通貨
「それではパン1斤が2cc、ライ麦パンが………」
そこで驚いたのは、パン屋の女性が紙に書いているのではなくペンで空中に商品名と値段を書き込んでいるのだ。
ペンで空中をなぞるとキラキラとした銀色の文字でさらさらを浮き出てくる。
この世界では魔法がこんなにも身近なようだ。
「じゃあこの値段で………、……?どうかしたの?」
その文字を見つめてつい固まっていたツバサの顔を女性はのぞき込む。
「あっ、ああすみませんっ。あのこれで足りるでしょうか?」
ジャラッと包を開けると2人はぎょっとした。
「珍しい髪色だとは思っていたがどこかのお嬢様だったのか?あまりこういうのを人に見せない方が良い」
少し困った顔をして中から1枚だけ取り出したら「小銭足りる?」「どうでしょう…」と話している。
まさかそんなレベルのコインを15枚も持っていたのか私は、と少し怖くなる。
「外国から来てここの通貨を知らなかったのかもしれないが君が持っていたのは15gcで、1gcだとこのパン1斤が50本買えるんだ」
その瞬間ツバサの顔が真っ青になる。
2cc×50=100cc=1gcということだ。
自分はそんな大金を持っていたのかと思うと少しオロオロする。
日本円でパン1斤を500円とするとその掛ける50。ざっと25000円だ。
そのさらに15枚ともなると375000円だ。
そりゃ他人が見てもおい隠しておけとなるはずだ。
話を聞くとそのさらに下のランクもあるようで、単位は「gc」「cc」「sc」の順だ。
scはccの10分の1だそうで、パンの価格を基準にするなら1scが約25円となる。
「本当に通貨すら知らなかったのか」
残りのお金を入れた包に加え、入り切らなかったお金は「もう使ってないから」と、小さな袋を貰いそこに入れた。
さらに購入したパンもあるのでもうツバサの手は塞がってしまった。
当然カバンはこれから買おうとしていたところなのでそんなものは無い。
すると男性は「丸見えは盗ってくれと言っているようなものだ」と自分の付けていたマントをツバサにつけさせる。
「さ、流石に送っていこう。このような女性を男として見過ごせないだろう」
そう言うと自分の購入したパンとツバサの購入したパンを抱える。
「そんな、悪いですよ。私が世間知らずだったから招いた事ですし、そう遠くないですから大丈夫ですよ」
やましいことというより、やましいと判定されるような事が何かもわかっていないのでとりあえずツバサは断るが「これでも騎士なのでな、力には自信があるのだ」とパンを離さないので従うことにした。
その様子を女性がむくれながら見ているのをツバサは見て見ぬふりをした。