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09 バーニングエターナルラブファイヤー

―――少し時間は遡る。


「はあ……我ながらよう無事やった」

ずぶ濡れになった服を脱ぎ、ギュッと絞るとドボドボーと水がこぼれる。

バサっと広げて、パンパンと3回ほど振る。

ザザザっと飛沫が飛ぶ。


大体乾いた服を着直す。

「なかなか便利な体や、ホンマに」

独り言ちるリュータ。

力加減がコツなのだ。

間違えると服が破れる。


崖から落ちたリュータたちは、下に流れる川に落ち、そのまま流されてしまった。

なんとか川岸を捕まえて上がったはいいが、もうどこだかさっぱり分からない。


「この鎧ちゃんも大丈夫そうやし、荷物も無事やし、とりあえず良しかな」

なんとか自分を励ます。

顔も姿も少しも見えないが、鎧は凹んでないし、さっきまで必死にしがみついていたので命はまず大丈夫だろうと思うことにした。


「この鎧ちゃんはどないしたらええんやろね?」

鎧を叩いてみる。

――ゴンゴン――

「硬い音がするね」


――ゴゴンゴゴンゴンゴン――

「だいぶ硬い音がするね」


――ゴンゴンゴーンゴ、ゴンゴンゴンゴゴゴゴーン――

「起きませんか?」

聞いてみる。

「起きなさそ」

「ここは!? あれ!?」

「う? 起きた? 起きてます?」

聞いてみる。

「誰がこんなことを!? 私は何をされるんです!? 私は卑劣感に屈したりは致しません!」


「………聞こえてないし、なんか盛り上がってはるね。ちょっと待っとこ」

そんなわけで、鎧が落ち着くまでしばらく待つことにしてみた。

待ってみたのはいいのだが、鎧はどんどんと謎の盛り上がりを見せ、いつの間にやら、謎の勇者様との大恋愛に発展して行った。


ちょっと待とうと思ったせいで、完全に声を掛けるタイミングを失ったのは痛い失点だった。


中でも鎧に想いを寄せる騎士スキモーが力づくで鎧を奪おうとし、それに呼応した500人の完全武装の騎士と、武器を取り上げられたった1人、素手で戦う勇者様との激闘の盛り上がりを突っ込まずに聞きに徹するのはかなりの自制心を必要とした。


リュータは途中、ウトウトしたり、おやつを食べたり、辺りを見に行ったりして、いよいよ日が傾きそうになった頃、意を決して、ついに佳境を迎えたお話を遮ったのだった。



◆◆◆◆◆◆



「ああ! アアンっ! はぁ…あっ! ダメですぅ!」

「ここ?」

「アッ! そん…あっ! もっと優しく……っ、はぁんン……」

「こうならどないや?」

「いや! ああ! そんな!あ、すごい! いいっ!」

「てか、いちいち賑やこいな」


そんなこんなで鎧の鎧を外す。


「助かりました」

鎧の中から出てきたのは、灰褐色の髪を肩甲骨まで伸ばした少女だった。

ペコンと頭を下げると、頭の上についた犬みたいな耳がピコンと見える。

「いえいえ、お互い様やから。あ、僕はリュータ言います。《株式会社ハタラキアリ運送》やってます」

「カブ? ありうんそう?」

ピコピコと耳を動かして首をひねる。

「ああ、まあ、難しう考えんといて下さい。チョロさんでええんですよね?」

「そうって、え? あれ? なぜワタシの名前を? まさか、ワタシに恋焦がれる異国の王子様? やっぱり、ワタシの可愛さは地平を超えるんですね!」

「やっぱり? やっぱりかは知りませんけど、さっき言ってはりましたよ。……勇者様に」

『キャー』とほっぺたを押さえてくねくねしていたのが、ピキっと固まる。


そして、ビシッと居住まいを糺す。

「ワタシは、ビフージャキー王国、第4王女、チョロ・ジャーキーです。この度は、危ないところを助けて下さりまして、誠にありがとうございます」

品のある仕草で自己紹介するチョロ。

無かったことにしたいらしい。


「王女! 王女って設定はほんまやったんですね。へぇー」

ビシッとしたまま再びピキっと固まる。

「そしたら、あれですか? ハラクロイ宰相さんに罠に嵌められて鶴に襲われる羽目になったいうんも、ホンマなんですか?」

顔が真っ赤になる。

「ち、違います! ハラクロイは確かにドワンフとしては問題がありますが、極めて優秀な政治家……というか、忘れて下さい! さっきの件は忘れて下さい!」

真っ赤になって否定するチョロ。

「え?なんでですのん? よう出来てましたよ、あの話。『ドラゴンの炎など、俺の愛の炎に比ぶまでもない! 食らえバーニングエターナルラブファイヤー!』なんて、なかなかな名台詞やと思いますよ?」

「本気でやめて下さい! ほんとにお願いします! 何でもするんで、やめてください!」

涙目になるチョロ。


「さよですか。したら止めます。それより、聞きたいんですが、その頭についてる耳はなんですの?」

「え? 何って、耳ですよ! 耳、ほら」

ピコピコ動く。

「犬の耳があるんですか?」

「犬!? 犬ではありません! 我々はドワンフ! 誇り高き狼の一族です! 犬なんていう家畜ごときと一緒にしないでください! てか、なんなんですか? ドワンフをバカにしてるんですか? ちょっと人数が多いからって、ヒト族は!」

烈火のごとく怒りだすチョロ。


リュータは慌てて謝り、今度は自分が異世界から来たという話をすることになった。




「すん、すん、リュータさんも苦労されたんですねぇ、すんすん」

鼻をすすって泣くチョロ。

「いや、苦労はしてへんのですけどね」

「無理しないで下さい。ワタシが抱きしめて差し上げます! さあ」

そう言うと両手を広げる。

「いや、別に無理はしてへんですけど」

「またまたぁ、無理しないで下さい。ワタシが抱きしめて差し上げますから! さあ」

さあ、と言いながら、自分から近づいて、リュータを抱きしめる。


抱きしめられるリュータ。

ふわんと甘い匂いがする。

意外と固い。

すると、リュータは見つけてしまった。


それは、フサフサと揺れる尻尾だった。



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