暫くして
ツバサがこの異世界にきてから二週間が経過した。
基本的には魔術の勉強と、街の散策に時間を費やしていた。
食事は市場で色々買い、日本での知識を元にそれなりに美味しいご飯にありつけている。
水は生活用水としてみんなが使っている井戸の水を汲んできて購入した『浄化の魔石』を入れておくだけでとても綺麗な水に変わるのだ。
そのほかにも生活に普通に魔法が使われていることが分かった。
住民達は皆それなりに魔力があり、魔法でスープに調味料を入れている間に野菜を切るなどという生活に根付いている様子だった。
しかしごく稀に魔力はあれど極小すぎて魔法が使えないという人がいて、そういう人達は苦労しているらしい。
魔力がとても強い人はいるものの、漫画などで見るビュンビュンみんなが空を飛ぶなどは無く特別階級クラスになるような人あたりしかできないようだ。
先日会ったリアム・ルーカスは空を飛ぶ魔法を使っていたので、騎士の中でも相当の地位であるとツバサは考えた。
街の様子としてはツバサの居た世界の歴史にある中世のヨーロッパに似ているが、魔法があることから生活はその当時よりは便利な生活をしていそうだ。
「そろそろ行かなくちゃいけないわね」
ツバサは読んでいた魔術の本を閉じて棚にしまうと慣れた手つきで床に魔法陣を描いて、姿を変える術を使う。
最近買った可愛らしいカバンを肩から下げて、ツバサは家を出る。
市場で店を出しているカインと仲良くなったツバサは、仕事の関係でこちらに移り住んできたが突然仕事が無くなり困っている という設定にしてあった。
それに同情したカインは本日働き口を紹介してくれるという。
嘘ではあるものの、職を探しているのは本当なので大変有難い話だ。
いつも買い物をしているカインの店の前で待ち合わせる事になっている。
「ツバサ!」
店の前で待っていたカインはツバサを見つけると手を振って呼び寄せる。
本日は店は母親の日のようで、こうしてツバサを呼ぶことができるということだ。
「ごめんなさいカイン。人が多くて少し遅れちゃったわ」
「いーっていーって」と話しているカインとツバサを店番をしていた母親は微笑みながら見ていた。
「な、なんだよ母さん。ツバサの事そんなに見て」
視線に気づいたカインは思わずツバサを隠すように母親との間に立つ。
「ええ〜?その子がツバサかい。中々いい子じゃないか」
素直に褒められたと思ったツバサは少し照れており、カインの体で自分が母親から隠れているのを救いに思う。
「やめろよ母さん!ほら行くぞツバサ。お前のことを雇ってくれる人が待ってるんだ」
カインは少し頬を赤らめながらもそれをツバサに見られまいと違う方を向きながら、ツバサので引いた。