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過ぎてゆく日々が始まりの世界で  作者: でつるつた
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第零話 ハジマリ / 第一話 出会い

 

 「はぁ、はぁ、……うっ、はぁ」


 一人の少女が宙をかけていた。 宙を現す言葉があるとすれば、それは絶望。 少女は多分、それから逃げているのだろう。

 まだ身の丈ほどの小さな黒い翼をはためかせ、無我夢中に宙から逃げているようだ。

 ……だが、逃げ切れることは無いだろう。

 何せ、走るための地面とも言いうべき、飛ぶための宙が牙をむいて襲ってきているのだから。


 「はぁ、はぁ、……ううぅ! 」


 物凄い轟音の後。 その絶望の宙から黒紫の稲妻が少女の翼を燃やした。 その炎は消えることは無く、また少女も飛んでいられる状態ではなくなってしまった。

 この世界には重力と呼ばれるものがあるのだろう、それに身を任せることしかできなくなった少女は落ちて、墜ちて、堕ちていった。

 なお、絶望の宙は浸食をやめない。


 △△△


 「流れる石……これは助けてもいいよね? 」


 「……その分かりにくい言葉の使い方、やめてもらえますか。 流石、でいいじゃないですか。 それと質問にはお答えできません」


 「じゃあ分かった! ゴホン……君の意見が聞きたい」


 「そうですね。 私なら見捨てます。 こういうありきたりなことは文字通り、よくあることですから。 彼女にもそのよくあることが起こっただけでしょう。 とりたてて彼女を救うほどではないのでは、と考えます」


 「くぅー! 相変わらずの辛辣。 まあ確かにそうなんだけれどね。 時に質問なんだが、私の好きなことは知っているかな? 」


 「あなたが楽しそうと思われること、でしたっけ。 ……質問の返しが大前提な内容の答え過ぎて、最初はあきれてものも言えませんでしたけれど」


 「え、そこまで言う? ……うん、まあ正解なんだけれど。 覚えていてくれた理由は……まさか私のことがって痛い痛い痛いっ!! ごめんなさいごめんなさい!! だからこのて、手を放していただけませんでしょうかっっ! 関節がメリメリいってるって! 」


 「……」


 「あ、ありがとう」


 「で、どうするんですか」


 「ゴホン、そうそう、私は楽しそうなことが好きなのだ。 勿論、君のこと……はい。 その殺意のある眼差しを閉じてください。 えー、で、その彼女を救うことで楽しいことが起こりそうなのだよ」


 「彼女を助けると……ですか」


 「そうそう。 までも、少々面倒くさいことかもしれないけれど……いいかね? 」


 「私はあなたに使える身なので」


 「そういうことじゃないんだけれど……まあ、君の答えはそうだろうと思っていたがね。 わかった。 じゃあ、始めよう」


 ▽▽▽


 本当にここが無人の駅でよかったと思う。

 僕こと初芽(はつめ) 木矢部(きやべ)はこんなド田舎、とても嫌いなのだ。 高校生になれば都会へ行って、ひとり暮らしを絶対にしてやると心に決めていたのだけれど、現実はそうもうまくはいかない。 たくさん勉強して、見事都会の高校に受かったのはいいものの、母さんがひとり暮らしを許してくれなかった。

 

 「うちのラブリーマイソンに何かあったらどうするの!? どうしても一人暮らしをするというのなら私はしぬわっ!! 」


 と、結構ガチで泣かれたので僕は折れるしかなかった。 心配されるということはとてもありがたいことなのだろうが……過保護過ぎないか? もうその過保護過ぎッていう言葉が守られてるもんな。 「過」で。


 それでも都会の高校に行きたいと、そこだけは折れずにしっかりと地面に根を生やして粘ったところ、この雑草魂、勝ちました。 (雑草魂って使い方違った気がする) まあ、ほとんど父さんの説得の賜物なのだけれど。


