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数時間後。伯爵家を出て国境近くの別邸に向かうヒーラギは、行商帰りのおじさんが操縦する、荷馬車に乗せてもらい、ゆったり畑道を移動していた。
どうしてそうなったのかと言うと。家を出たばかりのヒーラギはトランクケースを手に、畑道を呑気に散策していた。
「あ、ツユユクサだ!」
このツユユクサって、解熱とか下痢止めになるのよね。こっちのオバコは腫れ物に効くのよ。ラッキーだと、道草を食いながら進んでいたヒーラギの目の前に道端で、荷馬車を止めて腰を抑えるおじさんを見つけた。
(何処か、怪我をしたの?)
その、おじさんにヒーラギはすぐ駆け寄り話しかけた。
「どうかされました?」
「ん? あぁ家に戻る途中で腰をやっちまってね、痛みが引くのを待っているんだ」
イテテと、顔をしかめて痛そうなおじさん。
(もしかしてギックリ腰? この程度の腰痛なら、すぐに直せるわ)
ヒーラギは辺りを見渡したあと、もう一度おじさんに話しかけた。
「よろしければ、私が腰を治療しましょうか?」
「え? 腰の治療? そんなこと、お嬢さんにできるのかい?」
コクリと、ヒーラギは頷き。
「はい。私、最近までケガなどを治す、治療師の仕事をしておりました」
「治療師? おお、それは助かる。ワシの腰を治して欲しい」
「はい。いまから腰を治しますね。【ヒール】」
腰に手を当ててヒーラギはヒールと回復魔法を使い、おじさんが痛めた腰を治す。おじさんは腰の痛みがひいて、動けるようになったと喜んでくれた。
その、おじさんのご好意で荷馬車の荷台に乗せてもらい、ヒーラギはまったりしていた。荷馬車はしばらく進み、おじさんが少し休もうと、道端に荷馬車を止めた。
「お嬢さん、腹減っていないかい?」
荷台に乗るヒーラギに、おじさんは布で包んだものを渡した。
「あ、ありがとうございます」
「いやいや、あんなに痛かった腰がいまはちっとも痛くない、こっちの方がありがとうだよ」
受け取った布を開くと中には、抗菌作用があるサササの葉で包まれた、三角の真っ白な食べ物が3つ入っていた。それを手に取り不思議そうに見つめる、ヒーラギに気付いたおじさんは。
「なんだ、お嬢さんはおむすびを知らないのか? 王都ではまだ、コメは食べられないのか……うまいのにな」
と言った。
「これが、おむすび」
書庫にあった庶民の食事の本に載っていた、国民の主食のコメ。そのコメを、ヒーラギはいちど食べてみたいと思っていた。
(すごく綺麗な食べ物だわ)
「いただきます」
ヒーラギは貰ったおむすびを一口かじる。
おむすびは噛めば噛むほど甘く、甘くもちもちしている。
(なにこれ? 王城で出ていた食事より美味しい!)
聖女をクビになるまで、3食の食事は固いパンと、少しの野菜入りの味の薄いスープだった。
「おじさん、おむすび美味しいです!」
「よかった、おむすびがうまいか〜。ワシの家に帰ったらまだあるから、持っていきな」
「はい!」
あまりにも美味しくて3つもあったおむすびは、ペロリとヒーラギの胃袋へとおさまった。
「おむすび、ごちそうさまでした」