番外1 『食屍鬼』、疲弊
時は数日遡る。
王都の少し離れた山林で魔物が出たという報告があり、王家の第三騎士団が討伐隊として派遣された。
その魔物は人と同じくらいの大きさであるが前かがみで歩き、ゴムのような皮膚にかぎづめのある見た目で夜行性のようで夜に人のいるところまでで来るそうだ。
出てきては人を襲いその場で食べたり、死体を巣とされている山林の洞窟へ持ち帰る。
「確認されているのは3体の模様です」
あと2時間もすれば日も落ちるという時間に第三騎士団は山林の近くにテントを構え、時間となれば出てきたところを退治するという作戦。
「そうか…これ以上被害を出してはいけない。行こう、絶対に全滅させるぞ」
テントの中で山林の抽象的な地図を見ていた第三騎士団の隊長、リアム・ルーカスはそう言うと立ち上がる。
もう既に5人もの犠牲者が出ていると聞いた。
騎士団の中でも攻撃力のある編成の隊ではあるが魔物は自分たちの使う魔法が効きにくく、かなりの確率で長期戦となる。
体力のある者ばかりを集めているが今回は何名犠牲を出してしまうのか、とリアムは暗い面持ちでテントを後にする。
「…何人死んだ」
3日間もの間魔物を相手にし、酷い死臭が充満している洞窟の中で最後の魔物を斬り殺したリアムは部下にそう聞く。
「3名と、行方不明が5名です…うう…」
そう答えた部下は先ほど目の前で友人が魔物の爪によって倒れてしまい、泣いていた。
リアムはもう洞窟に敵が残っていないのを確認すると連れ去られたであろう人たちの亡骸や遺品を探したが何も見つからず、部下達と共に洞窟を出る。
「ルーカス隊長・・・、魔物が出る頻度と死者数が日に日に増えています。このままでは我が国は滅亡します…。隣国に現れた美しい紫の髪をしているという勇者様を連れてきては頂けないのでしょうか…」
他の国にいるという勇者を借り出してほしいという意見は多い。
しかし勇者は大変丁重に扱われており、行った先の国で死んでしまったら政治的にとても不味い事になる上に魔物を有利に倒せる魔術を使う者が世界から減る事となる。
数名犠牲が出ても倒せる内は他国の勇者を借り出すことなど到底できない。
「待つんだ。この国にも勇者が現れるまで俺たちは耐えるしかないんだ…」
倒れてしまった仲間たちを抱えながらテントに戻ると王都から亡骸を運んでくれる馬車が来ていた。
騎士達は皆疲弊し、今にも泣きだしそうな顔で帰りの支度をして王都へと帰還する。
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「またリアム様の隊は活躍したそうですね。じゃあお給金も弾んだでしょう?沢山買ってくださいね!」
ここは市場の近くにある行きつけのパン屋。
看板娘であるヨルは人の表情から心理を察するのが上手く、そうやらリアムが暗い表情をしていたようでとても明るく話しかけていた。
「……そうでもないさ、俺は仕事をしただけだ。今日はいつも買うパンを買いに来たんだ」
リアムは笑顔で答えるとヨルは少し安心した表情をしながら「もー!」と答える。
いつものようにヨルと談笑をしていた時、店に女性が入ってきた。
なんとなくそちらを見たリアムだったが、その女性はこの国では大変珍しい美しい真っ黒の髪をしている女性だったのでリアムもヨルも驚いた。