18 いっぱいありますー!
「いやー、シラガさんはええ人やったね」
リュックサックを背負ったいつもの姿で、呑気に話すリュータ。
シラガは、リュータと死闘を演じた人喰い山姥だ。
「人喰い山姥と仲良くなるなんて聞いたことありません!」
リュックサックの上から不貞腐れるチョロ。
「こぶとり鬼の皆さんも話しの通じる鬼さんばっかりでしたし」
「人喰い山姥とこぶとり鬼に囲まれて酒盛りなんて、命がいくつあっても足りませんよ!」
盛り上がった酒盛りを思い出して、楽しそうにするリュータと、青くなって震えるチョロ。
「大体! 大体ですよ!?」
チョロがムキーッと怒り出す。
「なんでワタシがお酌して回らないといけないんですか! ベタベタ触られるし!」
「最近の日本ならともかく、こっちでは割りと普通なんちゃいますん?」
「何でですか! ワタシは王女ですよ!! 王女!!」
「ああ! そうでしたね!」
ぽんと手を打つリュータ。
「そ、そうでしたね!? そうでしたねってなんですか!? そうでしたねって!?」
腕をブンブンと振り回す。
「それに何よりですよ!」
バンバンと荷物を叩く。
「なんでリュータさんが助けてくれないんですか!! 一緒にアハハハじゃないんですよ!!アハハーじゃ!!酔った勢いで、耳やおっぱいもがれたらどうしてくれるんですか!?」
「おっぱいって、そない大袈裟な」
「大袈裟だったりしません!!」
ガオーっと吠えるチョロ。
「あ! 今、ヤラシイこと考えましたね!?」
「全然。だってチョロさんもがれるほどありませんやん」
「な! なんてことを! ありますー。いっぱいありますー。今のワタシは、魔械鎧用の保護スーツを中に着てるから、押さえつけられてますけど、脱いだらバインバインですよ! バインバイン!」
「パインでもワインでも何でもええんですけどね」
「良くないです! ぜんっぜん良くないですっ!!」
「まあまあ、でも、人はあんまり襲わんようにしてくれるって言ってくれはったし」
「む! そこもですよ! あんまりってなんですか! あんまりって!」
「向こうさんにも色々あるでしょうからね。僕らかて、人の物は盗まんようにって言ってても盗む人いてますし」
「そうですけど! 襲われたら食べられるんですよ!?」
「盗賊さんに襲われても一緒ですからねぇ。食われはせんでしょうが。それに、この〖友好の証〗を持ってる人は絶対襲わんっていってくれましたからね。僕が認めた人には持たせてええとも言ってくれましたし。30枚しかないんで渡す相手は考えんとダメですけどね」
〖友好の証〗は、手のひらサイズの正体のよく分からない柔らかな素材に、鉈と人斬り包丁が交差した絵が描かれている。
こぶとり鬼の1人がサラサラと描いた。
「ワタシにも下さいね!」
「考えときます」
「何でですかっ!?」
「持ってても通ることないでしょ?」
「ぐっ……それは、そうですが……でも欲しいじゃないですか!」
「ときに、この刀ってホンマに直ります?」
ヤイヤイ言い出したチョロをスルーして話を変える。
リュータは腰の布を巻き付けられた人斬り包丁を触る。
「ドワンフの鍛冶技術は世界で一番です!ワタシたちに直せなかったら、直す方法はありません!ていうか、直せなかったらあの人喰い山姥が、こぶとり鬼連れて乗り込んでくるんでしょ!? 絶対、直させますよ! 恐ろしい!災害ですよ! 大災害!!」
意気投合したリュータとシラガが記念に鉈と人斬り包丁を交換した。
しかし、鉈はともかく、人斬り包丁は人里に持ち込むには異様すぎる。
そこで、シラガが青くなってるチョロを捕まえて、錆を落として、研ぎ直し、鞘を作ってリュータが持ち歩けるようにするよう、厳命を下したのだ。
チョロは頷くしかなかった。
「キレイに直ったらええですね!」
リュータはご機嫌だった。
◆◆◆◆◆◆
「見えてきました! 見えてきましたよ! リュータさん!」
リュックサックの上に立ち上がってぴょんぴょん飛び跳ねるチョロ。
丘の上に城壁が窺える。
「カバンの中身が潰れるんで、大人しくして貰えます?」
リュータがなだめる。
森を抜け、荒れた草むらを通り過ぎ、小高い丘を登り始めた頃、リュータたちは目的地たるビフージャギー王国の王都ビフージャキーにたどり着いた。
「ふふふっ! ワタシの道案内はやはり素晴らしかったですね」
胸を張るチョロ。
「さっきの草むら蛇行してましたけどね?」
「あれは! 危険なモンスターとかを避けるためです! 迷ったわけではありません! て、そんなことより、早く行きましょう!」
リュックサックを叩いて先を促すチョロ。
ビフージャキーの城壁は二重になっている。少し低い外周りの城壁と、高い内側の城壁。
城壁都市として拡張された名残である。
「おーーい!!」
都市の入口となる門に向かって手を振るチョロ。
荷物の上からピョンと飛び降りると、手としっぽを振りながらパタパタと駆け寄って行く。
「誰だ?」
「あの小山みたいなのなんだ?」
「ヤドカリ的なモンスターか?」
「警戒しろ!」
門番たちは突如現れた巨大な塊にバタバタと騒がしくなる。
「みなさーん! ワタシです! チョロです! みんなの人気者! 国民のアイドル! 可愛さと賢さと行動力を兼ね備えた天才美少女!みんな大好き第4王女のチョロですよー!!」
「大したもんや」
大声で自己賛美を叫びながら走って行くチョロを生温い目で追いながら、離れないようにスピードを上げる。
「チョロ様だ!」
「ホントだ! チョロ様だ!」
「チョロ様が帰ってきたぞ!」
「おい! 伝令だ伝令!早くお知らせしろ!」
「チョロ様ーー!」
門番たちがワイワイ言いながら駆け寄って来る。
「チョロ・ジャーキー、ご心配をお掛けしましたが、無事に帰ってきました!」
チョロが門番たちに報告すると、喝采が起こった。
人気者はホントのことらしい。




