04 日常③
「アゴさんは最後にして、細かいのから積んでいきますね」
言うなりリュータはクチハワザウルスの隣で山のようになっている、他の素材の方へ行く。
取ってきた冒険者ごとに分けて、それがいくつかまとまって箱に入っている。
「積むったって…この量1人で、どうや……え!?」
『ぎょうさんありますねー』とか言いながら、素材の前に着くと、素材を入れた巨大な箱の縁を片手でつかんで、ひょいっと持ち上げる。
片手鍋でも持ってるような気軽さだ。
両手に1つずつ、自分の大きさぐらいある箱を持ちながら、『今回はなかなか粒揃いちゃいます?』などとアニらと話している。
わずか3往復で、素材の山はリュータの荷車に積み込まれた。
少し残っているのは、割れやす過ぎるものだったり、梱包不良だったりと、今回は引き受けられないものだ。
これらは、別で冒険者への運搬依頼に回される。
「な? シャムバック」
アニが呆然としているシャムバックの肩を叩く。
ここまでの荷物で荷車のほとんどが埋まってしまった。
「さて、このアゴさんは僕のに入り切りませんので、台車、お借りてもよろしいです?」
クチハワザウルスの周りをトコトコ歩いて、一応大きさを確認した後、ハツラに声を掛ける。
「ええ、勿論です」
「ありがとさんです」
ハツラに許可を取ると、倉庫に立て掛けてあったでっかい戸板に2つの車輪が付いただけのような台車をホイホイと引っ張って来る。
普通であれば、4人以上で動かす台車だ。
「えいしょっと」
初めて掛け声らしい掛け声を掛けると、クチハワザウルスの体を持ち上げ、台車を滑り込ませていく。
巨大な身体を布団をめくるみたいに軽々と持ち上げ、巨大な台車をノートに下敷きを挟むような手軽さで滑り込ませる。
「なんじゃありゃ……」
あまりの光景に言葉を失うシャムバック。
バクブロスのメンバー8人がかりで必死に運び込んだクチハワザウルスをリュータがたった1人でいとも簡単に台車に載せてしまったからだ。
積み終わったリュータは自分の荷車の後ろまで引っ張っていくと、自分の荷車から、黒いロープと茶色い布を取り出す。
リュータの荷車は二重屋根になっている。その隙間に色々な道具が積んであるのだ。
「オニノツナヒキ、役に立ってるか?」
黒いロープを見たトウトが、野太い声を掛ける。
新米冒険者だったら泣いてるかもしれない。
「ええ! そりゃあもうものごっつ立ってます。バグブロスさんが融通してくれはったおかげです、ホンマにありがとうございます」
この黒いロープは、オニノツナヒキというハムスターぐらいの大きさのクモ型モンスターの糸をより合わせたものだ。柔らかく滑らかだが、恐ろしく丈夫な高級ロープだ。
ロープがよく切れて困っていたリュータのためにバグブロスが揃えてくれた。
「役に立ってるならそれでいい」
トウトがニヤリと笑う。
コボルトぐらいなら泣いて謝るかもしれない。
「そっちはアマゴイモモンガの皮膜か?」
茶色い布を指して言う。
アマゴイモモンガは、山から山へと滑空する大きなモモンガで、その皮膜は、耐候性と対刃性に優れている。
「ええ。鉄火場さんが融通してくれはりました」
「むぅ……いいサイズだな。さすが怒髪ガニ」
怒髪ガニというのは、アネゴのあだ名だ。
あだ名の由来は語り尽くせない。
「茶色いから、安うしとくって言ってくれはったんで、遠慮なしにお言葉に甘えました」
アマゴイモモンガには茶色いのと白いのがいて、白い方が高級だ。
茶色も決して安くはないのだが。
剥き出しのクチハワザウルスに布を掛けて、紐で括る。
素材を傷めず、動かない縛り方は地味に高等テクニックでリュータもこれを覚えるのに苦労した。
準備を終えたリュータが全体を確認する。
積み荷の寄りや、固定の状態などを手早く調べる。
満載の荷車と台車が1台。
「我ながら大したもんやなぁ」
しみじみとつぶやく。
「まあ、そない苦労した記憶もないけど」
自分で言って笑う。
ハタラキアリ運送を立ち上げてすぐは、荷物が少なかった。
実績も信頼もないから当たり前だが。
そんなハタラキアリ運送の1人目のお客さんが、ララとリリの父親、ハハだった。
サルドンの食堂に卸していた野菜を試しにとリュータに任せてくれた。
理由は近所の温情だった。
しかし、試してみるとこれが良かった。
一度にこれまでの何倍もの野菜が運べるし、毎週運べる。
初めサルドンにある2つだけだった卸先は、サルドンだけでなくウスドンにもクリドンにもハチドンにも広がり、今では50以上に広がっている。
ハハのクチコミで色んな人がそれなら試しに、と使ってくれるようになり、あれよあれよという間に、商業ギルドがお得意さんになり、冒険者ギルドもお得意さんになった。
最近では建設ギルドや、スミスギルドなどからも大型荷物の依頼が来るようになった。
「さて、今日も安全第一で行きましょう。皆さん、よろしう頼みます」
感傷を打ち切って、リュータはバグブロスに頭を下げた。