05 日常④
「壮観ですね!」
「おう! 任せろ!」
リュータの荷車を囲むのはアニを筆頭にバグブロスのメンバー8人。
武装を整え、馬にまたがった姿は頼もしい。
「いいか! いつも通り、絶対にリュータの前と後ろには出るなよ!」
「「「「「「へい!!」」」」」」
応じるバグブロス。
「へい?」
1人疑問形のシャムバック。
「シャムバック、お前、初めてだから分かんねえだろうが、よく覚えとけよ。あと、お前は後ろの右側だ」
アニが声を掛ける。
「ちゃんと付いてこいよ」
トウトに念を押される。
「へい?」
やっぱり疑問形のシャムバック。
シャムバックは斥候なので、移動速度には自信がある。
巨大な荷車を引くリュータに遅れるなど考えられない。
「大丈夫です。今日は、大物もいてるし、中も割れやすいもんがそこそこありますんで、飛ばしません」
「そいつはありがてぇ」
ドワッハッハとみんなが笑う。
「??」
妙なノリに1人首を捻るシャムバック。
「そしたら出ますー。よいしょーっ!」
掛け声と共にリュータが歩き出す。
遠目に見ると人物と荷物のサイズ感がおかしいのだが、普通の荷車引いてますぐらいの簡単さでカラカラと荷車が動き出す。
速さも歩くのと変わらない。
『さすがにこんなもんだわな』
シャムバックは内心でそう呟く。冷静を装って。
内心なのに。
実際には、なんで動くんだよ!とか、おかしいだろ!とかバケモンじゃねえか!とか仲間全員に詰め寄りたいのだが、みんな当たり前の顔をしてるので、自分も頑張って平静を装っている。
リュータが進み出すと同時に、仲間の3人がリュータを置いてさっさと行ってしまう。
先行する3人は、リュータの制服と同じ、深緑にアリのマークの旗を持っている。
「どこ行ったんです?」
パカパカと馬を歩かせながら隣のトウトに聞く。
「先行して道を開けてもらうんだ。事故があっちゃいかんからな」
「へえ?」
よく分からなかったけど、聞き直すと怒られそうなので、飲み込んだ。
「そしたら、行きましょかー」
街を出た所でリュータが声を掛ける。
ここからサルドンまでは整備された一本道の街道だ。
「いいぜ!」
アニが楽しそうに応える。
リュータは荷車の持ち手を握り直すと、少し前屈みになる。
「サルドンにしゅっぱーつ!」
掛け声をかけて進み出す。
カラカラと静かに進む荷車がグングン加速する。
併走する馬も速歩だ。
「シャムバック! 後ろを走るな! 横だ横! 危ねえぞ!」
トウトから怒鳴り声が飛んで、慌てて走路を変える。
速歩のまま、どんどん進む。途中、他の馬車などもいるが、全員道の脇に止まって休憩中だ。
リュータは『こんにちはー』などと平和に挨拶をしている。
ビュンビュン進みながらも、荷車の動きはとてもスムーズだ。
カーブでは2台が等間隔を維持したまま街道を逸れることなく走る。
上り坂も下り坂も、非常に滑らかに走る。
そのままリュータは休むことなく街道を走破した。歩いて2時間ほどかかる距離を30分少々で。
滑らかにブレーキングすると、王都の門の手前で柔らかに止まる。
先行していた3人が待っていた。
リュータは止めるとすぐに、荷車の中に入り荷物を確認する。
多少、息が切れているが、全く疲れた気配はない。
気になってシャムバックも中を覗く。
きっちりと積み込まれた荷物は、出る前と同じ形で載っていた。
「すげえ……」
思わずこぼれる。
「これも、ここも、このこも大丈夫そうやね…よしよし、ええ感じや。アゴさんはどないやろ?」
手早く荷車を調べると、台車に回ると紐をほどき、布をはがす。
「完璧だな!」
傷一つない立派な足を見てアニが嬉しそうな声を上げる。
「うわ!やってもうた!」
その反対側からリュータの悲鳴が聞こえる。
『なんだなんだ?』とみんながリュータの方に集まる。
「アニさん、すんません。ここ切ってしまってます」
リュータが謝る。
ん?と見てみると、確かにしっぽの先っぽがちぎれている。
「これか?」
隣のトウトに聞く。
「これのことじゃねえか?」
トウトも自信なさげだ。
「……しっぽって残ってたか?」
「覚えてねえ」
メンバーも首をひねる。
「傷モンにしてもうた、どうさせてもらいましょう?」
心から申し訳なさそうなリュータにアニとトウトが大爆笑する。
「気にしすぎだ、リュータ!」
「こんなもん、傷にもなってねえ!」
バシバシとリュータを叩く。
「大丈夫だ! 俺たちゃ満足してる! 完品だよ!」
「いや、そんな訳には」
しょげるリュータ。
「いいか、リュータ。覚えとけ」
アニが笑いながら話しかける。
「クチハワザウルスの価値は、顎と牙と足、ここで8割だ。後は心臓と肝。この心臓と肝がサルドンじゃねえと素材に出来ねぇんだ。ここに全身そのんまんま持ってきただけで、リュータの仕事は出来てる。しっぽの先っぽなんて、そもそもゴミになるだけだ」
「そうなんですか?」
「ああ。かえってゴミを減らせて良かったんじゃねえか?なあ?」
「違えねえ」
みんなも笑う。
「だから大丈夫。こっちは大満足だ!」
「ああ!」
「ありがとうございます」
リュータも釣られて笑う。
「さ、早いこと金に替えに行こうぜ! リュータが動かなきゃ動かせねえんだ」
肩を叩かれて動き出す。
荷物を下ろして、帰りの荷物を積む。
こうして帰ったら荷物を下ろす。
いつも通り問題なく、リュータの1日の仕事は終わった。