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03 日常②

「おはようさんですー」

元気の良い挨拶と共に、ギルドの裏手にある大型倉庫に入るリュータ。

「おぉーっ!」

そして歓声を上げる。


「クチハワザウルスや! ごっつい顎やなぁ! イカついなぁ!」

倉庫に置いてあった巨大な顎を持つ恐竜に似た大型モンスター・クチハワザウルスに歓声を上げる。

傷だらけの体や折れた爪など激戦が窺える中、その自慢の牙だけは傷一つなく威容を誇っている。


「お? なんだお前?」

モンスターの前にいた痩せ型、猫背の男がリュータを誰何する。

「あ、お世話さんです。ハタラキアリ運輸のリュータ言います」

「ああ、お前が馬車馬(ばしゃうま)か」

「ははっ! 久しぶりに聞きました、馬車馬! 駄馬ですが、ひとつよろしうに」

リュータが頭を下げると、『はっ』と鼻で笑う。

「馬が来たら呼べって言われてるから、リーダー呼んでくる。勝手に触るんじゃねえぞ?」

「待ってます」

猫背の男は、猫みたいに音のしない足取りで倉庫から出て行った。


「よう、リュータ! 今日は頼むわ」

「アニさん! ごぶさたしてます。 こちらこそよろしう頼みます」

猫背の男が連れてきたのは、『鉄火場』と共にこのカニドンの街で活躍する実力者パーティ『バグブロス』のリーダー・アニ、32歳だった。


スラリと引き締まった体に、ヤンチャな顔をしていて女性からの人気が高い。

自然体で歩み寄って来て、握手。そのまま肩を組んでくる。

「久しぶりに大物がとれたからな!リュータの荷車捌き、楽しませて貰うぜ」

子どもみたいに笑う。

非常にフレンドリーな人だ。


「リュータさん、これも一緒にお願いできますかー?」

やいのやいのリュータとアニが盛り上がっていると、ハツラがやってくる。

手に数通の封筒を持っている。

「モチロンです。そのままで大丈夫ですか?」

「ええ。大丈夫です。良かった、この書類、明日までだったんで、間に合わなかったら、シラセドリ飛ばさないといけなかったんで」


シラセドリは手紙を運ぶために訓練された白い鳥で、早いのだが値段が少し高い。


「シラセドリは早えけど、高えからな。良かったじゃねえか。しかも、リュータならシラセドリとそこまで変わんねえしな」

「流石に鳥には敵いませんわ」

「リュータさんの方が、お手紙がキレイに届きますしね」


「なんだアイツ?」

談笑する3人をおもしろくない目で見る猫背。

「ハツラちゃんと仲良くしやがって、馬車馬ごとっでえ!?」

ゴヅンという鈍い音とともに、猫背が頭を抱えて崩れ落ちる。

「口の効き方に気ぃつけろ、シャムバック」

拳を振り降ろしたのは、筋肉ではち切れそうな体にスキンヘッドという強面の男。バグブロスの副リーダー、トウト、31歳。

リーダー、アニの実弟だ。


騒ぎを見たアニが、うずくまるシャムバックにカツカツと足音を立てて近付く。

そして、その頭をガシッとつかむ。


「シャムバック。バグブロスの名前に恥かかすようなら居場所はねえかんなぁ?」

その軽薄な声音にシャムバックの額にどっと冷や汗が浮く。

「リュータが車出してくれるお陰で、あの顎野郎は2割は高く捌けるんだ。てめぇ一人で顎野郎の2割分、稼ぐか? お?」

「す、す、す、すいません」

青くなって震えるシャムバック。

クチハワザウルス引き取り額の2割と言えば、一財産だ。

ソロで簡単に稼げるものじゃない。


「それに!」

ハツラが腰に手を当てて鋭い声を出す。

「リュータさんがまとめて運搬してくれるおかげで、皆さんの使ってるポーションや、保存食は隣のウスドンと比べても3割以上安いんですよ!」

「だってよ、シャムバック」

つかんだ頭をグイッと押し下げると、アニもリュータに頭を下げる。

トウトも倣って頭を下げる。

「すまねえな、リュータ。このバカの不始末はリーダーの俺の不始末だ。大したこたぁ出来ねえが今回の護衛料は無しってことで流してくれやしねえか?」

「いやいや、そんなんよろしいですよ。大型モンスター狩ったんは自分らや!っていう気概は当然あるでしょうし、ギルドの公式オファーを無償でやったとなると、他のパーティさんにも迷惑かける事になるかもしれませんし。僕はそんなん全然気にならへん性質(たち)なんで、難しう考えんといてください」

リュータは手を振って申し出を断る。


この世界で普通、荷物を運ぶのは、行商人か冒険者だ。

行商人の場合は当然、動いた分だけ高くなるし、売りたいものしか動かさない。

冒険者の場合は、運べる荷物が少ない。

そのため、運ぶ距離や大きさ、重さが、物価に直で反映される。


しかし、リュータの仕事が軌道に乗り始めてからは、そこの事情が大きく変わった。

まず物量が圧倒的に増えた。

そして、物量が増えたことにより、荷物1つあたりの輸送にかかるコストが激減した。

最後に、リュータの能力により重いという基準がかなり緩いので、重いものでも安く動かせるようになった。


例えば、ポーション(傷薬)

これまでは小分けにした瓶の形で運ばれていたため、一度に運べる量がどうしても少なく、割れるのが怖いため運搬に必要な時間が長かった。

しかし、安定度の高い低級ポーションは樽のまま運べるようになった。

運んだ先で小分けにすれば単価は下がるし、瓶が割れるなどの事故によるロスも激減した。

結果、ハツラが言ったように、低級ポーションで言えば、隣のウスドンと価格にして3割以上安い。

中級以上のポーションは劣化を防ぐ専用の容器に入れる必要があるため、低級ほどの恩恵は受けていないものの、それでも一度に運べる量が増えたために、以前に比べれば1割近く安くなっている。


ポーションの価格が下がったことで、一番大きな恩恵を受けているのは冒険者だ。

上位の冒険者になればなるほど、リュータの存在に感謝している者が多い。


「助かったな、シャムバック」

頭から手を離す。

「ただ、次は無えからな。頼むぜシャムバック」

どこまでも軽薄な声は、どこまでも冷たかった。


「ありがとうよ、リュータ。今度、酒でも奢らせてくれ」

一転、楽しげな声に変わってリュータに話しかける。

「ええ、喜んで。ありがとうございます」


この後、シャムバックはリュータの実力を見ることになる。


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