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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

婚約解消を望まれたので婚約を解消しますけど、あなた様に未来はありませんよ?

「すまない、シャーロット……婚約を解消してくれないか?」


 わたくしの婚約者であり、次期国王候補筆頭のロジック様が申し訳なさそうに頭を下げながら言った。

 その隣には、貴族学校の後輩である、ミーシャ嬢もつれて。


「も、申し訳ありません! わ、わたしが悪いんです!! わたしが……わたしが、ロジック様を好きになったから……」

「違う! 違うんだ、シャーロット! 僕が、僕がミーシャを好きになってしまったから! ミーシャに非は一切ない!」

「ロジック様……」


 二人が手と手を取り合い、互いを庇い合う姿は素晴らしい純愛劇。

 それを見せられているわたくしは、ただのわき役のようだった。


 

 わたくしとロジック様の婚約はいわゆる政略的なものだ。

 王族や高位貴族は、時として私より公を優先しなければならない。それが義務でもある。

 わたくしももちろん、そうやって教えられてきた。そして、それに疑問を思うこともなかった。

 

 王侯貴族は様々な特権を持つが、その代わりに国を守る義務がある。

 率先して王侯貴族が国を守るから、国民もそれに納得し国として機能しているのだ。


 ここ近年は、平和な時代が続いて貴族の義務も忘れられがちだが、基本的には国のために生きて死ぬ――、これこそわたくしたちの生き方。


 その義務の一つには、時に結婚も含まれる。

 家同士のつながりによって生まれる利益は、なにも自分たちのためだけではないのだ。


「……とりあえず、お聞きしますが――、この婚約は家と家との契約であるとご理解いただけていますか?」

「……ああ、理解しているとも」

「では、婚約解消にともなうリスクもきちんと理解してくださっているんですね? ロジック様の未来が潰えることにことになるかもしれませんがよろしいんですね?」

「未来とは大げさな……だが、もちろん理解している。それでも、僕は愛する女性と共に歩むことを望んでいる……それがどんなに困難な道であろうとも!」


 堂々と言う姿は、まさに王子然としていて、もしこれが小説や劇の場面ならば、拍手を送ってもいい。

 きっと、世の令嬢方は、こういう話が大好きだと思う。


 実際、この場合――、わたくしが悪役令嬢として婚約者とその恋人の敵として登場し、悲惨な末路を送ることになるんだろうけど。


 わたくしとロジック様は同学年で、ミーシャ嬢は一つ下の学年で、下級貴族。

 本来なら交わらないであろう、運命はどういう神のいたずらか、二人を結び付け恋に落とした。


 わたくしは、何度かロジック様には忠告した。

 距離が近いと。


 そのたびに、君が考える関係じゃないといわれ続け、そして醜い嫉妬はやめるんだと逆に諭された。

 次期国王となることがほぼ内定していたためだからか、わたくしの言うことを少し軽くとらえられるようになっていた。


 しかし、実際はこの結果だ。

 最後の方はわたくしも傍観していたけど、まったく、何も分かっていない。


 どうして、この人を婚約者に選んだのか両親を問いただしたかった。

 まあ、婚約した当初は無難な相手ではあったのだけど。

 子供の時だったし。


 わたくしは、深いため息をつきながら、ロジック様に言った。


「もしわたくしと婚約解消したら、次期国王筆頭の座もなくなりますが、覚悟の上ですね?」


 その時、ロジック様が少しむっとしたような顔になった。


「君と婚約しなくとも、次期国王候補の座は実力でとって見せる!」

「そうです! ロジック様ならシャーロット様のお力がなくても、きっと実力で次期国王になれます! わたしは、ずっと支え続けます」

「ミーシャ……」

「ロジック様」


 二人の世界に入り込んでいるところ、悪いけど、何か勘違いしている二人に言いたいことを言わなければ、と声をかけた。


「とても自信があるようですが、そもそもあなたはわたくしと結婚しなければ次期国王などにはなれないんですけど?」

「君こそおかしなことを言っているが、我が国は男性(・・)にしか王位継承権はない。君がどんなに優れた王女(・・)であろうと、国王にはなれない。そして、僕は王位継承権順位はもともと父上の次に高い第二位だ」


 ロジック様の言う通りだ。

 わたくしは王女で王位継承権はない。

 我が国の決まりでは、王位は直系男子が優先されるが、もし直系男子がいない場合は継承権を持つ男子の中から選ばれる。


 そして、継承順位が高い方が有利ではある。

 有利ではあるが、絶対ではない。

 

 もちろん、王女と結婚したからと言って、百パーセント次期国王になれるわけでもないが、有利な状況がほぼ確定まで持ち上がるのは確かだ。

 

