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バックコインズ 殺人鬼達は闇夜に佇む  作者: マイケル田中
『その怪物は涙を流す』
12/12

2話

遅くなりましたが、この前、評価して頂いてとても嬉しかったです!

これからもこの小説をよろしくお願いします!

「間に合いましたね」

「道が混んでいなくて助かった」


彼達は待ち合わせ場所へと着いた。一見すると、ここはただの民家であるが、本当にここで良いだろうか?


車を運転している伊里は恵海の案内により、指定された場所へと駐車し、4人は外へ出る。

そして、彼等は民家の前に立つ。


その家の周りは塀で囲われており、辺りには人気がなさそうだ。


今の時刻は17時50分。約束の時間までほんの少しだけ余裕がある。伊里は胸を撫でおろした。


「それで・・・どこから入るんだ、恵海?」

「彼について行くの」


恵海の指を指した所には、初老の男が立っていた。彼はこちらに気付いたようで、彼等の方へと歩み寄る。彼は深々とお辞儀をした。


「バックコインズ様ですね、お相手様がお待ちです」

「彼は?」

「ここの管理人さんよ。ここは入口が特殊だから、専用の案内人がいないと中へ入れないの」

「えぇ、ここは事情のある方が秘密の会談をする為のシークレットルームでございます。プライバシを守る為に入口は隠されている故、私が案内をさせていただきます」


確かに、一見すると入口はない。ただの壁がそこにあるだけだ。しかし、その壁1部分を押すと案内人が壁を押す。すると同化しているスイッチを押すと、地下への入口が開いた。


映画のワンシーンのような光景に、彼等は思わず拍手してしまった。


「さぁ、こちらです」

「おお、なるほど」

「ひゅー!格好良い(かっくいー)

『ホントにあるんだね、こういうの』

「びっくりしましたね・・・!」


彼等の興奮が冷めないうちに、ある個室へと誘導された。案内人がドアを開けると、真面目そうな顔つきの女性が席についていた。バックコインズ全員が部屋へと入ると、案内人は静かにドアを閉めた。


バックコインズが席へとつくと、目の前の彼女はペコリと会釈をする。


「バックコインズの皆さんですね、私が今回の事件の担当者の林です。よろしくお願いいたします」

「私達は能力者事件の担当であるバックコインズです。よろしくお願いします」

「私は伊里久安と申します。1番若い彼は灰戸零士、紙袋の彼はラックです」

「自己紹介も済んだところで、早速ですが今回の事件について警察側が得た情報をお伝えします」


穂村はカバンから事件の概要を記載した資料を彼等に渡す。

彼等がそれに目を通していると、穂村はゆっくりと説明を始めた。


「事件が起こったのは2日前の深夜。被害者は刺殺ではあり、現場では炎に包まれた人間のような物が出現しています。また、凶器には指紋はついておらず、手袋などを嵌めていたと考えています」

「なるほど、警察からの情報が来ていないのが疑問だったが、2日前だったのか」

「捜査が迅速ですね」

「能力者による事件を放っておくと、後で大惨事になる可能性がありますから。ましてや、今回の事件の犯人の能力は炎であり、危険性が段違いです。早急に確保、もしくは殺害をしなければなりません」

「殺害・・・」

「危険性の高い能力者は確保するのが難しい。1つの手段として殺害も視野に入れなくてはならないんだよ、零士君。まぁ・・・単に生かしてはおけない場合も多いがな」


その言葉を聞いて零士は改めて自覚した。悪人ではあるが、人を殺さなければならない状況に立たされるかもしれないと。


そして、彼は自分の手を見た。

自意識がない状態ではあったが、この手は既に血に染まっている。サドネスは自分の一部、もう1人の自分として認めているのだ。つまり、彼はこう思っている。自分は薄汚い殺人鬼なのだと。


初めての事件で、食人鬼の革島の元へと向かう時。それは今と同じような気持ちであった。

結果的に、自分は戦闘をせずに彼の確保へと至ったが、今回はまるで別次元の話だ。


本当にサドネスへ任せても良いのか?

そして、もしその犯人を殺害してしまった時。自分が殺したと認識した時。

そんな時に自分は耐える事が出来るのだろうか?


