勇者
その時だった。
「コンコン」
この家の出入り口であろう扉がノックされた。
「!だ、誰か来た・・・出ていいのかしら・・・」
もちろんのぞき穴などはない。窓の感じを見るに今は昼間だが、出るのを躊躇するに決まっている。
そうツバサが迷っていると扉の向こうから「ナイだ」と声がした。
「事前に来るとか言ってもらわないと困るわ」
訪問してきたナイを扉を開けて迎え入れる。
服装はこの世界に合わせているのか、物語に出てくる王子のような恰好をしていた。
・・・逆に目立っていそうだとは口には出さなかった。
「ん?ああその本を見たのか」
ツバサの言ったことはスル―されたが開かれて机に置かれた本をみると「行動が早くて助かる」と言う。
「そこに書かれている通り他の国に地球人を送ったら大成功しているようでな、ここでは勇者と呼ばれているらいしい。」
くっくっと笑い本をパラパラと流し見している。
「君にはこれからここにある魔術書を読んでもらい魔術を使って敵を倒してもらう」
「・・・そういう事だと思ったわ」
相手が神の手下なら当然生身の人間で太刀打ちできるわけがない。
そしてここで勇者と呼ばれる存在が祭り上げられる理由はそこらへんの人じゃ勝てないからだ。
「理解が早くてたすかるよ。まあ報酬として倒した分の金をそこの机に生成されるようにしてやる。某としては奴らが簡単に征服できないように妨害したいだけなのでな、あとは好きにするといい」
普通、妨害したいだけで別の世界から人間を連れてくるだろうか?
このナイというヤツは神という中でも変わったヤツにちがいない。
「そこのクローゼットにはこの世界の服がいくつか入れてある。今の恰好で外へでては目立つだろう」
そう言われるとすぐに中を確認する為に開ける。
服はひらひらとしているワンピースのような服が多く、映画で見る昔の西洋のような服だった。
「ねえ、ここって時代でいうと中世の・・・」
そう聞こうと振り返ると後ろで立っていたはずのナイはいなかった。
その代わりにナイのいた場所の地面にメモが落ちていた。
『例え姿かたちは異なっていても僕はそばにいる。君の問いに答えられないが時々違う僕も会いに来るだろう』
「違う僕・・・?何を言っているのかしら。やっぱり変なヤツね。神ってみんなああなのかしら」