08 出会い
「こいつぁ大事だな」
明くる日の昼過ぎ、穴の空いた地面を見ながらアニが呟く。
リュータの荷車を見つけた通行人から冒険者ギルドに連絡が行き、冒険者ギルドからバクブロスに依頼が来たからだ。
リュータが帰って来てないことから、実力のある者が選ばれた。
鉄火場は二日酔いで役に立たなかった。
「兄貴、コイツを」
トウトが持っているのは大きな白い羽根。
チラッと見ると、眉を上げる。
「コウオンハクツルか?」
「ああ、多分」
「ハタオリ山の嫌われ大将が、こんな所に?」
「引っ掛けたんだろ?」
「あの、鎧野郎か?」
「ああ、多分」
「んー……厄介なことを」
「鎧野郎はなんて?」
「ヤケドがひどくてまだ喋れねえ」
「そいつは災難だな」
鎧の2人組と、リュータを追いかけ回した巨大な鶴はコウオンハクツルという。
サルドンやカニドンから少し離れた所にあるハタオリ山を支配する独裁者だ。
「それより、どう見ても身代わりの羽だ」
トウトが手に持った白い羽根を振る。
「不死身のバケモンが命の危険を感じたか」
コウオンハクツルが厄介な理由は山ほどあるのだが、その最大の理由が、『身代わりの羽』という魔法だ。
命の危険がある攻撃を無効化してしまうという反則級の魔法で、使うと羽が1枚抜ける。
元々、防御力が図抜けて高いせいで、まともに攻撃が通らない。それ以前にビュンビュン動き回るから当たらないのだが。その堅い堅い防御をなんとかかいくぐって乾坤一擲の一撃を見舞った所で、羽1枚。
ちなみにこの羽は、ものすごい高値で取り引きされる。
10年に1度ぐらいしか出回らないから。
「あの捻じ切られてる木だろうな」
森の中にドーンと倒れている大木。
トウトほどに太い。
根元の4分の1は鋭利な刃物で切られていて、残りは無理矢理捻じ切ったような跡がある。
「リュータだな」
「間違いない」
「ってことは……」
「これはリュータの足跡か……」
森の中にあるクワで掘り返したような1本の道。
「どうせあの、バカでかいリュックを背負って走ったんだろ?」
アニがニヤっと笑う。
「手荷物らしいがな」
トウトもギラっと笑う。
「まあ、リュータがどうこうなるとは思えん。こいつを辿ってからだ。シャムバックに先行させろ。早い方がいい」
「ああ」
「………」
「………」
アニとトウトは手元の真っ白く艶やかな羽に目を落とし、唾を飲み込んだ。
◆◆◆◆◆◆
―――1日ほど遡る。
「ここは!? あれ!?」
気が付き起き上がろうとして体が動かない。
辺りも暗い。
「誰がこんなことを!? 私は何をされるんです!? 私は卑劣感に屈したりは致しません!」
動かない体のままアワアワする。
「あ、違う。魔械鎧だ。魔械鎧着てたんだ」
思い出す。
「って動かないってことは、壊れてるじゃないですか!? しかも見えないってことはダメージ4!?」
遅れて気付く。
「どうすれば!?私はどうすればいいんですかー!?」
とりあえず叫ぶ。
「は、そうだ。緊急外鎧! そうだそうだ」
落ち着く。
「こんな時の緊急外鎧ですよね! 用意しといて良かった! よし、じゃあ頼みますよ!」
ゴホンと咳払いする。
「リリース!」
リリース…
リリース……
リリース………
鎧の中に合言葉が響く。
「………壊れてるっ!」
それだけだった。
「そんな! 緊急外鎧すら壊れるなんて!」
再び慌てる。
「でも、緊急外鎧が壊れるレベルの衝撃を受けたのに、たぶん無傷とは……やるわね!」
喜ぶ。
「しかし、どうしたものでしょう? するとすれば外から外してもらうんですが、誰かいるんでしょうか? 辺りが見えないというのは困りますね」
うーんと悩む。
「でも、こういう時は、ステキな勇者様が助けてくれるんです」
何か言い出す。
「『大丈夫ですか?』」
少し低い声を出す。
「ああ、どうかお助け下さい! 鎧を外して頂きたいのです! 『おお、なんと可憐な声だ! まさか女性だったとは! どうすればよろしいのですか?』 ああ、心優しき方が助けて下さって、私は幸運です! 『まさか、私の方こそ、このような場所で困っている可憐なレディを助ける機会を得ようなどとは!』 ああ!勇者様!」
そして始まる勇者との大冒険。
優しくて強くてカッコイイ勇者と、波乱万丈の冒険が始まる。
恋に落ちる2人。引き裂かれる2人。しかし、幾多の困難を乗り越え、遂に結ばれる2人。
「ああ!勇者様、どうか、この私をアナタ様のものに! 『ああ、チョロ。俺も君とこの時を迎えることができ、とても嬉しいよ!』 勇者様! 『チョロ!』 ああー!愛しております! 『俺もだよ、チョロ!』」
「そろそろええかな?」
「ああ! 勇者様! スゴくたくましい!!」
「もしもーし」
「そんな!? そんなところまで!」
「おーい、聞いてる?」
「いえ、よろしいのです。全てを受け入れる覚悟は出来ております! さあ! さあ!勇者様の全てをわ、え?」
「……もうちょっと邪魔せん方がええんやろか?」
「ん?」
「お? 気づいた? 気づいたやろか? 聞こえますかー?」
「ヴェっ!? だだだだだ誰かいるのですか?」
「ええ、いてますよ」
呑気な声が聞こえる。
「勇者様やないですけど」
「ぎぃやああああーー!!」
悲鳴が轟いた。