桜に捕らわれそうな貴女と
主は小説を書くのが今回初めてなので拙いところも沢山あると思いますが、百合好きさんに刺されば良いなと思っています!良かったらこの自粛期間中の暇つぶしにでも読んでいただけたら幸いです。
弥
時刻は朝の六時。大きく一回伸びをしてから、くぁ…って音と共に息を吸って目を数回擦る。ぐだぐたしていても仕方がないので、眠いせいで身体が重いことに気が付かないフリをしてカーテンを開けると、柔かい光と共に春の匂いが鼻を擽った。そのままベランダに出てみると、今日起こる出来事への淡い期待と不安に胸が鳴る。…落ち着いてきたので階段を下りて冷水で顔を洗うと、あまりのひんやりした刺激に少し身体が跳ねた。大分スッキリしてきたのでそのままいつもより早い時間からのヘアセットを開始した。コテを温めている間は暇なので、スマホにイヤホンを差し込んで好きな曲にテンションを合わせると、すぐに爽やかな気分になる。我ながら単純だ。一〜二曲聴いたあたりでコテが温まったことに気が付いたので、器用に髪を巻いていく。完璧だ!自分を褒めながら鼻歌交じりにリビングへ向かった。
鈴
「んん…?」目覚ましを止めてから少し微睡んでいると、足元が妙に温かいことに気が付いた。視線を向けると、黒い塊からチラリと青い首輪が覗いた。「あぁ、今日はそこに居たの。ふふっ、おはよ。」相変わらず眠そうに尻尾を振ったそれを何度か撫でながら挨拶をする。気持ち良さそうに掌に頭を擦りつけながら喉を鳴らしている姿に癒やされつつ、そろそろ時間が起床する予定に近づいていることに気が付いて、猫を降ろす。「ごめんね?」と言ってみたがいつものことなので、あまり猫は気に留めていないようだった。布団を直して洗面所に向かうと足元にすり寄ってくるのが愛らしい。顔を洗ってリビングで両親と軽く挨拶を交わす。今日の朝食はパンとスクランブルエッグ、ウインナーのようだった。あ、ミニトマトまで!定番の朝食だが、鈴はいつも喜んでいるのだった。思わず鼻歌を歌うと、家族皆もハモりだした。「?!ちょっ…!!」聞かれているとは思っていなかったので、あまりの恥ずかしさにお父さんの広い背中を思いっきり叩いてしまう。理不尽じゃないし!
弥
ちょうどお母さんも起きてきたのを横目に、コップに注いだお茶を喉に滑らせていく。身体中が潤っていく感覚が心地良い。「あ、弥。制服がかかってる場所分かる?箪笥の一番右にかかってるからね。」とお母さんに言われて「分かった〜」と相槌をうちながらまた自室に戻る。階段を上っていると、いつもより少し早く起きた妹と会った。しまった、煩くしてしまっただろうか…と思いつつ、部屋に入って制服を探す。…あった!今日初めて袖を通す、セーラー服の冬服に目を輝かせる。夏服もあるけど、冬服が良いな…暑いだろうか。皆夏服で私だけだったらどうしようかな…色々と思考した結果、やっぱり冬服を手に取った。どうしても最初は、赤いリボンが良く映える紺の制服が着たかったのだ。プリーツスカートを少しだけ折って、姿見の前に立ってみる。結構様になってるんじゃないかな?な〜んて思って何枚か写真を撮る…顔は映さないけどね。この制服、似合う娘が着たら最高に可愛いんだろうな〜、女子高だし可愛い娘いっぱいやったらどうしよう!スマホを見ながらそんなことを考えていたらあっという間に時間は過ぎていく。朝ご飯の存在に気が付いて焦るのは、これから三十分後の話。
鈴
今日は特別な日なので、ヘアメイクをお母さんにしてもらう。…いつもはそんなんじゃないからな!と誰に向けるわけでもない言い訳を心の中で唱えつつ、目を瞑って身を任せる。ヘアアイロン温かいな…少し眠気が襲ってきた。実は寝不足なのだ。と言うのも、対面が苦手なりにお友達が欲しい為に色々と勉強したり、新生活に思いを馳せていると、睡眠時間がいつもより短くなってしまったからだ。おまけに春の陽気まで…入学式の話、長くないと良いな。寝てしまったら良くない…。まあ、あくまで式と説明とプリントの配布くらいだろう。長くてもきっと三時間もない…はず。最悪帰ってからお昼寝しよう。なんてぼんやり考えていると、いつの間にかヘアメイクは終わったようだ。中学生の頃から、未だに少し照れくさい言葉を目を背けながら呟く。「…ありがと、お母さん。」なんとなく、そそくさと自室に着替えに向かった。
弥
長い。あんまりにも長い。入学式…の校長先生の話!あまりにも長すぎて半分くらい女の娘の観察に使ってたもん、私…。とはいえ、良い事もあった。超好みの女の娘を見つけたのだ!一目惚れ、かもしれない…。そのくらいドタイプだった。私と同じ黒髪。なのに、空気を含んでいて私とは全然違う髪質だ。私はどちらかというとサラサラしている(触ったらそんなこともなくてちょっとがっかり…)から、とても羨ましい。触りたいなぁ…なんてぼんやりと思って熱い視線を送っていたからか、一度彼女がこっちを見たのだ。私は幸運にも、いや…ある意味不幸かもしれないけど、目が合ってしまったのだ!ぱっちりとした二重に少し黒めのうるうるした瞳孔。淡いピンクの唇は桜によく似ていて、薄い。表情は固かったが、その分前髪から覗くキリッとした眉が凛々しい。そんな娘と目が合ったのになにが"ある意味不幸"かって?その瞬間から私は、心音で周りの雑音と共に学校の説明まで聞こえなくなってしまったこと!私の顔は多分…今すごく紅い。
