4
サンドリア伯爵領にどんな傷でも癒やす、娘がいるという噂は王都にまで届く。
王都では5年前に亡くなった大聖女が張った、国土を覆う結界が薄くなっていた。まわりの森に瘴気が溢れ、魔物化した魔物が増えてきていたのだ。
『ようやく新しい聖女が生まれた』
噂を知った国王陛下は聖職者たちに命令した「なんとしてもその娘を、新聖女として迎え入れろ!」と。
命令を受けた聖職者たちはサンドリア伯爵領まで訪れ、国に聖女が必要だと両親を説得した。金のなる木がいなくなると渋る両親に、聖職者は一生遊んで暮らせるだけのお金を見せた。
あまりの金額の多さに両親は喜び、国王陛下の頼みなら仕方がない。
『ヒーラギ、国の為に祈りなさい』
陛下はすぐ、新聖女がカザールに誕生したと国民に知らせ、聖女としてヒーラギを王城の離れに住まわせた。
聖女となったヒーラギは早朝五時に「聖女様、お祈りの時間です」と起こされ。5年前に亡くなった大聖女様が行っていた、毎朝五時から祭壇で祈りを一時間。昼に二時間。夜に一時間、カザールのために祈りを捧げさせた。
祈りを捧げるとは。大聖女が張った国土を覆う結界を補強する。そんな大それた事を、ヒーラギは出来ないと言ったが、無理やりやらされ、不思議にも出来てしまった。
それを見ていた聖職者達は『これで国は守られる』も喜んだ。
それから毎日、祈りを捧げないと食事が貰えず、少しでも寝坊をすれば、引きずられて祭壇に座らされた。彼らは両親のように暴力は振るわなかったが、祈りは強要させられた。
それには訳があった。
1つは、森の動物達の魔物化。
それともう1つ、カザールの近辺には魔王が収める、ジュストラルクという魔族の国があった。古代歴史書によれば300年前に勇者が仲間と魔王を倒して、ジュストラルク国は滅びたと記されている。
魔王がいないと安心したのも束の間――最近、新しく魔王が誕生したらしく、静かだったジュストラルク国は勢力を増した。この国の平穏な日常が終わる。
魔族たちは瘴気を放ち、隣接するズロー森の森を超えて、カザールに攻めてきた。魔王におびえた国王陛下は「聖女様のお力を、我々にお貸しください」と、当時12歳になったばかりのヒーラギに願った。