歌勇恋
「ゴボッ……ゴボボッ……!」
私はただ歌いたかった。
ずっとずっとなりたかった歌手。
遅咲きながらもその夢は叶った。
幸せだった。
「た、たすっ……!」
でもその歌声を出している喉には今は砂混じりの水で満たされている。
折角、ようやく掴んだ夢だったのに。
「ゴボッ!」
恋愛だって、何もかも捨てて
その結末がこれだった。
『バシャッ バシャッ』
オーディションに落ちた人達が
「どうせ顔で選ばれたんでしょ?その綺麗な顔で何人の人を黙らせたの?」
「顔と股で掴んだ夢は幸せ?」
そう口々に言ってきた。
そんなことしていない、そう否定しても攻撃は止まらなかった。
私を橋まで追い詰めるとリーダー格の女が私を脅すつもりだったのか顔に平手打ちをした。
しかし、私はそれを咄嗟に避けようと後ろに体重をかけたところ川に落ちてしまった。
「ゴボッ…………。………………」
どんなに頑張っても容姿が良かったからと理由をつけられ、私の人生はこの真っ黒で汚い川の中で終える。
橋の上で襲ったヤツらは「ちょ…やばくない…?」「アンタが押したんでしょ?!殺したのはアンタよ!」と罪を擦り付けあい助けようともしていなかった。
「………」
この恵まれてしまった容姿さえ………
なければ私は………