 だからこうして誰もいないこの駅で電車の訪れを待っているのだ。 今日は4月1日、始業式。 高校生になって二回目の春。 それにしては少し暖かく感じ、冬服である学ランの襟元を持ってパタパタと風を送る。


 スマホを見ようかと思ったが、カバンから取り出すのも面倒だったので誰もいないこのホームの周りを観察した。 


 古びた駅のホームは地面のヒビから生存競争を勝ち抜いた雑草がわんさかと伸びている。 線路を挟んで向かい側には頼りない石造りの塀があり、その奥には即山という。 これ、イノシシとか侵入してきたらどうするんだよ。 死んじゃうよ、僕。 その前に死んでしまいそうな原因ランキング一位がこの屋根である。 トタンでできたそれは、さび付いていて強い風がひとつ吹こうもんなら僕の頭上へ真っ逆さまの不幸が訪れてしまいそうな佇まいだった。 訪れを待っているのは電車なのに。 この調子で、ベンチだったものや、柱などなど、挙げればきりがない。 


 そんな中で一つ、この空間には不似合いすぎる新しいICカード認証付きの改札口に目が留まってしまうのは必然である。 まるで、この新しく来たやつを、新参者をのけ者にするかのようなこの空間。 


 僕はこの真逆の状況下でそんな存在にはならないようにと頑張っている。 田舎者だと省かれないように。 田舎に新しいやつ、つまり都会っ子が来ても変わらないんだなと、そんなことをこの真新しい改札口に向かって思った。 この一年、何とか省かれずに過ごしてきたが、それも今日でオールリセット。 すべてがすべてそうというわけではないが(一年の時に築き上げた友達がいるから)、それでも理系だけで5クラス編成の僕の高校、正川(タダカワ)高校はほとんどの生徒がシャッフルされる。 よってさっきの言葉も過言ではないわけだ。 


 電車が来るまであと10分ほどか。 今日からまた新しい闘いの始まりだ……がんばれ、僕! そうやって自分に喝を入れていると突然、


 「あなたの願いをかなえましょう」


 「……うわぁっ! 」


 不意に聞こえてきた声に僕は驚き、バランスを崩した体はきれいにしりもちをつく体制へと移行されてしまった。


 「ああ、驚かせてしまってごめんなさい」


 立てます? と、僕に手を差し伸べてきた少年? は、心のこもっていない謝罪の言葉を述べた。 にやにやと笑っている辺り、僕のこの無様な姿を面白がっているんじゃないか? 


 恥ずかしい思いをしながらも少年の厚意を素直に受けとる。 いや、ちょっと待て。 その前に。


 「君……どこから入ってきたんだ? 」


 前述のとおり、この駅のホームは僕以外誰もいなかったはずだ。 隠れるような場所もない。 かといって、改札口の入場の音もなっていなかった。 無賃電車か? そんな風に勘ぐっていると、


 「え? そりゃもう、瞬間移動ですよ、瞬間移動」


 なにを聞いているんだか、と思ってそうな目をこちらに向けてくる少年。 フム。 なるほど。 彼はいわゆる厨二病とか、電波とか、とにかく面倒くさいやつだというのは確かだ。


 「へ、へぇ。 そうなんだー。 すごいなー」


 見事な棒読みで僕は返答する。 こういうのはかかわらずにスルーするのが一番いいと相場が決まっているのだ。


 「ふふふ、そうでしょう! すごいでしょう! 」


 とても上機嫌の少年。 嬉しそうで何より。 

 あ、違う違う、と本来の目的を思い出したのか、頭を軽く振る少年。

 

 「あなたの願いを叶えに来たんですよ」

 ちっ……話はそれなかったか。

 それにしてもさっきと同じことを言ったな、この人。 願い? 叶える? どこぞの魔神じゃあるまいし。


 「……あの、どういう意味? 」


 「あれ、言語設定間違えましたかね……あの、願いです。 あなたに願いはないのですか? 願ってもないですか? 」


 どうやら願いの意味は僕が思っている通りの意味のようだな。 ……なんか、言語設定とか聞きなれない単語が聞こえた気がしたが。 これも厨二病とかのやつだろうか。 ん、願ってもないって使い方違うのでは?


