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10 イタズラ心

目の前でフサフサ揺れるしっぽを見ると、リュータの中で興味とイタズラ心が芽生える。


『大変でしたねー』『私に甘えていいんですよー』と自分に酔ってるチョロを遠くに思いながら、そろそろと手を伸ばす。


「わあ! フサフサやー!」

「ぎぃやああああーー!!」

――バチーン――

「やぶっ」

「痛あいっ!」

リュータがしっぽを触るなり、悲鳴を上げると平手打ちが飛んで来る。

しかし、叩かれたリュータのほっぺたよりも、叩いたチョロの手の方が痛そうだ。


「ななななな何を、な何をするのですか!?」

「え? しっぽが気持ちよさそうやから、つい」

「つつつつついって、つつついって何ですか!?」

動揺しながら怒るチョロ。

「すんません、なんかいけませんでした?」

「いけっ!? いいわけがないでしょう!? 人のしっぽをなんだと思ってるんですか!?」

「いや、すんません。知りません」

謝るリュータ。

「しっ!? 知らな……うわぁーん」

そして泣き出してしまった。


ドワンフ族のしっぽは結婚する時にしっぽ同士を絡ませるという儀式がある程に、プライベートなパーツだった。


そんなもん見せとくなよ!と思うのがヒト族的な価値観だが、ドワンフ族にとって、しっぽを隠すというのは、『後暗い事がありますよ』とか、『貴方に隔意がありますよ』という意思表示になる。

隠さないのがマナーで、触れないのがマナーなのだ。

このしっぽを隠す=なんか怪しいという文化が、しっぽのない人間族との交流が不活発な理由になっていたりするのだが。


それはともかく。


リュータはそもそもドワンフ族なんて知らなかったし、チョロはドワンフ族の常識が通じないなんて知らなかった故の事故だった。



「ブツブツ」

「知らんかったんですって、許して下さいよ」

「ブツブツ」

リュータは謝るが、ずーっとブツブツ怒っている。

日は暮れてしまった。

仕方がないのでリュータはご飯にすることにした。

腹が減っていては仲直りなど出来ようはずもない。

ブツブツ、チラチラ怒っていて、取り付く島のないチョロはとりあえず置いといて、適当な木の枝を拾い集め、火を起こす。

荷物から鍋と水と食料を取り出す。


鍋を火にかける。

温まったら、闇牛(ヤミービーフ)から作った携帯食の脂をひく。

ミイラオニオンのチップを炒め、色が変わったら、しぶといにんじんロングライフキャロットデカみみじゃがいも(オーバーイヤーポテト)も加え、炒める。

乾燥させたホーミングマッシュルームやにやつき豆(グリンピース)を入れるのがリュータの好みだ。

ここに、闇牛の干し肉を削り入れて水を入れる。


鍋の中身が煮えるまでの間に飯盒でご飯を炊き始める。


鍋が煮えたら、ミックススパイスを入れる。

片栗粉でトロミをつける。

掛け声豆(ソイソイ)からできた黒っぽいソースで風味を足す。

仕上げに塩で味を整える。

最後にひと煮立ちさせる。

スパイシーな香りと、炊きあがるご飯の甘い香りに、チョロの鼻がピクピクしている。

耳もピクピクしている。


「できましたー」

ジャーンと蓋をとる。

ボワンと立ち広がる炊煙に、チョロのお腹が『ぐうーー』っと鳴る。


「要ります? カレー」

お皿にご飯とカレーをよそう。

「わ、ワタシは誇り高き王族です。こ、このような得体の知れないものは食べません!」

ヨダレをごくごく飲みながら、チョロが答える。目はカレーに釘付けだ。


リュータがカレーの入ったお皿を右に動かす。

チョロが右に動く。

左に、上に、下に動かす。

チョロも動く。

「ホンマに要りません? 食べといた方がええんちゃいます?」

「ひ、必要ありません! わ、ワタシは誇り高きジャーキーの一族です!」

「さよですか? したら、僕いただきますね」

「ど、どうぞ!」

「なんで、僕食べますから」

「な、なんですか!? どうぞと言ってるではありませんか!」

「ええ。食べるんで、手ぇ離してもうてええですか?」

「え? あれ? なぜ?」

リュータの差し出した皿をガシッとつかんでいるチョロ。


「ん、う゛ん」

咳払いして手を離すチョロ。

リュータが皿を引き寄せると、しっぽと耳が干からびたみたいに垂れる。

そーっと近づけると、しっぽが空でも飛べそうなぐらいブンブン揺れる。


「まぁ、せっかくなんで食べて下さい」

お皿を渡す。

「どどどどうしても食べて欲しいと言うのであれば、仕方がありませんので、ひとひと1口ぐらいは食べて差し上げても構いませんが!」

ハシッと捕まえるチョロ。


「ハイハイ。じゃあそれで」

「じゃあ、それでってなんですか! これは、あれですよ? あくまでアナタが食べて欲しいと言うので無理して食べるわけで、ワタシが食べたいワケでは決してありませんからね!」

「ハイハイ。はいスプーン」


リュータが自分の分をよそう前に、チョロがパクパクとカレーを食べる。

しっぽがドタバタと揺れている。

「食べられない程ではないですね」

一皿目を飲むように平らげると、カレーの入った鍋をじーーっと見る。

「よく噛んだ方がええですよ?」

とりあえず、自分用によそった皿を渡す。

渡すなり、ガフガフと食べ始める。

乱暴な食べ方なのに品があるのは、さすがは王族なのだろうか?

『これ、僕の分残るやろか?』


勢いよく食べるチョロと、カレーの残りを見ながらリュータは、もっと作るべきやった、と後悔した。



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