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第1話 真紅の魔女③

「うわ、女のケンカ。やばいな」

ジャンヌとエリザベートの戦いを見て、アキセは呑気に呟く。

「余裕があるな」

「まあね」

 アキセの手元が光っていた。

 クラークは、視線を下に向ける。

 アキセの指に指飾りに甲に宝石をはめているグローブをつけていた。手の下にいつの間にか描いていた陣が緑色に光り出す。陣から土の柱が伸び、クラークの顔を勢いよく当てる。

 その勢いで赤い槍から手が離れ、クラークは顔を抑えながら後ろへ下がる。

「あ~痛かった~なんて」

アキセは立ち上がり、腹に刺さった赤い槍を引き抜く。

 クラークは、大きく腫れた顔でアキセをにらみつける。

「お、いい顔になったじゃん」

 アキセは、クラークを見下ろす。

 おかしなことにアキセの腹から血が流れていない。

「あ~、これ」

 アキセは察したのが、服を上げる。腹には小さな魔法陣が光っていた。

「小細工な・・・」

「この陣はな。どんなに刺されてもすり抜ける陣なんだ。だから無傷でわりいな。ちなみに便利そうでもさすがに魔女レベルだと『呪い』の力量に負けて使えないんだ。つまり、君のような弱っちい魔族には効くってことなんだ」

 アキセは軽蔑する。

「じゃあ、俺たちもやりますか。おまえに痛めつけたいところだ」

 不適な笑みを見せるアキセは、銀色の銃をクラークに向けていた。



 ジャンヌとエリザベートの戦いは互角だった。

 魔女は、『呪い』を元に不可思議な現象、能力にする力『呪力』を持っている。

 エリザベートの『呪力』は吸血鬼(ヴァンパイア)と似て、血を操る。鞭のように血を流したり、剣のような形に血を固めたりとジャンヌに攻撃してくる。

 しかし、ジャンヌには効かなかった。

 『呪い』でできた血であれば、ロザリオの光の刃に触れただけで、浄化され、消えていく。その繰り返しが続いたのか、エリザベートに変化が起きた。

 おそらくこの魔女は、『呪い』だけでなく血も力の源なのだろう。血の使いすぎたのかエリザベートは、顔や手の皮が紙のように破れ、しおれた肌を露にする。

「あらあら、化粧落ちているわよ。それなりにババアだったのね」

 ジャンヌは、見下して言う。

 魔女の弱点は、『呪い』の消耗か『光』による完全浄化。又、魔女によっても弱点は変わる。今回の魔女は、『呪い』の消耗以外に血も力にしていた。

 ジャンヌもかなり消耗している。いい加減決着をつけようとしたいところだ。

「貴様も消耗しているくせに、口数は減らない小娘が!」

 エリザベートは手を大きく振り、血を霧のように広がり、周囲は真っ赤に染めた。

 鼻に突き刺さるように臭う。

「ここまできて」

 血の霧も『呪い』で作ったモノ。白い炎を放てば消える。実行をしようとした時だった。

 血の霧からブラッグドッグが牙を向いてくる。

 防ぐよりも早く、ブラッグドッグが3匹、ジャンヌの腕、肩を噛みつく。その勢いで地面にあおむけの状態で倒れ、ロザリオを離してしまう。

「やっと、動きが止まった」

 血の霧が道を開くように左右に開き、エリザベートが姿を見せる。

「殺すなよ」

 見下すエリザベートは、ブラッグドッグに指図する。よく見れば、エリザベートに刺した鉄の槍を引きずる。

 最後はエリザベートの手で殺したいのだろう。

 ジャンヌの目の前まで近づく。

「さっきのお返し」

 エリザベートが鉄の槍を持ち上げる。

真紅(しんく)の魔女エリザベート・パートリー。生意気な小娘を殺した魔女の名よ」

 エリザベートが鉄の槍を刺すが、ジャンヌはこの瞬間を待っていた。

 エリザベートが近づくこの瞬間を。

 ジャンヌは体中から白い炎を生み出す。呻き声を上げながらブラッグドッグを包む。

「まだこんな力を・・・まずい・・・」

 エリザベートは離れようとしたが、ジャンヌの体中から生み出す白い炎がエリザベートの手足をとらえる。エリザベートの手足から焼ける音がし、手から鉄の槍を離す。『呪い』を『光』が浄化している。