 「いや、ないわけではないけれど……」


 曖昧に答える僕。 これこそ日本人のスキルである。 そんな僕の返答にじれったく感じたのか、彼は、


 「じゃあ言ってくださいよ。 あなたの願い、ボクが叶えますから」


 とせかしてきた。 僕より背丈が頭一つ小さい場所にある彼からの目線は、見上げるように僕の目を真っすぐに射た。


 ……しかし整った顔立ちだな。 最初のセリフのインパクトが強すぎて気づかなかったがとてもきれいな顔をしている。 そのせいもあって僕は彼の性別を即座に識別できなかったのだ。 


 髪はショートカットで、首から上を見たら完全に人外だった。 これは悪口ではなく、天使のようという意味でだ。 吸い込まれそうな真っ黒の髪に、それを強調するかのように透き通る白い肌、高く整った鼻、ぱっちりとした二重の目、プルりとした唇……っておい、僕。 なに観察してんだよ。 完全に不審者だろ。 


 「……あの、ボクの顔に何かついてますか? 」


 じっと見られていた彼はたまらなくなったのか、そう尋ねてきた。


 「い、いや、何もついてないよ」


 慌てて僕はスッと顔を逸らす。


 さっきの続きだが(おい僕)、天使と言ったが、そうではないと判断した理由は彼の服装にある。 紺色の長袖パーカーに長ズボンのジーパンという、今日の気候にしては暑そうな、普通の格好だった。 僕の勝手な予想だが、天使とかはこう、神々しいというか、羽衣? とかを着ていそうだから。 そうでなくても、こんな普通の格好はしないだろうと思う。 偏見だけれど。

 結果、天使ではなく美しい少年と判断したのだ。


 それはさておき。

 願い……願いか。 どうだろう。 日常の中では腐るほど出てくる願いは、こうして熟考すると何も出てこないものだな。

 ……っておい僕、何まじめに考えているんだよ。 完全に怪しいだろう。

 ……うん、怪しい。 こうして何も疑いを持たないまま、彼の言われるがままちゃんと考えてしまっていた。 これが詐欺をするときの人を誘う話術か? いや、宗教か? 願いとか聞いてきたし……。


 とにかく、危ないということはわかる。 だから僕はこういう場合の最善の策をとった。


 「いや、すみませんが僕はそういうのはいいんで」


 よし! よくやった僕! しっかりとNOを言えたっ! 


 「え、ええー! 願い、叶えたくないんですか!? 」


 「いやだから、正直言って危ないじゃないか。 このご時世に願いが叶うとかどう考えても胡散臭すぎ……」


 ハッと気づいた時には遅かった。 何故か僕は思ったことを全て話してしまったのである。 こんなことをしゃべってしまうと彼の話を一応聞いていましたという証明になってしまうからだ。 どうしようと思い、少年を見ると……。


 え?


 ……見間違いかもしれたいが、彼に今、絶望の表情が見て取れた……かと思うと、


 「う、胡散臭すぎですか……。 はぁ……。 こんな結果、願ってもなかったのに……」


 と、通常の表情に戻っていた。 

 彼は僕のその言葉を聞いた後、諦めたのか肩を落としとぼとぼと改札口を出て行ってしまった。

 ……一体、何だったのだろうか。 話の内容も気になるが、何より最後のあの絶望の表情。 僕は彼と面識はないはずだけれど……。


 考えているうちに電車は来てしまった。 今から戦地へ赴くというのに、朝一番から余計な心配事が増えてしまった……。 ざわざわとする感情と、僕とを乗せ、電車は定時に出発した。


 


 


 

 一目くださりありがとうございます! 現在、別の作品も連載中ですが、そちらの方はいったんストップをかけようと思います。 この物語がひと段落着いたらまたかけるようになるので、その時はまたそちらの方もよろしくお願いします。

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