2話
ようやく章管理が分かりました。章追加します。
革島は先程の畑の横で屈んでいた。
その目線の先には小さな墓のような物が存在し、そこには白い花が備えてある。
その後ろ姿に向かって零士達は声をかける。
「革島さん、もう1度お話よろしいでしょうか?」
「はいよ、ちょっと待っててな・・・。何だい」
伊里が革島に話しかける。革島は直ぐに戻ってきた彼らに少しだけ不信感を抱く。
「ってさっきの人達かい。まだ何か用か?」
「革島宗也、お前が行方不明事件の犯人だな?」
「!」
革島はその予想外の問いかけに、僅かに顔を強張らせた。
彼は直ぐにそれを否定する。
「一体何の事だい。勘違いじゃねーか?」
「いや、知っているはずだ。何せ君は知らないはずの事まで知っていたのだからな」
「・・・何だと?」
革島の顔色が変わる。
どうやら彼は知らないようだ。彼自身で零士達の目の前に提示した致命的な矛盾点を。
「貴方は先程、警察官が行方不明になっているという事を言ってたわね。けど、それはおかしいのよ。何故なら、その事は民間の混乱を防ぐ為に伏せられているから」
「・・・なるほどな、俺は墓穴を掘っちまったのか」
『そう言う事だね』
「という訳でここに戻ってきたんだ。君を捕まえる為、そして被害者を助ける為にな」
「チッ」
革島は舌打ちをした後に直ぐ様逃亡を始めた。
どんどんと森の更に奥へと入っていくようだ。
「あ、逃げた」
「待て!」
零士達は急いで後を追う。
そして、彼らは広場のようになっている場所へとやってきた。
しかし、そこに彼の姿は見当たらなかった。
「何処だ!」
「どこに行ったのでしょうか・・・?」
「ここにいるぜ」
彼らが革島を探していると、彼らの後ろから声が聞こえる。
それと同時に、石が零士に目掛けて飛んで来る。
彼は咄嗟に避けた。
「あぶな!」
「中々良い反射神経じゃねえか。オマエが1番トロそうなのに」
「・・・いつの間に後ろに回り込んだ」
「ここはな、思ってる以上に死角が多いんだ。脇道に少しそれれば相手の裏をかける程度にはな」
革島はゆったりと話し始めた。まるでここが安心出来る場所のように。
「オマエ達は行方不明になった奴らを探しに来たんだろ?」
「・・・彼等を何処にやったッ!」
「とっくのとうに死んでるぜ」
「やはり殺したのか、彼等をッ!」
「まぁオマエ達はもう見てるはずだ、アイツ等の成れの果てを」
「え?それらしいのは見なかったわよ・・・」
零士は考えた。
革島の近くでは死体は見当たらなかったはずだ。そもそも彼は隠すような仕草すら見せなかった。何処だ、何処にいた。
まてよ、
既に見ている・・・?
「骨粉・・・」
『「「!」』
零士はそんな訳無いと、そんな事があってはならないと自分の考えを否定しようとする。
しかし、現実は往々にして非情である。
「あれを使った野菜は中々好評なんだぜ、結構な金になる」
「彼等を肥料にしたの・・・!?」
「正確には違うな、彼等を解体した。その結果、骨が残った。だから肥料にさせてもらった」
解体する。
その言葉を聞いて、零士は最悪な考えに辿り着いてしまった。
考えたくない。言いたくない。自分の思考を信じたくない。
しかし、言わずにはいられなかった。その真実を。
コヒュ、と喉が小さな音を立てる。
「まさか・・・た、た、食べたんですか・・・?」
「その通り」
人間を食べた。
そのおぞましい返答に、零士は思わず吐き気がして、身震いが止まらない。
彼は崩れ落ち、意識を失ってしまった。
「な、何だと!彼等を食べただと!?」
「ああ、ダチョウの肉みたいで美味いんだぜ。脂肪が少なく、アッサリしててな」
あたかもそれが普通の食事であるかのように彼は言う。むしろこちら側が間違えてるのだと言うように。自分がまるで正常であるかのように。
その言葉に少し放心していた一同であったが、直ぐに身構える。
「お前は倒さねばならないようだ」
「・・・とりあえずさ、足元に注意した方が良いぜ」
「!?」
咄嗟に地面を見るが、特に何も異常はない。
彼等が革島の方へ向くと、いつの間にか革島はいなくなっていた。
「何処へ行ったッ!」
「陽動だったな」
「あら、いつの間にサドネスちゃんが」
「つい先程、零士と交代した」
「とりあえず、この短時間で逃げる事は出来ないはずだ。探すぞ」
「了解だ。伊里」
革島を探す為、サドネスは森へと入ろうとした。しかし、何か異変に気付く。
「ここに壁がある・・・?」
「何だと?」
「あら、ホントね」
彼等は周りを探る。すると、目には見えない壁のようなもので囲まれており、その範囲内から出られなくなっていた。
すると、後ろから声が投げかけられる。
サドネス達が振り返ると、革島は大きなチェーンソーを携えて佇んでいた。
「固定概念に囚われるように、オマエ達はそこから抜け出せない。」
「革島!」
「罠にハマってしまったか・・・!」
地面をよく見てみると、杭が壁の4つの頂点に打ち込まれていた。