 ただし、結局本人の資質が大きく左右する事もある。


「君がもしほかの王位継承権を持つ男と結婚しても、必ず国王陛下に僕の価値を認めさせ、実力で次代の国王となる!」


 力強く宣言するロジック様に、わたくしはただ頷いた。


「わかりました、そういう事でしたらもう何も言いません。わたくしは自分の義務を果たすだけです」


 さっと立ち上がると、ドアをけたたましく開けて入ってくるわたくしの護衛騎士。

 そして、わたくしの側に立ち、二人に向かって一枚の書状を見せた。


 ロジック様もミーシャも何が起こっているの理解できない顔で、騎士が広げた書状を読んだ。


 ロジック様は顔を歪めて、わたくしを睨んだ。


「シャーロット、一体何の真似だ?」

「何の真似……とは?」

「ここに書いてあることだ!」


 わたくしはふふっと笑った。


「何を言っていらっしゃるのか……、あなた様が公費を私的に流用していた、という証拠ですわ」


 ロジック様は王女であるわたくしの婚約者のため、それなりの品位維持を求められる。

 そのため、公費として一部の国費がロジック様には毎年支給されていた。


 その使い道は、わたくしとの公務のために使用されることになっている。

 例えば、わたくしが王女として国内外のお客様をお招きするとき、エスコート役としてともに参加する際の衣装など。


 そして、公費は何に使われたのかしっかり記載される決まりだ。

 多少の私的流用は大目に見られているが、ミーシャ嬢の実家の支援や彼女のドレス代や装飾品代に多くのお金が使われていたのだから、さすがに見過ごせない。


 この間、ロジック様から公費を増やしてほしいと言われた時には、わたくしはもう見限る覚悟を決めていた。


「公費は国民の税金です。公務以外で使うのは不正のようなものですよ。まさか、それをご存じなかったのですか? きちんとご説明しましたよね? ご自分の財力でミーシャさんに貢ぐなら多少大目に見ようとも思いましたが、これは見過ごせません。しかも、足りない分は権力にものを言わせて支払わないなど、わたくしはがっかりしました」

「僕は、次期国王だぞ!」

「ただの、候補だけです」


 こんなのが国王になったら、国が終わりかねない。

 結婚前に分かってよかったと思うのは、わたくしだけではないはず。


 それに――。


「次期国王に――いえ、女王になるのはわたくしです」

「何をふざけたことを――……」

「昨今、女性進出が進み、他国では女性への継承権を認めつつあります。このような時代に、男だけにしか継承権がないなど、時代遅れもいいところ――そういう見方が、国民から上がってきています」


 実際、すでに女性からの声が大きくなってきて、暴動がおこりかかるなんて事件も発生している。

 

「今回、あなた様次第で、法令が変わることになっておりました。ロジック様がしっかり義務を果たしていらっしゃるのならば、まだ男性継承でも問題ないと先送りになる予定でした。しかし、最近では下級貴族の女性に入れ込み、公務や次期国王としての帝王学まで理由をつけてさぼる有様。しかもさぼって女性と逢瀬を重ねるなど、言語道断です。さらには、国民の血税を私的流用するなど、民が知ったらどのような反応をされることでしょう」


 わたくしは最近のロジック様の様子をよく知っていた。

 そのため、議会に優秀な女性が継ぐか、無能な男性が継ぐか、この選択を迫った。


 頭の固いお歴々は、男子継承にこだわっているが、前者の方がよい結果になることは誰の目にも明らか。

 そして、わたくしは彼らに、ロジック様が次期国王にふさわしい場合は現状維持とし、ふさわしくない場合は女性継承を認めることを約束させた。


 彼らは、きっと考えていた。

 権力を手にする最短距離を手放すような愚かな真似はしないだろうと。

 

 しかし、結果はどうか。

 この結果に、彼らはロジック様に落胆し怒り狂うだろう。


「待ってください! それじゃあ、ロジック様は国王様にはなれないんですか?」


 口を挟んできたのは、ミーシャ嬢だった。


「いいえ? 絶対に無理だということではありません。今回の法案は、女性にも継承権を与えるというだけのもの。努力をし続ければ、次期国王として認められるでしょう。しかし、今回の不正で一体どれほどの方がロジック様を支持してくださるかはわかりませんけど」


 わたくしも今後一層努力しなければならない。

 女性継承権が認められても、直系だからという理由で選ばれるとは限らないのだ。

 やはり、半数は女性よりも男性の方がと考えるものがいる。


 全員を認めさせるためには、今までの努力だけでは足りない。

 それに、結婚相手もしっかり見極めなければならい。下手な相手を選べば邪魔になる。

 だからと言って、野心家でわたくしを踏み台にしていくような輩はいやだった。


「では、わたくしは失礼させていただきます。そうそう、不正した分はきちんとご実家の方に請求しておきました。きっとお父様の方から何かあるでしょう」

「ぼ、僕は、絶対に負けないからな、シャーロット!」

「そ、そうです、ロジック様ならきっとシャーロット様にも負けはしません」


 負け惜しみのような言葉に、わたしは振り返り言った。


「ああ、それと今後はシャーロット“殿下”とお呼びください。あなたは王族でもなんでもないのですから」


 ほかにもいろいろ教えてあげようかとも思ったけど、わたくしはそこまで親切じゃない。

 この先の困難は、きっと努力(・・)されて乗り越えるだろう。


 例えば、ミーシャ嬢が子供を身ごもっていたとしても、わたくしには関係のない話だ。 


「はやく二人の事を広めて、ロジック様の支持率を下げておかないと。一人でも多く継承権を持つ方にはご退場いただかないとね」


 戦いはもう始まっているのだから。




ヒューマンドラマは初めての投稿です。

たぶん、ジャンルはヒューマンドラマであってるはず。

違うようなら教えていただけたら幸いです。


よろしければ、ブックマークと広告下の☆☆☆☆☆で評価お願いします。



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[良い点] 面白かったです!クズ婚約者は、自らの行いによって道を閉ざされるのですね 「ヒューマンドラマ」ジャンル問題は、…恋愛じゃないし本質は政争だから良いのではないでしょうか(超適当 星入れて、…
[気になる点] 婚約者は過去に王弟等が興した公爵または王女が降嫁した高位貴族家で低いながらも継承権を持っており、現国王のたった一人の子である王女の婚約者だから次期国王筆頭。 てことでしょうか? [一…
[一言] 凄いや! ヒューマンドラマの1〜10位までが婚約破棄物! まさに異世界恋愛の植民地!
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