鈴
ね、眠い…。嘘だろ、校長先生の話ってこんなに長いのか…!中学よりも集中力を削ってくるだらだらとした喋り口調に、分かりづらい比喩表現。なのに内容は至って普通だ…聞く価値がないと早々に判断した鈴は、あることに気が付いた。なんか…さっきから妙に視線を感じる。いいや、気の所為か…と自分を説得したものの、やはり気になってきて視線の方をチラリと見やった。すると、ある一人の可愛い生徒と目が合ったので、不思議に思いつつもまた教壇の方を向いておいた。そろそろ学校生活についての説明に入る気配がしたからだ。無意識に下りてくる瞼を叱責しながら、頑張って話に耳を傾けた。初日で浮きたくはないからな!うん、偉いぞ俺。話が終わる頃には、大体頭に叩きこめた。それにしても俺の顔に何かついていたのだろうか。いつもなら人と目が合ったことなんかすぐに忘れるものの、目が合った瞬間にあの娘が見せた表情にひっかかったからだ。…見られてた?から見返しただけなのに、あんなにびっくりして目を見開くことないだろ…。ムスッとしながら、結局同じクラスであろう位置に居た女の娘のことをクラスに着くまで考えているいたのだった。
弥
ぽーっとしたまま、前の娘について歩いていく。教室は…ここのようだ。指定された席に夢見心地なまま座る。夢境だけにね!なんて面白くもないことが頭に浮かぶくらいには混乱しているようだ。ヤバイヤバイヤバイ…!!と、とりあえず馴染む為になんとなくでもクラスメイトの顔…を…?!頭をグルグルと目まぐるしく回転させていた弥の目に鈴の姿が映る。パニックで逆に冷静になった弥は、鈴がキョロキョロと辺りを見まわしていることに気が付いた。話しかけるチャンスだ…!そう思って近づいて、声をかけようとした瞬間、鈴に睨まれた。?!私なにかした?!なんで睨まれてんの?!という考えてと共にまたもや好きという気持ちも込み上げてきた。恐る恐る、「あ、あの…さっきからキョロキョロしてどうしたん?あと私なにかした…?」そう真っ赤な顔で聞いてみると、想像していたよりも遥かに高い声で返答があった。「別に…っていうかこっちが聞きたいんだけど…なんでそんなに目が合っただけでそ、そんな…びっくりすんの?集会といい、今といい…な、なんか顔についてる?」一気に、しかしゆっくりと(少しどもりながら)質問されて、何から返そうかと思いつつ、相手のペースに合わせてゆっくりと話し出す。「えっ?!い、いや…あんまりふわふわそうな猫っ毛だから羨ましくて…校長先生の話長かったし、見つめてたら目が合ってびっくりしただけだよ。あんまり可愛かったから…」集会中に目が合ったことを覚えていてくれた鈴に感動したが、変に思われないようにグッと堪えた為に少しどもり気味になる。それにしても可愛い声だな?!「へっ…か、かわ?…格好良い、だろ…俺は。」ん?「俺?」思わず頓狂な声で聞き返してしまう。「あっ、えっと…その、変か?」変、というよりは…「いや、びっくりしただけだよ。」と本心を口にする。と、胸を撫で下ろしたように鈴が「良かった…」なんて微笑むものだから、また弥の胸は高鳴るのだった。
鈴
まずは皆の顔を覚えておきたいな…あ、またあの可愛い娘と目が合った…なんなんだ。…へっ?なんかこっち来る…。本当になんなんだ!声をかけられたことにびっくりして、思いがけず鋭い目つきで見つめてしまう。それにしても…近くで見ると本当に可愛いな。黒髪はサラサラだし唇はぷるぷるしてる。…見れば見るほど分からん…。な、なんで俺に話しかけてくるんだよぉ…。あ!ま、まぁ確かに俺は格好良いけどな…!でもまぁとりあえず聞いてみるか、と思って疑問に思ったことを質問していく。一気に質問してしまったからか、少し戸惑った顔をされたが…一通り答えてもらったところで気がついた。「名前。」そう。名前を聞いていなかったのだ。今気が付いて聞いてみた。少しぶっきらぼうになってしまって若干自己嫌悪するが。「へ?」またもや、頓狂な声が返ってくる。可愛いな、なんて思いつつも、もう一回「だから…名前。なんて言うの?」と聞いてみた。すると即座に二つの、春の陽気に照らされて輝いた美しい琥珀色が鈴を捕らえる。眩しいな、なんて思いながら目を逸らすと「ひろ。私、夢境弥って言うの!…えっと?」「あ、俺は…椿原鈴だ。」「鈴ちゃん!よろしくね?」この頃から鈴は弥に、弥の瞳に…敵わない。
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弥
現在時刻は十三時。あの後、鈴とLINEを交換してスタンプを送りあった。可愛らしいゆるめの狐のスタンプを送られて、弥もお気に入りのゆる〜い狸のスタンプを送ったところで会話は終了していた。偶然にも弥と鈴の降りる駅は一緒だった為、そのまま二人で談笑しながら心地良いリズムを奏でて揺れ続けるシートに身を任せる。お互いの身体の触れ合っているところだけ、いやに熱く感じたことを覚えている。その後、二人とも名残惜しくも別々の帰路について、今に至る。「明日一緒に学校行かん?」震える指で送信ボタンに指をあてがう。明日への期待で眠れない夜の帳。明日だけじゃなく、これから三年間ほぼ毎日一緒に登校することになるとは…まだ本人達ですら、知らない。
閲覧ありがとうございました!続きも沢山あげていきたいと思っているので、よろしくお願いします!