生きる意味
「ナイ……」
ナイという男は満足そうにして、「パンッ」と1つ手を叩いた。
「次は君のお話」
そう言われるとツバサはハッと気づいた。
なぜ自分は生きているのか、本当に「生きている」のか、この先自分はどうなるのか。
ツバサは思わず固唾を飲んだ。
「君は確かに死んだ。溺死だったな。ま、今は葬儀の最中ってところ。君らを殺した奴らは警察に逮捕されていたね、これからが楽しみだ」
ナイは何も無い空間をツカツカと歩きながら説明していく。
「君の魂は体から抜け、無に還ろうとしていたところを……」
がしっ、とナイは手を広げてその手を勢いよく握る。
「捕まえたのさ」
そうニヤリと笑うナイはどこか不気味で、本当に人類の想像する神なのだろうかと一瞬考えた。
「ここで一つの、全く次元の違う世界の話をしよう」
「……?」
突然話が切り替わり、ツバサは首を傾げる。
話を戻そうかと考えたがもう自分は死んでいる為急かしても仕方がない、と思い大人しく聞くことにした。
「ある所に君の住んでいた世界と全くの別の世界がありました。そこは君の世界で言うところのアニメや漫画などに出てくるような「剣」と「魔法」がある世界。その世界は国々で小さないざこざはあるものの、その「世界」としては平和そのものだった」
「ところがある日。私と似たような神らはその世界を手にしようとした。ある者達は人間を安定的に供給する「人間工場」にしようと。またある者達はその世界の支配者になろうと。様々だ」
「初めは君たちの「世界」に手を出そうとしたみたいだけど、一部の人間達に阻まれていたようで今度はこちらの世界に手を出してみようという事だ」
「私としては別に何でも良いのだが、すんなり世界を支配されても面白くはないだろう?」
………これだ。ツバサはその台詞で確信を得る。
この神を名乗る奴は決して「良い神」では無いのだと考えた。
特に興味も無いのに面白そうだからという理由で場を荒らすような、そんな感じに取れた。
ナイをあまり信用するべきではないとツバサは考え少し体に力が入る。
「そこで俺は一石投じて見ることにした。それが君たちのような「あちらの世界」から来た者達だ」
突然こちらを見てビッと指をさされたので少し驚いてしまった。
「それか本当だとして、私はそいつらから世界を守ったのと同じ人種だから対抗できるだろって話?」
「そうだ。話が早くて助かるよ」
「適当なあちらの世界の身体を作ってそこに魂を入れれば完成だ。小生はあちらの世界との人間の違いのひとつに「魂」も関係してるのかと考えている」
いつの間に隣に来たのか、ツバサの肩に手を置いて形のよく作られた顔を近づけてくる。
「お前は歌いたかったのだろう?あちらの世界で生きることはもう出来ないが、そちらに行けばお前は夢を再スタートさせられるんだ」
「……!歌を……また、生きて…」
そうそう、とニコニコ笑いながら指でツバサの喉をなぞる。
「そちらの国に1人お前のように死んだ人間を派遣している。その者達と会うことは難しいだろうが記憶はそのままにしてある。前世でなし得なかった「結婚」を願って「転生」していった奴もいたなぁ……」
「結婚」ツバサは歌と趣味に時間を注ぐあまり、男っ気はほとんどなかった。
近づいてくる男は皆自分の整った容姿に惹かれてやってきており、相手をする気もなかった。
しかし恋愛はしたかった。
いくら愛だの恋だのを歌おうが、経験したことがなかった自分には空っぽの歌に思えていた。