どうやら、この杭と杭を結んだ場所に入ってしまったせいで、彼等は閉じ込められてしまったようだ。
サドネスは彼の能力を使って彼に攻撃を仕掛けるも、その壁に阻まれてしまう。伊里も試みたが同様であった。
「俺の能力、『シーア(不明瞭な牢獄)』。囲まれた場所から出る事が出来なくなる能力」
「くそっ!」
「万事休すってところね・・・」
おもむろに、革島は手に持っているチェーンソーのエンジンをかけた。排気ガスと共に、けたたましい唸り声が辺りに響く。
その音はチェーンソーの殺傷力の高さを表していた。
「そのチェーンソーで被害者達を殺したのか」
「そうだな、ここは俺の解体場なんだよ。ここでアイツ等をバラさせてもらったぜ」
「異常なやつだな、貴様・・・」
「お?アンタ、口調が変わったな。もしかして、二重人格とかいうやつか?オマエこそおかしなやつじゃねえか」
革島は軽口を叩きながら、彼等の方へと近づく。
チェーンソーは肉を切るのを心待ちにしているかのように、大きな唸り声を上げていた。
「知られたからには始末しなくちゃならねえんだ。大丈夫だ、オマエ等の命は無駄にはしないからな」
「ワクワクドキドキ!能力ターイム!」
恵海がいきなり叫ぶ。
革島は彼女のいきなりの奇行に呆気に取られた。
「は?アンタ、頭狂ったのか?」
「さあさあ、私の能力をお披露目する時がきましたよ、皆さん!」
「恵海、黙れ」
「それでは皆さん、ご注目!華麗でキュートなアタシの能力、とくとご覧あれ!」
「・・・伊里、彼女はいつもこうなのか?」
「そうだ、どうしようもないバカなんだ」
味方からもこう言われる始末である。一体、今までどれだけフザケてきたのだろうか。
「オーバー・ザ・レインボー(たった1つのちっぽけな夢)!!!!!!!」
「はっ!しまった!」
革島は恵海の叫びを聞いて再起動した。どうやら、彼女のイカれた行動に驚いて話について来れなかったようで、思考能力が停止していたようだ。
彼は急いで身構えるが、特に何も起こらない。彼は辺りを見渡した。
「何も起こらないじゃねえか」
「ちっちっちっ。甘いね、お客さん。砂糖控えめのタピオカミルクティーの1.2倍くらい甘いね!」
「それは甘いのか・・・?」
すると、彼の体に異変が起こる。何故か心の底から楽しい気持ちが溢れてきて、笑いだしてしまったのだ。
「あははははっ!」
「アタシの能力、オーバー・ザ・レインボーは『周りの人を笑顔にする』能力!どうだ、参ったか!!」
「はははっ!それで、状況は変わるのかい?アンタ。はひっ。」
「貴方が笑顔になったじゃない、状況は変わったわよ」
どうやら特に意味はないようだ。
そして、恵海の能力が切れたようだ。彼は笑いが徐々に止まっていく。
「ハハッ、そんな小せえ変化が何を生むんだ?」
「少なくとも、そんなちっぽけな油断でこちら側に形成は向いたな」
「あ?」
革島は後ろに気配を感じる。咄嗟に振り返ると、紙袋を被った男、ラックが彼に向かってハンマーを振り下ろしていた。
どうやら、今までラックは隠れていたようだ。急な不意打ちに革島は対応が遅れてしまった。
彼は咄嗟に避けたが、ラックのハンマーは彼を打つ。かなり強い力で振り下ろされたのか、彼の肩は鈍い音をたてた。
「ぐッ!がぁッ!」
「ナイスだ、ラック、恵海」
「へへん!どうだ!すごいだろー!」
「まさか、あの奇行に意味があるとはな・・・」
彼はダメージを受けたが、能力は解除されない。依然として彼等はその檻に閉じ込められたままだ。
どうやら、ラックに戦闘を任せるしかないようだ。
ラックは革島が怯んでいる間に追撃を行う。しかし、避けられてしまった。
「そこまで甘くはねぇよ、コスプレ野郎」
革島は体制を整えたが、やはり肩にはダメージを負っているようでアブラ汗をかいている。
しかし、彼を持っているチェーンソーで殺せば、後は自身が能力を解除しない限り一生出られない密室の中の獲物だけだ。
ここで彼を始末しなければならない!
その一心で彼はその場に立っていた。
一方でラックは革島へ攻めあぐねていた。自分の武器は片手で持てる程度の大きさのハンマー。彼の持つチェーンソーのリーチには敵わない。
無闇に飛び込めば、自分の身体から肉片が飛び散る事になる。
(やむを得ないか・・・。能力は余り使いたくないんだけど)
ラックは彼の懐へと飛び込んだ。しかし、革島はそれに反応した。ハンマーに当たる覚悟でチェーンソーを思いっきり振るう。
「舐め過ぎだッ!真っ二つだぜッ!」
ラックのハンマーは彼の脳天へと振り下ろされたが、そのほんの少し前に彼の脇腹がチェーンソーが当たる。
そのせいで、ハンマーの軌道が変わり、彼の右肩を強打した。しかし、それは致命的なものではない。
ラックはチェーンソーにより、脇腹を大きく抉られて地面に倒れる。
辺りには細かく刻まれた彼の肉片が飛び散っていた。
「ぎ、ぐぅ・・・痛えな畜生・・・。だが、少しずれたな。俺の勝ちだぜ、コスプレ野郎・・・っ!」