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過ぎてゆく日々が始まりの世界で  作者: でつるつた
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第二十四話 臨戦態勢とごめんなさい


 ガチャ


 と玄関の扉を開ける音が聞こえてきた。 噂をすれば。

 パクパク食べていたラタスの手が止まる。 流石に緊張してきたのだろうか……いやまあ、それもそうか。 これからこの世界で生きていく上での居場所がかかっているのだ。 いくら人ならざる存在で人ならざる力を持っていたとしても、安全にこの世界で生きていく上ではやはり拠点というか、居場所が必要だろう。 さっきは母さんを説得させることができると言っていたが本当にあるのか?


 「ただいま……うん? 」


 母さんのいつもとは違うただいまの声。 多分、玄関にある見慣れない靴が一足あったから疑問に思ったのだろう。


 「お母さん! おかえりー! 」


 母さんが帰って来るや否や、飛びついていく福。 ラタスへの嫌悪感も吹っ飛びそうな勢いだった。


 「ただいま福。 お客さんがいるの? 」


 「お邪魔してます」


 福に続いてラタスと僕は母さんを迎えに行った。 ぺこりと頭を下げ挨拶をするラタス。


 「あら、あなたは朝ヤベちゃんと一緒の部屋から来た子ね」


 「え、あれ、そういえば……ラタスさんが変態すぎて忘れてた……」


 流石に福のようにはいかず、母さんはしっかりと覚えていた。 

 当の母さんは、上着を脱いで、カバンを置き……つまり母さん流の臨戦態勢に入る。 


 「朝はちゃんと挨拶できず、申し訳ございませんでした」


 「気にしないで。 取り敢えず、説明してもらいましょうか」


 ▽


 母さんは軽く身支度を終えた後、テーブルという名のリングについた。 目の前にはもちろん僕とラタス。 


 「お茶置いておくね」


 と、福は三人分の飲み物を用意してくれた。 お邪魔だと感じたのだろうか、そのままそそくさと部屋を出ていった。

 開口一番は母さんからだった。


 「まずは名前から聞かせてもらってもいいかしら? 」


 「はい、……ラ、ラタスといいます」


 「……本当に? 」


 ん? なぜ聞き直したのだろうか。 母さんは普通無駄だと感じたことはしない。 だから、名前を聞きなおすなんてことしないと思うのだけれど……。


 「は、はい……」


 母さんの二度の質問に動揺したのか、さっきより弱弱しく返事をするラタス。 その反応に母さんは一旦目を閉じ、じっと考え込む。 途端、カッ! と、効果音が付く速さで目を開け、


 「ラタスちゃん、ね。 私は初芽紗江。 どうぞよろしく」


 と続けた。


 「よろしくお願いします」


 「さて、何から聞こうかしらね……ヤベちゃんとラタスちゃんはお友達ってことでいいのかしら? 」


 「うん、そうだよ」


 今までただの置物と化していた僕はそう答えた。 また琴乃からなんか言われるんだろうが、今はお友達という設定にしていてもいいだろう。 琴乃の、海外からの親戚だったのでしょう? という皮肉入りの言葉が容易に脳内再生できるぜ……。


 「フム、次ね。 どうしてこの時間帯までここにいるのかしら? 親には連絡しているの? 」


 「そのことについて話があってきました。 聞いていただいてもよろしいでしょうか」


 「いいわよ。 なにかしら」


 ふと、隣から輝きがみられた。 ……なんだろうか。 そう思い、ちらっとラタスの方を見るとテーブル下に隠すようにしている左手から青白い光が放たれていた。

 なるほど、大問題もとい問題ないと言っていたのは魔法を使うからか。 さしずめ、記憶操作みたいなものあたりだろうか。


 「……ごめんなさい」


 ラタスは母さんに聞こえないくらいの声で謝る。 他人の記憶を都合よく書き換え、自分が優位になるようにすることに罪悪感があったのか。 ……確かに、容認できるようなことではないが、見知らぬ土地で生きていくためだ。 僕は片目をつぶるとしようかな。


 「何か言ったかしら? 」


 ラタスの謝罪は意図通り、母さんに伝わることは無かったようだ。 そしてラタスは


 「0;い3えくぇr。mk……」


 と、呪文のようなものを詠唱し始める。 何語なのだろうか。 本当に聞き取れない。


 「g6hc4……っ! 」


 急に言葉が止まった。 

呪文詠唱終わったのかなと思い、ちらっと横を見る。 

果たして、ラタスは固まっていた。 ……というより、思い悩んでいる様子だった。 強く握られたこぶしが物語っている。 青白い光は徐々に小さくなって……。


 「どうかしたの? ラタスちゃん。 何かお願い事があるんじゃなかったの? 」


 母さんの普通の問いかけ。 ただ……圧がすごい。 何かを止めているような、凄みのあるもの言いだった。

 ラタスの掌からの光は完全に無くなっていた。 思い悩んでいるようなそぶりをしていたラタスは何かを決心したかのように、これまた効果音がブン! と付くかのような速度で頭を上げる。 と同時に、


 「ボクをこの家に住まわせてください!! 」


 と言った。 

 いや、めっちゃド直球じゃん! 大問題じゃん! 策もあったもんじゃないな……。


 一方母さんの方はというと、顔を下へ向け、肩をプルプルと震わせていた。 ま、まずい! これは僕が怒られる予兆のひとつ、母さんの初期微動だ……。 かつて僕のテストの点数が露呈してしまった時にも同じような現象が起こったのだ。 おそらく、よくわからない女の子を連れてきてしかも住まわせてやれというよくわからない状況と要求に対して僕を怒るのだろう……。 さらば、現世。

 と思っていたが。


 「あっはっはっは! いやー、どんな手を使ってくるのかと思えば、ものすごい素直に来たのね」


 と、大爆笑だった。 

 なんだ、とりあえず、良かったー……。 ただいま現世。

 勿論、当のラタスはと言えば、ぽかんとしていた。 


 「いいわよ、好きなだけいなさい」


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