わらないと意味がないから。 ……なんて上から目線のことを言っているけれど、それは私自身にも言えることだから許してほしい。 変えるためには自分が変わらないといけない。 そんなことは、そんな当たり前のことは、わかっている。 けれど、分かっているけれど、分かっていない。 ヤベにはよく言うけれど、そうなのは私だ。 問題に当たる以前に、そうできるような勇気が私たちにはない。 私たちにとってあまり
にも強大すぎる問題を前にして立ち止まってるだけだった。
沈黙。
「ねえ。 楽しい話しない? 」
多少強引だが、私はこのよどんだ空気を喚起しようと試みた。
こうして友達といる学校の時間まで沈んだ気持ちでいなければならないという決まりはない。
「っふふ」
少し驚いた表情をした後、目線をちょっとさげて微笑むセン。
「ちょっと強引すぎた? 」
「ちょっとね。 でもそういうところが琴乃のいいところよね」
「そういうのは私に任せなさいな」
「ええ」
私たちは弁当を食べ進めた。 どうでもよく、進まない、楽しい会話をしながら。
▽▽▽
今日は土曜日。 青い空、白い雲、なんて気持ちの良い週末なのだろう。
あ、どうも。 申し遅れました、僕の名前は初芽木矢部。 今を生きる高校生さ。
こういう日には考え事がはかどる。 時に、時が流れるのは早い、と最近よく考えるんだ。 特に、高校生にもなるとそれをよく実感できる。 小学生の頃は無限のように感じた日々がいつの間にか有限なのだと認識できるようになっていた。 こうしてぼーっとしていると……デートする羽目になるぞ。
なんでだよ。 事の始まりは昨日。
▽
「ヤベちゃん、明日ラタスちゃんとデートしてきなさい」
さて寝ますかね。 そう思って自分の部屋に戻ろうとしていた金曜日の夜。 夜更かししたい気分もあったが、いろんなことがあった一週間だったため体を落ち着けてたいと考えていたその時。 今の僕に追い打ちを、未来の僕に負担をかけるような母さんからの一言だった。 当然僕はたじろぐ。
「え、は、いや、まって、なんd……」
「『イエス』か『はい』」
選択を迫られているのに有無を言わせない気迫。 こ、これは、よくある究極の二択……! 相手にいいえと言わせないこの質問の仕方。 もうどう転がっても母さんのお願い事の結末は確定しているわけだけれども……。 少しでも反対の意思を示すために、僕は、最後まで抗い続けるぞ!!
「……『か』、でお願いします……」
これはなかなかうまくいったのではないか? 母さんの意表を突いたのではないか? くくく、きっと母さんは僕に二択を迫っていたのだろう。 幻の(無理矢理)三択作戦……。 もしこれが文字媒体でされていたのならこの作戦はできなかったかもしれない。 しかし今回は音媒体だけだったため、どれだけ区切って伝えようが、受け取り手の解釈次第なのだ! さあ、どうくr
「物分かりがよくて助かったわ。 確かに、『可』という答えを受け入れたからね」
「はい……(泣」
極まった三択だった。 というか、一択だった。 音媒体のカウンターとは……。 抜かりない、マイマザー。
▽
そして現在に至る。 現実に戻ったわけだけれども。
今の心境として、もちろん不安しかない。 本当に。 だ、だって、で、で、で、デートなんて、したことないし! 本当に何をすればいいのか分からないし! 僕の知識と言えば、漫画やアニメだしおすし!
「あの、口に出てますけれど、そのしょーもないお寿司」
「ぅだっ! す、すみません」
「ちょっと、敬語で話すのやめてもらいませんか? これじゃあどっちが話しているのか分かりにくくなるじゃないですか」
「わかりにくいって、別に僕たち二人しかいないじゃないですか」
誰に対しての配慮だろうか。
「そうでした☆ まあ、でも普通にしてください、せっかくのデートなのに」
「は、はい! そうします! 」
「じゃあ、行きましょうか」
▽
超絶怒涛のデートレベル赤ちゃんの僕にプランを立てるなんてむり。 四つん這いのはいはい歩きをしているわけだ。 でも大丈夫。 このお出かけには明確な目的があるからね。 昨日の母さんとの会話、実は僕の情けない返事で終わっているわけではない。 なんでも、ラタスの洋服や日用品などをそろえて来いとのご命令だった。 つまり僕らが今向かっているのはデーパートなわけであって。
「キヤベさん、今安心してますよね」
「な、なんでそう思うのかなー?」
「デートプランなんか立てたことないから焦っていたけれど、買い物に行くだけだと考えると楽だなーって顔に書きましたから」
「長いよ! ってか書くな! 」
「ボクとしてはこれ、デートだと思っているんですからね。 キヤベさんはそうではないんですか……? 」
くそう、わざとだって分かっていてもそんな悲しそうな顔をされると僕がダメなことをしたんだって思わされてしまう……。
「も、もちろん……そう思ってるよ」
その瞬間、ラタスが僕の手を握った。 あたたかな、そして柔らかな感触が僕のすさんだ心をヒールする。
「ふふ、良かったです。 取り敢えず今日はこのまま買い物しましょうね」
「は、はぃ」
1日目!(またよろしくお願いします)




