カイン
再び、市場。
もう夕暮れに差し掛かっており市場ではもう店を畳む支度をしている人が多くいた。
店の1つである主に野菜を売っている店では1人の若い男も、帰宅する支度をしていた。
「あの、すみません」
声をかけてきたのは背の小さく、茶髪でショートカットの若い顔にそばかすのある娘だった。
「やぁお嬢さん。買い物か?申し訳ないがこんな時間なんでな、あまり良いものは残っていないよ」
持ち帰る予定だったのだろう、大きな木の箱に雑多に野菜が入れられている。
「ではこれとこれを頂いても?」
キャベツと人参を購入した娘がそれを抱えると男性は娘に「見ない顔だな、越してきたのか?」と声をかけた。
「ええ、仕事の都合で。ところで水はどこで調達すれば良いのかしら?」
そういうと男性はとても驚いた顔をした。
「お前変わったやつだな?水なんか飲んだら腹を下すに決まって……あ!まさか「浄化の魔石」を持ってるのか!?通りで身なりが言い訳だ」
どうやら男の話ではこの国では水はろ過されておらず、他のものを飲んでいるという口ぶりだがその「浄化の魔石」があれば可能といういい方だ。
「いえ……その私は親元を離れたばかりで家のものを揃えるのが初めてで。「浄化の魔石」を持っていれば水が飲めるのかしら?」
「なんだいい所のお嬢さんだったんだな。「浄化の魔石」も知らないで水を飲んでいたのか。「浄化の魔石」は魔法石に魔力を込めた物でな、それを汲んできた水の中に入れておけば浄化されて綺麗な飲める水の完成ってわけさ」
男はかなり面倒見がいい人なのかとてもよく教えてくれた。
そもそも魔法石が高いためあまり庶民は持っておらず、酒を飲み物として代用していること。
「浄化の魔石」が売られているが魔法石の値段は更に跳ね上がっており、中々買えるようなものでは無いとのことだ。
「そうなのね。色々ありがとう」
娘は買ったキャベツと人参を抱えているので「よいしょ」と持ち直したりして話をしていたが、話に区切りがつくと男は「そうだ」と荷物を漁る。
「それじゃあ重いだろ。俺の袋で良かったら使えよ。その代わり俺の店に物を買いに来てくれよな」
男は少しほつれた大きな鞄のようなサイズの袋を娘に渡して、その中に買ったものを入れて持たせた。
「ありがとうございます。なんとお礼を言ったらいいか…」
「良いって良いって。それより……えっと、名前を聞いてもいいか?俺はカインだ」
カインは少し顔を赤らめて恥ずかしそうに娘の名前を聞く。
「私はツバサ。よろしくね、カイン」