彼は焦りの表情を顔に貼り付けている。

伊里は彼の焦燥した様子をちらりと見た。


そんな様子を知らずか、林は話を進める。

次はこの事件の容疑者についてのようだ。


「警察では今、何人かを犯人の候補として上げています」


林は立ち上がり、現場近くの監視カメラや目撃情報などを元に調べ上げた容疑者の資料を彼等に配る。


そこには5人ほどの顔写真や住所が記載されていた。


「これを元に、バックコインズの皆様に容疑者である彼等を1人ずつ調べていただきたいのです。普通の警官であると二次被害を生む可能性がありますからね」

「なるほど。承知しました。明日から早速調べさせてもらいます」

「よろしくお願いします」


彼らは事件や炎の怪物について色々と話し合う。

さらなる事件が起こる可能性もある為、バックコインズとしても倒さなければならないのだ。


話し合うに連れて、バックコインズの方針も決まり、警察側とも協力して犯人を探し出す事になった。


情報共有や協力体制などの諸々を決め終わり、彼等は外へと出ようとする。

その時に林は声を掛けた。伊里へと何かが書かれたメモを渡す。


「夜も遅くなってしまいましたので、私達の方でとったホテルへ今晩はお泊まり下さい。住所はこちらに書いております」

「有難うございます。早速向かわせてもらいます」

「おー、太っ腹。まぁお姉さんはスリムだけどね」

「恵海さん・・・ちゃんとお礼言わないと駄目ですよ・・・」


ひとまず、彼等は林と分かれ、指定されたホテルへと向かう。そこで彼等は明日の段取りを確認した。


「まずは、現場から1番近い彼に話を聞こう。事件の後に炎の怪物は目撃されていないから、直ぐに近い場所に潜伏した可能性がある」

『確かにね』

「賛成!!」

「・・・」

「零士君もそれで大丈夫か?」

「あ、えーっと大丈夫です」


零士はボンヤリとしていたが、伊里の言葉を聞いて急いで頷いた。


「それなら後は自由にしてくれ。明日に備えて準備をしないといけないからな」

「じゃあアタシは飲み屋にでも行ってくるわね!美味しそうなお店を行きの車の中で探してたの!」

『それならコンビニでも行こうかな』

「止めておいた方が良いんじゃないか・・・」

『イケる気がする!』


ラックは何故か根拠の無い自信を持っている。

その言葉を聞いた伊里は馬鹿な真似をしようとしているラックを諭すが、このままだとそれが無駄に終わる事を感じた。


彼は恵海に対して、ラックの為にコンビニで何かを買ってきてもらおうと頼もうとしたが、彼女は既に部屋を出て行ったようだ。


彼の静止も虚しく、ラックはホテルのドアを開けてウキウキしながら外へと出て行った。

伊里は深いため息をつき、心配だ、と呟いた。零士もそれに同意した。


「そうだ、零士君はどうする?」

「とりあえずこの辺でも散歩しようかなと思います」


そう言って彼は部屋を出ようとする。その時、伊里は不安げな表情をしている彼に声を掛けた。


「もし思い悩んでいるなら話を聞くぞ」

「!!・・・大丈夫です」


零士はピクリと肩を上げて彼の言葉に反応したが、その提案には乗らずに、ドアを開けて部屋の外へ出て行った。


「・・・零士君」











零士はホテルの周りをうろついていた。時刻は午後9時である。その為、暗くはなっていたが人通りはまだ多い。


彼は1人でゆっくりと考えたいと思い、道を外れて小さな公園へと入っていく。そこには殆ど人が存在しない為、静かに考えるのには適している。


彼は公園内のベンチに腰を掛け、思い悩む。


(本当に僕はバックコインズでやっていけるのだろうか・・・)


人を殺害するかもしれない。本当にこんな自分がそんな事をして良いのか。


色々な事を考えていると、公園の外から小さい悲鳴が聞こえる。零士はビクリと震えた。


(えっ!何だ!)


タッタッタッタッ。

彼は急いでその悲鳴の出どころへと向かう。そこには人が壁にもたれ掛かっていた。

彼はしゃがみ込み、その肩を揺する。


「大丈夫ですかっ!」


零士は声をかけるが、反応は帰って来ない。

そこで彼は地面に水たまりが出来ている事に気づく。


彼は恐る恐るそれに触れる。すると、ヌルっとした嫌な感触を感じる。


鉄のような匂いが彼の鼻に届いた。


「ま、まさか死んでる・・・。直ぐに伝えなくちゃ!!」


彼が立ち上がると、後ろに気配を感じた。それに加え炎が燃えるような音も耳へと入る。

彼は咄嗟に振り向いた。


目に飛び込むのは真紅の揺らめき。


そこには炎に包まれた怪物が佇んでいた。


「うわ!」

「・・・」


それは人の形をしており、目が確認出来ていないにもかかわらず、こちらをジッと凝視しているように感じた。


零士はいきなりの出現により気が動転していたが、これでもバックコインズのメンバーである。直ぐに冷静な状態へと戻り、彼は勇気を出して怪物を観察した。


彼が怪物を見ていると、その怪物は身体を半回転させる。零士に危害を加える事なく、ここから立ち去ろうとしているようだ。


怪物の炎が静かに揺らめく。


その刹那、彼はその炎の中に悲しみを見た。理由は分からないが、確かに見えた。

零士は思わずその怪物に声をかけてしまう。


「悲しいのですか・・・?」

「!」


その言葉は予想外だったのか、それは後ろを振り返ると零士を再び見る。


彼はそのまま続けた。


「炎に悲しみが見えます・・・。暗く、深く、人生に絶望しているような、そんな悲しみが・・・」

「・・・」

「僕の名前は灰戸零士。能力者である貴方を捕まえにこの町へと来ました」

「!!」


炎を通しても分かるくらい、その怪物は明らかに動揺した。


「貴方は何故こんな事をするのですか・・・?何故、人を殺害するのですか?」


その問いかけを聞いて、その怪物は少しの間沈黙していたが、頭と思われる部分を抱えて蹲るような体勢を取る。


まるで何かに苦しむような、その身に纏う炎が自身の身体を焦がしているような、そんな苦しみ方だ。


「大丈夫ですか!?」

「・・・ころ、し、て」

「!」


そう呟いたそれは、零士をその場に残して走り去っていった。


「・・・」


怪物の呟いた言葉。そして炎の中に見えた哀しみ。


その2つが零士の心に残っていた。

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