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06 狩り

「そっちいったぞ!」

と指示が飛ぶ。

「いやー、あっちゅう間やねー」

と呑気な声がする。


「何やってんだヘタクソ!!」

と怒声が飛ぶ。

「あんなんどうやって当てますん?」

と呑気な声がする。


「トロトロすんじゃねえぞ!」

と檄が飛ぶ。

「さすがに迫力がちゃいますねー」

と呑気な声がする。


リュータは、先日約束した通り、鉄火場と火事場の合同大狩猟に参加していた。

狩人ではない、雑用係兼荷物持ちだ。


サルドンの向こう側にある山、カチンカチン山に来ている。

今日の狙い目は、背中に生えた真っ赤なたてがみが高く売れるヒヒダヌキと、白い毛皮と独特な風味の肉が高く売れるカラシウサギだ。

どちらも全長3mを超える巨大モンスターだ。


今はカラシウサギを見つけて追い込んでいる最中で、先頭を走るのは、大剣の二刀流というとんでもない装備のアネゴ。

両手の大剣が『カニ』と呼ばれる理由である。


バランスの取れたメンバーで確実に削るのがバグブロスのスタイル。

鉄火場はメンバーが追い込んで、アネゴが一撃で仕留めるスタイル。


バグブロスは確実性が高い。しかし、どうしても傷が増える。

逆に、鉄火場はギャンブル性が高くなりボウズも多いが、獲物の状態がいい。


どちらにしても大型モンスター相手に1歩も引かない、ネジのぶっ飛んだ集団である。


「おおらぁー!」

大音声と共に岩が飛び、逃げるカラシウサギの足元で砕ける。

火事場のリーダー、ヌケタの仕業である。

オニノツナヒキの糸を使った投石紐で、岩を放り投げるのが彼のスタイルだ。


「ビエエッ!」

岩が足元で弾けたせいで、バランスを崩したカラシウサギが足を止め、耳を膨らませて威嚇する。


「うらぁああー!!」

その一瞬を逃さず、アネゴが一気に距離を詰めると、両手の大剣がしなるほどの勢いで振り抜かれる。

巨大ウサギの首で鋭く交差した大剣が、その首を跳ね飛ばす。


「「「うぉぉぉー!」」」

雄叫びが上がる。

すぐさまメンバーがウサギの体と首に近づき、ロープをかける。

「リュータ! たのむぞ!」

「はいはい。任せて下さい」

ウサギの足に括り大木の枝に掛けたロープの端を渡される。

「よーいしょー!」

気が入らない掛け声を掛けてリュータがロープを引っ張ると、巨大なウサギが逆さまに持ち上がり、首から血がドボドボと落ちる。

リュータはそのままロープを木に括り付ける。


「リュータはバケモンだな」

頭も同じように木にぶら下げるリュータを見ながら、ご機嫌のアネゴ。

「アネゴさんに比べたら、僕なんてただの人ですわ」

周りから見ればどっちも人外に変わりはないが、2人は楽しそうに笑う。


「うさぎの血があるていどぬけたら、今日は終わりだ」

時間はまだ昼過ぎだが、夜明け前から動いているので、みんなにも疲れが見える。

「いやー、大漁でしたね」

リュータが感想を漏らす。

「上等、上等」

ヌケタも頷く。

「めしにするぞー!」

「あ、そしたら出しますね」


リュータが当たり前のように背負っている巨大なリュックから食料を取り出すと、程なくして準備が整う。

簡単な料理だったが、大戦果というスパイスが効いた勝利の味にみんなが舌鼓を打った。



「どないします? この量やったら、直接サルドンに持ち込む方がええかも知れませんけど?」

荷車にウサギを載せたリュータが聞く。

今日の戦果はウサギが2羽に、タヌキが1匹。


「うーん……そうだな。サルドンに入れよう。カニドンには後でほうこくすればいいだろう。ヌケタ、やっといてくれ」

「はい……」

見た目の通り書類仕事が大の苦手なアネゴは、ヌケタに面倒事をぶん投げた。


鉄火場も火事場もカニドンの所属なので、本来であれば1度、カニドンのギルドに持ち込むのが筋である。

しかし、必ずではない。


今回は、サルドンの方が近い。

それに獲物の量から見ても、カニドンに入れても結局、サルドンに運ぶことになりそうなので、カニドンに入れた(てい)にして、直接サルドンに持ち込むことになった。



◆◆◆◆◆◆



「大したもんやねーやっぱり」

カニドンへ帰る道すがら、独り言ちる。

サルドンで荷物を下ろした後、祝勝会に誘われたが、断って帰路に着いた。


「色も付けてもらえたし、楽しい1日やったわ」

空の荷車を風船でも持ってるように引っ張る。

いい値段で買い取ってもらえたので、喜んだ両リーダーがボーナスもつけてくれた。


「しっかし、さすがに眠い」

欠伸を噛み殺す。

夜の内から、一同を乗せて現場まで運んだからだ。

「トップクラスの冒険者さんは、ホンマモンのバケモンさんやね、明け方まで飲みはるんやろな」

かつて1度参加した鉄火場の祝勝会を思い出して苦笑いするリュータ。

楽しかったが、ちょっとした地獄でもあった。

「帰って一眠(ひとねむ)りしよー」

今度は大きな欠伸をする。


―――ギュロロローン!―――

「なんや!?」

ビクッとして、周りを見渡す。


―――ギューロローーン!―――

「………」

渋い顔になるリュータ。

「聞きたないモンが聞こえとる気がする」

リュータがいるのはサルドンとカニドンを繋ぐ街道だ。

そこで明らかに大型モンスターの鳴き声が聞こえる。


「せめて姿は見とかなアカンよね」

倒さなくとも、依頼をする時にどんな魔物かが分かっているの分かってないのでは難易度が大きく変わる。


「大騒ぎになりませんように」

言いながら、荷物から紙を取り出して、サラサラと書きつける。

『けったいなモンスターの声がしたので見に行きます リュータ』


書いた紙を荷車に貼り付ける

荷車から手荷物を引っ張り出す。

ついでにカイゼルハウゼルマークⅣも出して荷物に突っ込む。

出来た荷物を背負う。


「さ、行ってみますか。まあ、明日も休みで良かったわ」

明日は1日寝ようと軽く踏み出した。


しばらく帰れなくなるとは露ほども思わず。


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