黒猫の椅子
人でごった返す街の中をすり抜けて少し大通りから外れたベリー通りに出る。
そこは飲み屋や少し高めの服屋など基本的に大人が楽しむ店が多いような通りだ。
カインは「ここだ」と、一つの店の前で立ち止まる。
見せはバーのような店だった。看板には「黒猫の椅子」と書いてある。
カインは慣れたように扉を開けると「グリーバさーん!」と少し大きな声で人を呼んでいる様子だった。
店内はまだ準備中のようで少女がモップのようなもので掃除していた。
大きめの帽子を被っていた少女は帽子のせいで表情こちらをチラッと見るとあまり興味がないのか掃除を再開する。
すると奥の階段から「ドスドスドス!」と忙しなく人が下りてくる音がした。
「カイン!本当に連れてきてくれたんだね!」
駆け足でカインの前にやってきたのは30代前後の綺麗な赤い髪が特徴的な女性だった。
「は、初めまして!ツバサといいます!えっと・・・」
目の前の女性は嬉しそうに「ツバサね」と頷く。
「私はグリーバ。ここの亭主の妻なんだけど、亭主の方は「冒険者」なもんでね。常連もあまり知らないって人もいるくらいだから気にしないで」
「冒険者」という単語が気になるところだったが恐らくこの人が自分を雇ってくれる人だろうと思い聞き返すのはやめた。
「カインの母とは親戚でね。最近子供から目がはなせなくて、働き手が少なくて困ったからここで働いてくれるなら助かるよ」
そういうとツバサの手を握りニコニコと微笑む。とても人のよさそうな人だ。
「はい!是非ここで働かせてください!」
そう答えると「あちがとう!」とグリーバは笑いカインに「良い子だね!」と話す。
新しい従業員が気になるのか掃除をしていた少女はこちらを見ていた。
少女が気になりそちらを見ると目が合い、視線をそらされてしまった。
「ん?ああ、あの子はリーリー。ここの二階で住みながら働いてるの。ちょっとシャイな子であまり人の前に出たがらないのでお店の裏の仕事をしているから」
モップで掃除をしていたリーリーにツバサは近づくとさすがに無視できないのかツバサを見る。
「私はツバサ。ここで働かせてもらうの」
握手を求めると少し迷った様子を見せるも、おずおずと手を握る。
「・・・よろしく」