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01 株式会社ハタラキアリ 運送

よろしくお願いします。

朝、日が昇ってすぐの今は風が心地よい。

もう暫くすれば、暑さが勝ってしまうのだけれど。


大きく開いた扉から、カウンターが見える。

そこにヨタヨタと大きな荷物を2人がかりで抱えた女の子が入っていく。

――ドスン!!―――

「ハァハァ……おはよう。リュータ、これ今日の荷物。感謝して崇め奉りなさい」

「ハァハァ……おはよう。潰したら、潰すよ?」

荷車から2人がかりで巨大な木箱を降ろして、同じ顔した茶色い髪の女の子が、息を切らして同じ声で言いう。

1人は肩まで伸ばしたくせっ毛、もう1人はポニーテールのくせっ毛。

2軒隣の八百屋の双子、ララとリリ、16歳だ。

木箱には野菜が入っている。


「おはよう。いつもおおきに。店に置いといてくれたらええっていつも言うてるのに。任しとき。潰しても潰されても、かなわんからな。いつものとこやね?」

黒い髪、薄っぺらい顔、細めのつり目。

背は高め、足は短め。

《株式会社ハタラキアリ運送》代表取締役社長のリュータ、18歳だ。


株式会社となっているが、株式会社ではない。

株という仕組みがないから。


何の因果か、リュータは勇者召喚とかいう謎の儀式に同級生と2人で巻き込まれた。

剣とかモンスターとか魔法とか異種族とかのファンタジックな世界に問答無用で放り込まれたはいいが、勇者と呼ぶにはしょぼすぎるという理由でリュータは勇者業を免除された。

免除はされたが帰れませんと言われてしまったので、迷惑料として貰ったそこそこの資金を元手に勇者召喚された王都サルドンからほど近い小さな町カニドンで、運送業を立ち上げ日銭を稼いでいる。


「ほいなら、行くかな」

そう言うと、Tシャツの上にシャツを着る。

白いカッターシャツにはシミ1つ無い。

更にバサリと上着を羽織る。

深緑色の地に、黒いアリのマーク。

シワ一つない上着のボタンをしっかり全部留める。

カーキ色のツータックズボンは、最初から履いている。

設立の際に作った制服だ。


住居兼社屋の横にある小さ目な小屋に行く。

小屋から何か取り出すのかと思ったら、そのままカラカラと小屋を動かす。


大きな車輪が4つ、しっかりした屋根のついた見るからに頑丈な小屋。


リュータの商売道具の荷車である。

「今日もたくさんあるかな?」

ララが聞く。

「今日はサルドン行きやから、ぎょうさんやと思うよ」

頷くリュータ。

「荷物増えたよね」

リリが荷車を見上げながら呟く。

「お二人さんのお蔭さんやね」

言いながら、ララとリリが2人がかりでやっとこさ持ち上げていた木箱を、片手でひょいと持ち上げ、そっと積み込む。


「カイゼルハウベルマークⅣを持って、と」

言いながら、カウンターにあるちゃっちいロボットの人形をつかむ。

四角をくっつけただけのようなこだわりのないデザインに、赤い目と口がおざなりについている。

腕は円柱で先端に丸い手がついている。かろうじて肩がクルクル回るだけだ。


「そのおもちゃ、意味あるの?」

リリが聞く。

「意味があるとは思わんけど、大切なもんやから持っときなさいって言われたかからな。街に入るのに要るし」

乱暴にポイっと荷車にロボットを放り込みながらリュータが答える。

「ほいじゃ、行ってくるわ」

そう言うと、バカでかい荷車についている持ち手を持って、カラカラと歩き出す。


「バカぢから」

「何度見ても、意味が分からない」

何でもないように歩いているが、普通であれば轟竜(ごうりゅう)という、飛べないが恐ろしく力持ちな竜に引かせるサイズの荷車である。

空とは言え、並の人間の膂力で動くものではない。


リュータは勇者召喚された際のオマケで、体がバカみたいに強くなっている。

これはリュータが特別ではなく、一緒に召喚された同級生も同じだった。

竜に匹敵する剛力があっても勇者としてしょぼいと言われてしまったのは、さっきのロボットのせいである。


勇者召喚されたものがもれなく持っている神具と呼ばれるもので、本来であれば、凄い剣!とか、凄い盾!とか、凄い鎧!とか、とにかく凄いものなのだが、どういう理由なのかリュータが持っていたのはあのボロ……ではなくロボットのおもちゃだった。


勇者召喚に携わった全員が頭が床につくぐらい首を捻って考えたが、使い方とか、意味とか役割とか、何にも分からなかった。

その時の空気は酷かった。


ただ神具が役に立たないということは嘗てなかったので、くれぐれも大切に持っとくように言われ、その助言を無視して捨てられないためにリュータの身分証にまでされてしまった。

うっかり捨てると、廃業だし家も無くなるので、捨てずに持っている。


その辺のことも含めて、リュータは全部周りに喋っている。隠すことでもないし、黙っているより詳らかにしたほうが得だし楽だと思ったからだ。

実際、隠していたらあんな巨大な荷車を用意することなどできなかったし、できたとしても使えなかった。


『カイゼルハウベルマークⅣ』というカッコ良さげな名前を付けてみたが、半ばというかまるっきりヤケである。



「今日も暑くなりそうやねぇ」

リュータはカラカラと荷車を引きながらそう呟いた。

たくさん褒めて下さいw

褒めると伸びるタイプですww

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