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第二話

女は質素で、特に可愛らしいわけでもないが、身なりは整っている。

見たところ歳は20も行ってないだろう。


蛇はじっくりと女を舐め回すように見ると、



「汝は村の神への供物であろう。私のようなものが触れるのは(はばか)られる」


「…そうですか。」


「だが、私がここで見捨てればその神が怒ることは容易に想像がつく。」



そう言って来た道を蛇は引き返す。



「汝らはそこで待っておけ。」



蛇の言うことをわざわざ逆らう必要などない。

私はその場で立ち尽くしていた。



「私は、死と再生を司る豊穣神ゾーエースである。

この森にて最も勇敢なものとその次に勇敢なものよ、

私の前に姿を現せ。」



しばらくすると地は揺れ、だんだんと激しくなってくる。

そして木々の間から二頭の栗毛の牡牛が蛇の前方に現れる。

片方は体格が普通のより大きく、身体が角張っていたが、

もう片方の巨体、凛々しさには劣っていた。

二頭とも昂っており、今にもこちらへ突進しそうではあるが

蛇は動じる様子もない。



「勇敢な牡牛の子よ、彼女を背に乗せろ。」



その傲慢な口調に牡牛達は蛇に対して更に敵意を向ける。

それに対して、ゾーエースは深く溜息をついて



「全く、この森で最も勇敢なものでさえ己が力量すら測れないのか…。」



この言葉は大いに牡牛を腹立たせ、より体格の大きな牡牛が

角を蛇へと突き刺すため一気に駆け寄る。

迫りくるその巨体はどんな屈強な兵士でさえ止めることはできない。

ましてや蛇にできようか。


だがそれに応じて蛇は飛びかかる。勝敗は既に決していたように思える。

だが蛇が空を仰ぐその刹那、蛇はその細長い身体を頭から一気に巨大化させた。

そして上から雄牛の姿を捉えた。その姿は神話に出てくるような龍のようで

真正面から見ることができた雄牛どもの幸運には適いそうにもない。

やがて大きく開けられたその口はそのまま獲物を捕らえた後鈍い音とともに閉じられ、

もう一頭の牡牛の真横を突っ切った後木々の中に入り、

牡牛と私と女を逃さないという意思の如く森毎、円周上に身体を巻く。


暫く無音の状態が続いた後、残った牡牛は女の前で胴を下げた。

それを見た蛇は身体を徐々に元の大きさへと戻していった。


女は異様な光景に耐えきれず、口を開けて閉じてはを繰り返して

必死に状況を整理しようとしていた。



「どうだ、人の子よ。酔狂な戦いであっただろう。」



女は声をかけられたことに気づき、蛇に対して恐怖の眼差しを向けた。

蛇は女の反応を楽しんでいるらしく女を見つめ続けている。


なんとも神々とは伊達であろう。

こうやって人の一挙一動を眺め、その動きを胸の内で反芻して楽しむ。

かつて名前を持った私が憂き世を嘆き、苦しみ、藻掻く姿を

何度も繰り返して味わおうとする太陽神とその在りし日が意識に現れる。



「女よ、蛇はこう言っているのだ。君の困惑した表情を見せてくれ、と。

だが君は他の神に仕えていて、その生贄であろう?

ならば、この蛇に構うことなく今この森にて最も勇敢なものの背に乗るがよい。」



私が諭すと、女はそれに従い牡牛の背に乗る。

そうすると蛇は道を進み始め、それに私と牡牛は歩み出す。

次第に蛇は私の後方を着いて行く形となる。



「あっ、あのっ助けてもらいありがとうございます。」



女は中々に礼を言いづらそうにしていたが、

持てる勇気を振り絞ったようだ。



「ああ、気にすることはない。

これも旅であり、汝も旅における登場人物だっただけのことだ。」



女はそうですか、とだけ返し口ごもった。


そんな女を後目(しりめ)に蛇は嬉しそうにこちらを見つめてくる。



「先程の言葉を見るに中々に汝は神々の遊びを理解しているようだ。

その皮肉癖とかつての汝の純粋さが奴の性癖に合ったのに違いないな。」


「蛇よ。時に君は自らが変態ではないかのように語るが、それは些か不誠実ではないのか。

先の女が他の神々の供物だと知っておきながら手を付けようとしていたなら、そいつは救いようのない変態でしかないだろうよ。」



もっともだ、と返された。おそらく無言となった蛇は

私とのやりとりに絶頂を覚え、身を堪えているのに違いない。

こういう場合には無視に限る。


女は私に声をかける。



「私は不死の村のラベンダーと申します。

あなたは神様のお連れのように見えますが、どちらからいらっしゃったのでしょうか?」


「私は名前を失ってしまったのだ。

どうにも自分に名を授けようとしてもしっくりくることなどはない。

私は蛇仕える身ではなく、元々は太陽に仕える身であった。

そして寵愛の末、予言能力を得たのだ。だから君のことはよく知っていてなお、よく知らない。

だが君は供物で1ヶ月後に祭壇へと登るのだろう?」


「はい…。心残りもありますが、後悔などはありません。」


「そうではない。君は実の弟の手により三日後に殺されるんだ。」


やっぱ、神様は変態しかいないんだなー。

みんなも神様に寵愛を受けるときは注意しよう!!


それはそれとして、なんで主人公さんは某太陽神みたいなお告げをするんですか!!

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