「捕まえた!」

 ロザリオを拾いながら立ち上がったジャンヌはやっと獲物がつれて喜ぶハンターのような殺意を見せる。

 白い炎は徐々にエリザベートの体を蝕んでいく。

「あああああああああああああ!」

 エリザベートは白い炎に燃え上がる。

 ジャンヌは、ロザリオに光の刃を作り、エリザベートに刺しに向かう。

「小娘えええええええ!」

 白い炎から老けた顔を露わにしたエリザベートは、右腕で白い炎を血で払い、血の刃を作る。お互い向かう合う一騎打ち。

エリザベートの刃が届くよりも、ジャンヌの白い刃がエリザベートの胸を貫く。

「消えろ」

 ジャンヌは、死んだような目を鋭くする。ロザリオを通して白い炎を注ぎ、エリザベートは白い炎に包む。

「ああああああああああああああああああああああああああああ」

 どこまでも続く叫ぶエリザベートは、白い炎と共に消えていった。



 突然の叫び声。

クラークは声をした方向に向く。

 そこには、エリザベートの姿がなく、ジャンヌが立っていた。

「貴様!」

 クラークはジャンヌに怒鳴る。

 その時、足に衝撃が走り、体制を崩して倒れる。振り返れば、両足を失い、血が流れている。クラークは急いで起き上がろうとしたが、額に銃を向けられていた。顔を上がれば、アキセが悪意をこもった笑みを見せる。クラークに一滴の汗が流れる。

もう決着が決まってしまった。

「ばあい」

 一発の銃声が鳴り響く。



「あ~、痛かった~」

 ジャンヌは、疲れ切ったように言う。

 魔女を倒したことに気が抜けて、片膝をつく。

エリザベートを誘いこむとはいえ、ブラックドッグに噛まれた痛みはきいた。肩に手をかける。肩と腕の傷口からじんまりと血が流れる。

雑な戦いをしてしまった。エリザベートを捕えるにしても身を挺してやるべきではなかった。今回のように体を張っていたら、身が持たない。次からは慎重に冷静に考えなければと反省する。

 今はムカつくなしんくの魔女エリザベート・パートリーを倒したことに肩を軽くする。

「お、終わったのか」

 その一言で一気に肩が重くなった。まだ問題が残っていた。

「なんだ。俺の手番なしか~」

 何食わぬ顔で近づくアキセに治まったイラ立ちが増す。立ち上がったジャンヌはロザリオをアキセに向ける。

「あんたに質問が山ほどあるの」

 ジャンヌはにらみつける。

「魔女を倒した後で、疲れているでしょうに」

「そりゃね。あんたが私を魔女に売って、拷問されたから余計にね!」

 眉を吊り上げる。

「そもそもあんた本当に目的は何?」

 アキセは息を吐く。

「だから何回言わせるんだよ。聖女様と組みたいって。まあそれなりに面白いもの見れたし。良しとしよう」

「良しとしない」

怒りを込める。

「あの時手を握ってから―」

「イタタタタタ」

 言いかけたところでアキセは腹に手をあて、大げさにいう。

「あ~、もう少しいたいけど。俺今ケガしているから」

「ウソつけ!」

 ジャンヌと比べて怪我した箇所は見当たらない。ムカつく。

「まだ今度で」

「また今度って!」

 急に風が吹き、腕で顔を覆う。風が止んだ時には、アキセの姿はなかった。

「ち!逃げやがった」

 一人になったジャンヌは、悪態をつけながら呟く。



 一夜明け、傷の手当てしたジャンヌは森の中を歩いていた。

「もう~疲れた。」

 今回の魔女狩りに振り返る。

 アキセという変な男が現れ、すぐに裏切ったと思ったら、助けに来たりとして、よく分からない男だった。

 それにもう一つ。

 ジャンヌの『光』を奪ったあの時の瞬間。

 知っている限り、魔術を使ったとしても、人間ではできる技ではない。それになぜか急に『光』が戻ったことにも疑問が残る。

 問い質そうとしたが、すぐにアキセが消えたしまった。

 謎が残ったまま、考えても答えが見つからない。とりあえず、またあとで考えよう。こんな広い世界にまだ会うとは限らない。もう2度会いたくないと心から祈る。

「さて、のんびり行きましょうか」

 ジャンヌは前向きに歩く。

 そんな彼女を高い木の枝に寝転びながらアキセが見ていた。

「ふ~、おもしろいやつ見つけたと」

 アキセはにやっと笑う。


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