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(今思えば、当時の私は真面目過ぎだった)
朝の祈りのあと、書庫で本を読み昼の祈り、そして書庫、夜の祈りの時間――こんな毎日を王城の離れで過ごしていた。
しかし、まわりが聖女の力を誉めてくれたのは初めだけ、何年も続けば人は慣れてしまい、傷を癒すのでさえ当たり前になる。
『聖女様お疲れ様でした。次の祈りの時間まで、部屋でお寛ぎくださいませ』
最初はご機嫌取りなのだろう、庭園で開かれるお茶会などに呼ばれていたが、それも直になくなった。ヒーラギが文句をひとつも言わず、言われた事を従順に従ったからだろう。
それに、祈りも慣れてしまえば苦痛じゃなくなった。ただ与えられた聖女の力で、国に張られた結界を補強するだけの、毎日を過ごせばよかった。だが、魔物の動きが活発になり瘴気が森に充満してきた。
『お前の聖女の力を、騎士団達にも使ってやれ』
瘴気を祓うため、ポンコツのローザン殿下の指令で騎士達の遠征に着いて行くことになり、魔物と戦い、傷付いた騎士の傷も奇跡の力で癒した。
切り傷、引っ掻き傷、骨折、一番難しいのは手足の再生だ。書物で体の仕組みを理解して、立体に想像しながら癒やさないと再生できない。
だから書庫で本を読み、ローザン殿下に気持ち悪いと言われながらも。手帳に絵を描き、体の仕組みを書き、頭にもたたき込んだ。
魔法に至ってもヒール、広域回復魔法、聖魔法……覚え出したらキリがないし魔力も足りない。自分自身でも使用する回復薬にも関心を持ち、魔術師に錬金術を学びポーション作りにも参加した。森に生えている薬草だけで、回復薬が作れるとも知った。
やれる事はやり、知ったことは全て手帳に書き留めた。
『いくらでも、娘をお使いください』
伯爵家に跡取りの弟もいるからかと、両親はお金さえ貰えれば何も言わない。そして十五歳――成人をむかえたとき、ヒーラギの知らないところで国王陛下と両親は婚約の制約が交わして、ヒーラギはローザン殿下の婚約者になっていた。