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02 日常①

「毎度おおきにですー」

大口顧客の商業ギルドから荷物を預かる。

手紙や帳簿など紙が多いため、見た目よりも重い。

金貨などの貴重品は通常便では運ばない約束をしている。

「いつも助かります」

そう言って頭を下げるのは、妖艶な雰囲気のお姉様、商業ギルドカニドン支部の通信部担当のエルカだ。

控え目に言って絶世の美女である。

頭を下げると現れる隙間からチラチラと見えそうだ。


「いえいえ、こっちこそ、商業ギルドさんには良うしてもらってて、ありがたい限りです」

リュータも頭を下げる。

「また今度、ウスドン支部と大口の取引がありますの。ゆっくりお話させて頂きたいわ」

ふぅっと息を抜き、ちらりと流し目。

するりと細い指がリュータの肩に置かれる。

「2人っきりで」

息が耳にかかるほどの距離で付け加える。

柔らかな何かが腕につかえる。


「ほんまですか! ええ、ええ、もちろん。勉強させて貰いますんで、よろしう頼みます。そしたら、今日の分もちゃーんとさせてもらいますんで、ありがとうございます」

リュータはニコニコと答えると、手紙やら帳簿が入った巨大な袋をひょいと担いで、荷車に戻る。

『お約束ですからね』と言いながら手を振るエルカに見送られて荷車を引っ張る。


カラカラとあちこちで荷物を拾いながら、街中を歩く。

みんなから声を掛けられて、荷物を頼まれたり世間話をしたりと忙しい。


「毎度おおきにですー」

大口顧客の冒険者ギルドに入る。

「あ、リュータさん!」

リュータに気づいてピョコンと飛び上がったのは、ギルドの受付嬢をしているハツラ、18歳。

2つにくくった茶色い髪もぴょこんとはねる。

元気で丁寧な対応で荒くれ者からも人気があるアイドル的な存在だ。


「お久しぶりですね〜」

ハツラがニコニコする。

「いやいや、そない経ってませんやん」

「えー、先週の火曜以来ですよ! 今週はタイミングが合わなかったんで」

手を振って怒りをアピールするハツラ。

「うわっそんなに経ってましたか!僕、おじいちゃんなってますやん!」

わざとらしく驚いて、2人で笑う。

「今日はサルドン行きですからね、たくさんありますよ。裏に回って下さい」

「おおきにです。そうさせてもらいます」

ぺこりと頭を下げるリュータ。


「リュータ!」

出口へ向かうリュータを呼び止める声がする。

「あ、アネゴさん。おはようさんです」

「おはよう。あい変わらずていねいだな」

アネゴさんと呼ばれたのは、背が高いリュータでも見上げる上背。

服の上からでも鍛えられているのがよく分かる逞しい体。

燃えるような赤い髪の女性だ。

カニドンの冒険者の中でも五指に入る実力を持つパーティ『鉄火場』のリーダーを務めている。


「今日は鉄火場さんがついてくれはるんですか?」

リュータが聞くとアネゴは少し寂しそうな顔になる。

「いや、今回はわたしたちじゃないんだ。ボウズだったからな……。ウワバミオオオロチを空ぶってしまってな……」


ウワバミオオオロチは大人5人程を一度にペロリと飲み込んでしまうほどの大蛇モンスターだ。


「さよですか…。残念でしたね。まあ、鉄火場さんは大物を狙いはるから、空振りも増えますわな。鉄火場さんの勘気に当てられたらかなわんー言うてヘビもしっぽ巻いて逃げてもうたんですわ。とぐろ巻いて待っとってくれたらちょいちょいやったんでしょうけどねぇ」

「リュータはやさしいな。ありがとう。次はまたたのむ」

「いやいや、こちらこそですわ。皆さんにおんぶに抱っこで守って貰ってやっと勤まる仕事ですから。そんときは、よろしう頼んます」

ぺこりと頭を下げる。


冒険者ギルドから預かる荷物は書類などの他に、魔物の素材などがある。

大型の魔物になると、カニドン支部ではなくサルドン本部で直接解体を行う方が鮮度も高くロスが少ない。

しかし、大型の魔物を運ぶのは手間だ。

そこで、大型の魔物を狩った冒険者が魔物を運ぶのをリュータに任せ、冒険者はリュータと他の荷物を護衛しながらサルドンへ行く。


大型モンスターを狩れる実力がある冒険者が護衛につくので、リュータの荷物の信用も上がるし、事実、安全性も高まる。

冒険者は同じ獲物でたくさん稼げる上に、護衛料まで増える。

正しくウィン・ウィンの関係を築いているのだ。


「あ、そうだ!」

立ち去ろうとするリュータを呼び止めるアネゴ。

「なんです?」

「こんど、『火事場』といっしょに、大しゅりょうをやろうとしてるんだ。できたらリュータ車を出してくれないか?」


『火事場』も冒険者パーティで、元々『鉄火場』にいた1人が独立して立ち上げた『鉄火場』の兄弟パーティだ。

こちらもなかなかの実力者が揃っている。


「モチロンモチロンですわ。ありがとうございます。月曜から木曜までは通常便の配達がありますんで、金曜から日曜の間であれば手伝わせてもらいます」

「ああ、しってる。またれんらくする」

「ええ、お待ちしとります」

ニコニコとご機嫌に笑うアネゴに見送られて、リュータはギルドの裏手に回った。



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